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【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第1話

 「それでね、安田先輩と美香が誰もいない時間帯の部室から、こそこそ出てくるところを見ちゃったのよ」

 仲間内では一番の情報網を誇る澤口は、周囲の注意を充分に惹いた後で勿体振りながら取っておきの情報をみんなの前で披露していた。

 すると連鎖反応のように、みんな口に手を当てたかと思うと一様に「エ――ッ」と落胆を示す反応をし、ついつい早瀬成美もそんな事には微塵も興味は無かったが同じポーズを取って連帯感を維持した。

 安田先輩は仲間内のみならずちょっとした学校の有名人で、フランス人の祖父を持つクォーターであるという眉唾物の澤口の情報が信じられるくらいの美形で、誰か芸能人の話題が出た場合、安田先輩以上か以下かでそのルックスを判断する、いわゆるバロメーター的な存在であった。

 確かに非の打ち所の無いルックスと多少斜に構えた態度は多くの女子を魅了するのに充分な材料ではあるが、成美には正直そこまでのめり込む事が出来ない人物だ。

 別に成美の理想の男性像がずば抜けて高い訳でも無く、かといってマニアックな路線が好きな訳ではないのであるが、大勢から愛されている人物を同じように取り巻くだけなんて平凡な生き方だと思っているのだ。

 澤口は得意げな顔で安田先輩と美香の関係をさも知っている風に話しているが、きっとそれは半分くらいは想像の産物なんであろう。

 なんだかあまり興味が無い話ではあるが、とりあえず最新情報として仕入れておかないと、後々話題についていけなくなって面倒がられるから聞いておく。

 成美は本当の自分の姿を誰も知らないと確信していた。

 みんなと打ち解けている自分を演じているけど、本当は孤独で繊細な存在で有る事を。

 でも実は中学時代にアニメオタクの川口美智子とガリ勉の白木久美が親友だった過去の呪縛からやっと解放され、携帯小説のようなヒロインに近付く事を夢見ていたのだ。

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