メシア・イン・ヘル
彼は、罪を背負って死んだ。
罪を負った人間は地獄に堕ちる。
地獄には悪魔がいる。
悪魔は全ての罪の根源である。
彼は全ての罪を滅ぼすと決めた。
だから彼は十字剣を振り下ろす。
全力で振り下ろされた十字剣は悪魔を縦に両断する。悪魔はドチャドチャと臓器を撒き散らし右半身と左半身はそれぞれ倒れた。
地平線が見える。彼の足元の山は地獄全ての山より高いからだ。その山は悪魔の死体で出来ている。
地平線の内側に悪魔は居なくなった。しかし向こう側にはまだいる。地獄は無限である。
死体の山を歩み降りる。
彼はかつて俺と共に愛を説いた。そして今は遍く全ての悪魔を殺し人類救済を成し遂げんとするひとりの狂った人間だ。
太陽も雲も風も花も月も星も空も森も川も海も鳥も虫も居ない、不毛の荒野を彼は進み続ける。
彼は止まらない。全ての悪魔を殺し、人類の完全救済を成し遂げるまで。
最後の審判は既に降った。
悪魔死すべし。全て滅ぼすべし。
文字通りの罪滅ぼしである。
……後いくつの山ができた時、彼の罪滅ぼしは終わるのだろうか。
俺は銀貨を弄ぶ。あれから2千年ぐらい過ぎたが、ここには時間がないのでそのきらめきは永遠である。いくら悪魔の血で汚してもそのきらめきは消えやしなかった。
彼も同じだ。きらめきは消えそうに無い。
本当に気持ち悪い。
「今度の口づけは俺からだ。イスカリオテのユダよ」
『30枚の銀貨』はこの俺、イエス・キリストのものだ。
【続く】