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20時ドラッグストアにて

私はメイクを覚えた時からずっとベースメイクはマキアージュと決めている。
それまでは化粧水や乳液すらも学生らしくないからやめろと言われていたのに、学生という肩書をはぎ取られた瞬間
「メイクをしないのは社会人女性としておかしい。メイクは礼儀である」と言われる理不尽に耐えかね、
目についた化粧品のコーナーの優しそうなお姉さんに相談をしたのがきっかけだった。
基本のキの字もわからない、お世辞にも可愛いとは言えない、今後客になるかもわからない子供に丁寧に丁寧に教えてくれたことに感動して以来、
ずっとベースメイクはマキアージュを使う事にしている。

ある日の帰り道「そろそろパウダーが無くなるんだよな」と思い出し、
片道1時間以上かけて街中へと繰り出した。
田舎なのでドラッグストアに行くだけでもそれだけ時間がかかるのだった。

お目当てのファンデーションを手に取って、色の番号も確認してレジへ行った所
レジの店員から「マキアージュ!つかってるの?」と声をかけられた。
そら買ってるんだから使うだろうよ。と思ったものの
「使ってます」と答える。この時点で何かおかしかった。
スマホのアプリでポイント定時画面を開いてカウンターに置く。

「随分高いの使ってるのねー
 同じ資生堂の商品なんだけどね、こっちはずっと安いの!」

まずタメ口やめろや。
言い返したいところではあるけれど、私も接客業。
年配の店員は特に客にタメ口を聞いて距離を詰める戦法で戦う事もあるのは知っている。昔の同僚にもいたわ…。
相手に悪意があるかもわからないし、とりあえずいらいらはするけれど
ぐっと我慢をして様子を見た。

「あなたみたいな若い人はこっちを使うのよ。
 こっちはやすいの!資生堂だし!
 今の時期は日焼け止めいらないわ!っていう人ならこっちよ!
 こっちはもっとやすいの!」
「はぁ…」
「見たところ無駄に高いの使ってるみたいだし
こっちを買ったら今ならサンプルの美容液もついてるの!こっちを買いなさいよ!!」

今無駄に高いって言ったか?自社で売ってる製品にそんな口きいていいんか?
あっけに取られていると、こいつは押せば買うぞと思ったのか
更にぐいぐいと責めてくる

「お金がもったいないわよ!こっち買いなさいよ!
買う?買うでしょ?日焼け止め入ってる方買う?入ってない方買う??」

なんか読み取り機を手に取ってもうバーコード読み込みしようとしてる!!!
慌てて私は「いらないです」と意思表示をした。


提示されたインテグレートは、確かに資生堂が出している
安価なシリーズ…なので品質は悪くはない筈なんだけど
以前ちょっと試しに使ってみたら肌に合わなくてすぐに崩れてしまった。
インテグレートが安くて悪い製品と言いたいわけではない。
いい製品なんですよ。ただいい製品でも肌に合わないものを使うわけにはいかないってだけで。

そのなれなれしい店員がそのことを知らないのは当然なんだけど
「そっちは無駄に高いからお前には合わない」と言わんばかりの販促で
商品を買う気になるかと言えばならない。
どうせなら「こっちは今人気なんですよ、試してみませんか?」とでも言われれば少しはちょっと安価だし買ってみようかな…とおもうだろうに。

買わないと意思表示をしたものの、店員はきょとんとしている。
「どうして?こっち安いしサンプルついてるのに」とカウンターに乗せた商品は隅っこに追いやられ、インテグレートの商品をど真ん中に置かれている。
いやだから買わんて。
ちなみに「以前使ったけれど肌に合わなかったので買いません」と伝えても
「そんなの今はわからないわよ!!!!」と返された。

「買いなさいよ」「いりません」「なんで?」「肌に合わないので」の問答を続けていると
背後から咳払いが聞こえた。いかにも仕事帰りのおじさんが
何を無駄話してんだサッサとしろやと睨みつけている。私を。
私を!??私だってさっさと会計済ませて帰りたいが?????
それを見た筈なのに店員は会計をしてくれない。
「インテグレート買わないと帰れないドラッグストア」
薄い本でたまに題材になる「セ〇クスしないと出られない部屋」の亜種みたいなものだろうか。
後ろの人にも迷惑だし、店内には「なんかあそこごたついてるな、落ち着いたら会計に行くか」と様子を見ている人もいるかもしれない。
ちらりと画面が消えかけているスマホの表示を見ると、他のドラッグストアはもう閉店するかしないかの時間である。
もうドラストで買うのは諦めてamazonか何かを使うか…と
「もういいです、他所で買います」と言いかけた時、
目の前から舌打ちが聞こえた。舌打ち!???
驚いて店員を見ると明らかに不機嫌そうに眉をしかめた店員が
渋々マキアージュのパッケージのバーコードを読み込んでいた。
〇〇円とぶっきらぼうに告げられた値段をぽかんとしながら支払い、スマホと商品を回収して店を出る。
そう言えば袋はいりますか?とか聞かれなかったしポイントも読み込んでもらえなかったな…。
とあっけにとられたまま帰路についた。

マキアージュ使っちゃいけない顔なんだなぁ…私。
どうせ誰も見てないしどんなの使っても舐められ不細工顔は変わらないし
メイクやめるかな…と家に帰って少し泣いた。
ひとしきり泣いて夜が明けて、いやあいつの接客がおかしいんだわ。
弊社でやったら刺されるぞあれ⁉と思い直したものの、
やはり思い返すと怒りと悲しみに襲われる。
とりあえずあのドラストでは二度と買い物しない事を決めた。


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