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カジサックが目指すものとジュニアの「照れ」ワーク

4月から千原ジュニア・小藪千豊・フットボールアワーの四人によるYouTubeチャンネルが開設された。
YouTubeで『ざっくり』が復活したのだ!!

2011年10月から2013年3月まで放送されたテレ東の深夜番組『ざっくりハイタッチ』(旧名:『ざっくりハイボール』)は、ロケやトークがメインになるお笑い企画を、ほぼすべて実践したと言っていい。

今回の『ジュニア小藪フットのYouTube』は『ざっくり』時代のメンバーとディレクターによって立ち上がったチャンネル。コロナのせいでロケ企画はまだできていないが、トークや大喜利的発想が根底にある企画がメインのスタンスは、zoom収録や距離を開けたスタジオ収録でも過不足ない。
企画の強度も強いし、プレイヤーも強いし、とにかく面白い。(「哲学が強い」「思想が強い」「なぁーて」などのフレーズも懐かしい)

ただ、ここで繰り広げられるお笑いは、YouTubeらしさはない。TVerを見ている感覚にすらなる。
実際、チャンネル登録者数は37万人あたりで微動だにしなくなった。
いわゆるYouTuberの文脈に存在していない。幸か不幸か、「バラエティ」なのだ。

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先週『カジサックチャンネル』に千原ジュニアがゲスト出演した。


特に若年層の視聴数が圧倒的割合を占めるYouTube及びYouTuber文脈の隆興によって「古い価値観」と決定づけられたものを、ジュニアは端的に言い表した。

ジュニア「芸人の世代としてもやし、やっぱりなんかキングコングくらいと俺らって、スッゲー違う感じってすんねん」
カジサック「すごい違いますね正直」
ジュニア「今第七世代とか言うてるけど、どっちかって言ったらキングコングとか以降がその世代。これ何かっていうたら「照れ」やねん。照れがあるかないかやねん。「照れ」が美談美学としてあった時代やねん。まだ俺らは

“ネタ合わせする姿を絶対に見せたくなかったジュニア”と“絵本のページ一枚描くのに60時間かけたと照れずに言い切った西野”
“適当に遊んでるテイでテレビから笑わせるジュニア”と“過程も努力もYouTubeで見せるカジサック”
(キンコン同期でいうと、南キャン山ちゃんやオードリー若林。「生き様芸人」という言葉がちらついてしまうが、今回はYouTubeの方に話を進める)

この対談は、「共感」の力が増大した結果「照れ」や「粋」が意味を持たなくなってきたと示す好例だと僕は思う。

テレビとYouTubeをつなぎたい。
そのためにYouTube視聴者層にもっとお笑い芸人を知ってほしい。
そんなカジサックの気持ちから始まった芸人対談企画は、カジサックチャンネル開設以来の人気企画であり、すべての回に共通する特徴がある。

ビッグゲストです!と呼び込まれる芸人たちは、どちらかというと「芸人」より「MC・タレント」がしっくりくるベテランが多く、カジサックは必ず彼らのコンビ結成時や賞レースに出場していた「バキバキの現役プレイヤー時代」の話をインタビューするのだ。テレビに出始めるまでの話といっていい。

僕はここに、チャンネル開設までの1年間を研究と構想に費やしたカジサックチームの強さが現れていると思った。

若年層が占めるYouTubeにおいて「既存の内輪ノリの輸入」はタブーなのだ。
カジサック自身、キンコン梶原としての歴史や背景を捨て、0スタートのキャラクターになることで視聴者の共感や応援を獲得した。梶原時代に向かってくるアンチより、梶原を知らないYouTube視聴者によるカジサックへの追い風に賭けたといっていい。
(江頭2:50も200万人を突破したが、テレビの人でありながら「既存の内輪」に所属するイメージが全くない、もしくは、若年層に全く知られてないゼロスタートのキャラクターだったからYouTube視聴者と親和性が高かったと考えられる。こんな人はなかなかいない。)

YouTubeだって基本は内輪ノリだ。
グループYouTuberのメンバー関係がコンテンツになるのは当然だし、サブチャンネルで私生活を明かすことでSNS以上の厚みも増す。
さらに、異なるチャンネル同士でも、コラボによって構築された関係性、登録者数で示されるレベルの上下感、企画内容の近似値や事務所など、もともと独立した点であったはずのチャンネルが、視聴者が勝手に点と点をつなぐことで幾つもの星座状に意味を持つことは多々ある。

そしてそれは、数で成功具合が図れるYouTubeと相性がいい。
民放が「〇時57分」といったふうに、少しでも早く他局より番組を開始させて「チャンネルはそのまま」状態をキープさせることより、サムネとタイトルで視聴の是非を決められてしまうYouTubeはシビアだ。YouTube界隈の内輪に入って認知度を上げることは、大切な生存方法なのだ。

「商品紹介」「メントスコーラ」「熱した鉄球」「斎藤さん」「サンプリングン音声で電話」「〇万円食べきる企画」など、ブームとなった企画にみんなが手を出すのは、自分たちも大きな星座に属した点の一つだと示しやすいからであり、ブームが大ブームになりやすいのもこれが原因と言える。

オリジナルじゃなくていい。差別化は効果を発揮しづらい。
視聴者のおすすめ動画欄に載ってクリックしてもらうために似たような企画タイトルやサムネを量産する方が数につながる。


YouTubeコンテンツが、面白いものより「共有」が力を集める以上、ファンと共有しやすいのは数という目標だ。
人気に便乗するパクリ企画さえYouTuberが示せる努力の一つであり、それを「YouTubeってこういう企画をやるのだろう」と茶化して、ただ真似てみる「外の文脈を背負った人間」には拒絶されてしまう。


つまり、ゼロからなりあがる過程を見せることも、成り上がっていく術の一つであるYouTubeでは、ジュニアが信仰してきた「成り上がるのなんて興味なかったんですけど、やりたいことをやっていたら勝手に成功していました!」というスタンスは美談にならないのだ。


「照れ」ない世代だったカジサックは、自分から言い出せない"ネタで勝ち抜いてきた猛者芸人"に、若い世代が知らない過去の文脈を加えて共有する。
「あのときこんな大変だったけど、あのときのあれでようやくチャンスをつかんだんです!」
本来なら照れて話せない過去をインタビュー形式で語らせることで、テレビに興味ない世代へ再認識させる作業。1人でウィキペディアを更新させるようなものだ。
なんて優しいんだカジサック。

家族動画路線で老若男女にバランスよく支持される体制を叶えた彼が先輩芸人を招くのは、もう自分のチャンネルのためではないのだろう。

UUUMと吉本興業が資本提携をするなど、今後「カジサック以降」の芸人YouTube時代が始まるかもしれないが、少なくともこれが、カジサックによるベテランサルベージが行われるにあたる現在であることを覚えておきたい。


その一方「なんとんく遊んでるんだけど、真剣(勝負)」と言うジュニアが引き継いだ芸人像への信頼度はテレビタレントやYouTuberの比じゃないし、ジュニアが提案する企画に不安と緊張感を匂わせながらヘラヘラと笑いを生み出すおじさん四人のチャンネルは、
最高なのだけど。

(オケタニ)


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