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"想定外"の境界線「大脱出」(DMM TV)

※もちろん全ネタバレ
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1話 期間限定公開中


藤井健太郎「大脱出」最終回がとても面白かった。佐久間宣行「インシデンツ」と対をなすDMM TV肝いり番組。

 首より下を土に埋められたクロちゃん、お菓子の家にトム・ブラウン、公衆電話とクイズの部屋にみなみかわとお見送り芸人しんいち、ラジオと真っ白の部屋に岡野陽一と高野、VTRを見るバカリズムと小峠。

 閉じ込められた4組が脱出に奮闘する4話までは少々過激な水曜日のダウンタウンだったが、全員が脱出した5話目以降の後半戦は展開予想が難しい新鮮さ。
閉じ込められた部屋でのアクションに比べ、対象が自由に動けるようになると想定すべき要素は跳ね上がる。可能性の枝分かれを計算しつくす制作陣が用意したもので使われなかった仕掛けがどれだけあるのか知りたい。
これを作るのにどれだけの思考実験があったのかを考えると、見終わった後も想像膨らむいい番組だった。(最も調整が難しく現実的な問題だったのは時間読みだろうけど)

 画力はクロちゃんの状況が圧倒的だが、クロちゃん同様”はいはい、水ダウね”と理解したつもりの視聴者に最初に違和と快感をもたらしたのは岡野・高野ペアではなかったか。
この手の企画で見ることのない暴力と破壊が解答として受理される様は視聴者の思考リミッターも一つ解除するもので、ラストシーンを唐突なものに思わせない効果にも繋がった。
しかも、SFチックなセットの床を土まで掘り起こした脱出は、明らかに古い建物に閉じ込められているトム・ブラウン、松竹ペアとも同じエリアにいると示す接続面でのカタルシスも与えていて、後半戦への惹きとしても力強く機能していた。



現代のお笑い芸人は優秀過ぎる、どうなっても安心して見れてしまう。
混乱と焦燥で錯乱させることでその前提を覆しにかかる本作は、何度も期待と落胆を繰り返す。西村の不時着や井口の加入などの中間イベントがストーリー進行にそこまで影響しないのも、イスラエル人による暗号解読が無意味なのも当然。機能は最低限、不発に落胆する芸人のガチな心情を引き立たせる役割でしかない。
カットされつくしているだろうが、彼らが村を徘徊している間に流れる時間は途方もない長さだろう、蓄積された寒さと苛立ちが表情や語気に現れる場面はいくらでも見れるし、こうした状況に晒されたトム・ブラウンみちおはピカイチ面白い。”対処・解決・進行”などのために犠牲を選択するまでのスピードが常人離れしたサイコパス感と、情に厚い性質が同居しているみちおが、電流のリアクションを辞めたり、頑張った誰かを抱きしめていたりする様子をつい目で追ってしまう。途中合流でリミッターが外れ切っていない井口が“扉に入ってしまう”をやれる余力がある様子との対比も面白かった。

 最終的に鍵探しゲームを放棄して車で扉を突き破る結末(岡野が持つカメラの映像はバラエティで見たことない恐ろしさを感じる)に彼らが至ってしまったことが「大脱出」自体の成功だったと思う。負荷をかけ続けられた芸人はルールや見え方を気にせず、限りなく素に近い状態で行動する説。

衝撃的な結末は番組の締めにも一役買った。最後まで明示こそされなかったが、モニタリングしているバカリズムと小峠も閉じ込められた"脱出する側"であろうことに視聴者は気づいている。そのことのネタバラシだけだと弱い状況に、正攻法での無理ゲーを用意することができた。(指定された枠に入った文字を並べて単語を導く従来のクロスワードパズルではなく、”全て埋める”なのは無理矢理感があったが)

久しぶりにめちゃくちゃ笑った。

吉本という単語で出演者を表するのを何回か見かけたけど、この番組に関してだと、緊張感や不和の要素が生まれる可能性を残した座組の印象が先行する。さらに、分析型じゃなくて情緒型っぽいメンバーが集められている。
ルールやミッションと対峙したときに何かを強く期待する、自分のなかの"非情緒型"芸人二代巨頭が野田クリスタルと春日俊彰なのだけど、水曜日の椅子取りゲームと今回でみちおが大注目の存在になった。

 余談。
見終わった後の想像で一番気に入っているもの。
登場人物で唯一非芸人であるイスラエル人役の男性がうっかり日本語を(もしくは英語でさえも)話してしまい、彼の言葉を翻訳するためにAIスピーカーを掘り起こす展開が消失し、無理ゲールートに突入していたのではないか。
それを芸人たちが強行突破してたらアツい。

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