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【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第4話

 やっと店を出た頃はすっかり辺りが暗くなってきており、携帯で時刻を確認すると8時過ぎになっていた。

 成美は一応門限を七時半と決められてはいたが、母が何故か必要以上に理解力があるせいでそんなに父親からも怒られた事がない。

 或る日はついつい話に盛り上がって帰宅したのが9時前になってしまったのであるが、恐る恐る家に帰ると誰からも何も言われずに拍子抜けした。

 小さい頃に遊び過ぎて遅れて帰ってきた時は、まるで誘拐された後に解放されたかのように母親に大袈裟に泣かれ、父親からは大声で怒鳴られてなんとも言えない気持ちを味わったのを覚えている。

 しかし歳を取るに連れ、母親は自分の若かりし日に成美を重ねて見ているのか何も言わなくなり、むしろ父親の前ではアリバイを作って共犯者となっている。

 だから9時を過ぎた時も母親の証言で、成美は友人の祖母のお見舞いに隣町まで行っている事になっており、何も言わなくともお咎め無しと相成ったのだ。

 もっとも自分の部屋に入る前に母親に捕まり、「借り」を一つ作ったから今度親戚のおばの家におつかいに行くよう命令されたのは流石に面食らった。

 たぶん母も昔は同じように両親を困らせてきたのを知っているし、成美が度を越えて悪い事を出来ないのを分かっているのであろう。

 それはそれで親として子供に信頼感を置いていて或る意味では鑑であると言えるが、単に過信して放置されてるだけのような気もしてならない。

 劇的な人生を送る人達はなんらかの形で家庭環境に問題があるはずだから、平凡だが実直な父親と物分りの良い母親に育てられているのであれば、その殻を破って波乱万丈な人生を歩むのは到底無理なのであろう。

 だからかもしれないが心の奥底で未だにお姫様願望が強く、王子様の変わりに孤独なホストやアーティスト志望の男性が現われるのを本気で待っている。

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