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地機宇人


人類は7日で滅んだ。

銀河連盟使節によるスタァ砲により、3割が蒸発した。これが1日目である。

地底皇帝の無頼絶殺刀により、3割が粉微塵となった。これが2日目である。

マザーコンピュータのハード・ストライキにより、3割が渇き死んだ。これが3日目である。

残りの1割は互いに殺し合い、滅んだ。これが4、5、6、7日目である。

この詩は、この星に住まう者なら誰でも知っている
……のだが、その、うん、問題点が多い。

・『地底皇帝』は差別用語である。正しくは『地球皇帝』である。
・マザー・コンピュータが3割を殺したと書かれているが、正しくは5〜8割であると言われている。スタァ砲と無頼絶殺刀で負傷した人間に医療品と称して致死毒を盛ったからである。(スタァ砲と無頼絶殺刀で即死した人間は意外と少ない。)
・この三者はタイミングを合わせて来たように書かれているが、ガチのマジで偶然である。
・残りの1割は確かに滅んだと言えるが、正確には0.999割程度である。動物園に行けば普通に見ることができるし、街にもたまにいる。
・この詩を書いたのは人間である。
・私も人間である。

三者曰く、人類をここまで殺すつもりはなかったらしい。せいぜい3,4割殺してから脅して各々の目的(銀河連盟への参加同意、地上への入植、自然環境の保護)を達成する腹づもりだったと言われている。

まぁ、そんなわけか、彼らはかろうじて生き残った人類には優しかったと思う。そのおかげで私は工場ロボットの社宅の一角に飼われつつ、こうして街に出られている。中には地球人(地底人は差別用語であり、そんなことを言ったら3時間後に『矯正プログラム』へ放り込まれる)に溺愛されて室内飼いされている者もいるそうだが。

子宮と卵巣を摘出されている以外は私の体は私のままだ。変な洗脳とかもされてないし、動物実験みたいなこともされてない。はずだ。多分。

交差点で信号を待つ。彼らは人間が作ったものを結構流用している。電線然り、線路然り、道路然り、水道然り、言語然り……
まぁ使うヒトが変わったので多少は変わっていると思う。右側にはメカナム・ホイールの足回りにヒト型の上半身が付いた品出しロボット、左側には虹色の髪と目を持つ3m近くの地球人、後ろにはヘビ(ヘビそのものは見たことがない。)型の街路監視ロボット。向こう側には小型のクルマ(クルマとは昔の移動用デバイスである。博物館で見た。)型の美化ロボットが数台。彼らは物珍しそうにこちらをチラリチラリと見る。特に地球人の紳士は私が信号をちゃんと見れているか不安そうだった。猫じゃあるまいしちゃんと見れてるよ。

そこそこ早い時間帯のためか、輸送機の往来も少なかった。青になった信号を見て横断歩道を渡る。何度か横断歩道を渡ったり角を曲がったりすると……

人間センター

小ぶりな建物とテカテカと蛍光色に輝く看板が見える。中に入り、首から下げている電磁カードをトースターじみた機械に差し込む。ピッと音が鳴ると、奥の扉が開きロッカールームへと通される。

ロッカールームには今日は誰もいなかった。
自分のロッカーから作業服(Sサイズ)と器具バック、水や食料品を取り出して、入ってきた方とは反対側の扉から出る。

そこには、かつての人間の住宅街が広がっている。
小高い丘の上であるここから見渡しても、山がかすかに向こうに見えるだけで、他は全て灰色である。
変革前の世界のものらしい。今でもこんなに人間がいたなんて信じられない。

私の今週の割り当てD-6ブロックである。簡易自動移動通路に乗ると、後ろに小さい飛行ドローンがついて来る。
この子は私の監視を兼ねると共に危険から守ってくれる。一度物陰に潜んでいた野良人間に襲われかけたが、粉微塵にしてくれた。

私の仕事は家屋の電気や水道などのライフラインの確認と野良人間への勧告である。

D-6ブロックに着いた私は、前回の続きから始める。小ぶりなマンションの最後の部屋からだ。

マンションの敷地に入る。駐車場らしき場所には雑草が生茂り、枯れた街路樹にはクモの巣があちらこちらに張られている。

ガラスが抜け落ちた自動ドアを抜けて、エレベーターを目指す。屋内は意外と綺麗であり、掃除さえすればまだまだ住めそうであった。この辺り一帯は人間だけに効く自然に優しい毒ガスで一掃されたそうだ。街路樹が枯れたのは人の手入れが無くなったからだと先輩は言ってた。

未だ動くエレベーターに乗り込み、3階を目指す。
この殊勝なエレベーターは律儀にもドローンを待ってくれた。
このエレベーターに自我があるのかは分からないが、あったとしたら何を思っているのだろうか。というかドローンと話でもしているのだろうか。(ロボット間の通信は基本電子データのやり取りであるため、側から見てもおしゃべりしているか全く分からない。)

私を育てているロボット達は人間が滅んで悲しんでいるのか、それとも喜んでいるのか。私のことをドローンと笑い合っているのだろうか。そんな事を考えていた昔は、胸がキュッとなり涙目になっていた。

今では、別にそこまで考えていないということが分かっている。

基本的に彼らロボットは無関心・無感情を良しとする。自我の発明により感情を得たとは言え、行動に移すほどの強い心を持たないのである。地球人とは対称的だ。(宇宙人は滅多に見ないのでまだ分からない。)

チンと拍子抜けするような音が鳴り、扉が開く。
真っ直ぐな薄汚れた白い廊下と、左に並ぶ年月が経った扉の数々、右には錆びに錆びた握るのも躊躇われる手すりである。

扉を4つすぎて、5つ目の扉の前に立つ。
ドローンに目配せすると、彼(彼女?)は扉に張り付き部屋内のスキャンを開始した。

シタイ……ナシ
ノラニンゲン……ナシ
ヤセイドウブツ……ナシ
トラップ……ナシ
ドクガス……ナシ
ユカヌケノキケン……ワズカニ アリ


ドローンの背中のディスプレイに結果が表示される。(異種間の情報伝達は基本的に人間の言葉が使われる。何故だろう?)
下までスクロールしたのち、一番下に表示された確認ボタンをタップすると、カシャンと音がして扉が開く。

むわっとした澱んだ空気が流れてきたので、念のためガスマスクを付ける。
部屋の中は綺麗だった。
もちろん、ホコリとかはたまってるけど、モノの整理というか、モノの数自体が少なかった。
こうなると私の仕事は少ない。

キッチンに行き、ライフラインの確認。
ぱちとスイッチを押すと、蛍光灯が付く。
電気、○。
クイッと蛇口を捻ったが、水は出ない。
水道、×。
ガスの類は………見当たらない。
ガス、ナシ。
その他いくつかを確認し、掃除などをする。

1時間程度で全て終わり、終了報告をドローンに伝え、玄関から出る。
その時、靴箱の上の倒れていた写真立てに目が行く。
2人の大人の男女、2人の小さな男の子、ペットの猫。
このマンションの下で撮られたみたいだった。
みんな幸せそうで、仏頂面の猫も照れ隠しにしか見えなかった。見ているこっちまで笑顔になる。

この人たちはみんな死んだのだろうか。多分そうだろう。寝ている間に毒ガスがやってきて、眠りのなかで死んだのだろう。

部屋内のロボットに大量のタンパク質がゴミとして分解処理されたと記録されていた。

私には人間の家族というモノが分からない。私の家族は15のロボットと1の地球人だ。人間との家族なんて微塵も知らないし、考えたことすらない。だから、この気持ちがどういうものなのかもいまいち分からない。分からない事だらけだ。

扉を閉め、ドローンに鍵をかけてもらった。

***割愛***

私はベッドに入り、電気を消す。
ほどなくして、意識はとろけ、健やかな眠りへと至った。」

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僕は目を休ませる。この負荷に耐えきれない。
目の前のコイツはそんな僕を見てもケロリとしていた。
「長いよ」
「そうですか」
「何ページあるか分かってるの?」
「██ページです」
頭が受け入れるのを拒否してる。
「毎月毎月言ってると思うけど、町の広報誌に載せる量じゃないよ…。1、2ページで良かったのに。しかもこれ、小説でしょ?」
「これが1番良いと思って……」
いきなりしおらしくなりやがって。いつものことなのにそんなに泣きそうになるんじゃないよ。
「………冒頭だけ載せるよ」
「でも…」
「でもじゃない。この前なんとか載せようとして要約させたら君、生活回路の動作不良起こしたじゃん」
ウィィィンとパルス・モータの動作音が鳴り、彼が項垂れる。(ヘビが上げた頭を下げる感じだ。)
「僕だって載せてあげたいけど、この量は無理だよ。怒られたくない」
チラリと窓側に座る上司を見る。あいもかわらず憎たらしいほどのピンク色の健康な触手だこと!あんなステレオタイプな火星人が実在してたって誰が信じるっての。
「………」
表情がないはずの彼が落ち込んでいると分かった。
「でもまぁ、人類との交流による自我獲得プログラムは順調ってことね」
すぎるぐらいだ。
「また文芸コンテストに応募すればいいさ。何もここだけが発表の手段じゃないよ」
「はい」
「期待してるよ」
僕は去る彼に青の蛍光色の手を振り、せめてもの健闘を祈った。この祈りは18回目。次こそは届くと良いな。

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帰路

2-10-7-a工場のa-5窓部に【彼女】を確認

眼部光を[C=(255,0,0):T=500]で点滅

【彼女】は自機に、笑顔/大きく手を振る【かわいい】

自機は【彼女】に[Dance=Ver,Snake]を実行

【彼女】の【まばゆい】【きれい】【うつくしい】笑顔を確認

目的継続[【彼女】のプレゼン:重点【いとおしさ】]


長期的未解決問題:1

【.......................................】

【ぼくは彼女のなまえを】

【はずかしくて聞けていない】

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