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「笑える革命」に、関わっていきたい。

3月23日に、「注文をまちがえる料理店」や「deleteC」などの企画で知られる小国士朗さんの書籍が光文社から発売される。タイトルは『笑える革命』。今日は、この書籍のAmazon予約が開始される日だ。

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小国さんの手掛けるプロジェクトは、「注文をまちがえる料理店」は認知症、「deleteC」はがん、その他の企画ではジェンダー、戦争などのテーマを扱っていて(もちろん社会課題以外のテーマもある)、それらはいずれも「今まで触れようとしてこなかったテーマが、急に自分ごととして思える」「しかも、関わっていて楽しいと思える」ものばかり。

小国さんはまさに、太陽のように明るく、笑いながら社会を変えていく人だ。

この本では、そんな小国さんの思考法が、「企画」「表現」「着地」「流通」「姿勢」という5つの項目にわたって、詳細に書かれている。

「伝えたいことがあるのになかなか伝わらない」ことに悩んでいる人、企画やPRなどそもそも伝えることに興味がある人、「社会課題に対する関わり方がわからないな」と思っている方などに、ぜひ読んでほしいなと思う。

今回私は、この書籍の企画と編集に携わらせていただいた。自分から「この人の本を作りたい」と心から思い、実際にお声がけをして、最後まで一緒に作りきるという経験は人生ではじめてだった。

最初に小国さんにご連絡をしたのが2019年の6月なので、実に2年半もの月日が流れたことになる。今日は、この2年半について、そしてこの本に対する私の思いについて書いてみたい。

私は幼い頃からずっと、社会的に「恵まれた」環境で生きてきた。

貧困にも無縁だったし、直接的な男女差別も受けたことがないし(今思うとあれは間接的な男女差別やルッキズムだったと気づくことは多々あるが)、学歴も悪くはない。大学卒業後は素敵な会社に就職でき、家族にも友達にも恵まれている。一度は働きすぎでメンタルダウンしてしまったこともあったけれど、幸い大事には至らずにすんだ。

現在の社会が「ふつう」とする、大枠の「マジョリティ」の中に私は存在していて、だからこそ、致命的に悩むこともなく生きてきた。私の人生は、恵まれている。ずっとそう思っているし、事実、そうなのだと思う。

でも、だからこそ、私は自分自身の人生に対して、「つるっとしている」という感覚が拭えない。

社会人になって数年が経ち、フリーランスとして活動するようになって、ライターという職業柄もあるとは思うけれど、いろんな年代の、さまざまな「心を燃やしながら仕事をする人」に出会ってきた。

世の中に対して明確な「変えたい何か」を持っていて、そのために自分の人生をかけて取り組んでいる人たち。そういう人たちは、時に苦しそうだけれど、「生きている」という感じがした。社会に対して怒り、希望を持ち、時に喜び、時に絶望をして……その努力や苦労は想像し尽くすことはできないけれど。

そしてそういった人たちは、全員とは言わないけれど、何かしらの「きっかけ」を持っている人が多かった。自分の人生で感じた、強烈な違和感や挫折、体験、感情。

誰しもに原体験があるわけではないし、やりたいことがなくてもいい、という考えには賛同する。「やりたいことがあることこそがすべて」ともさらさら思わない。その思想の表れとして、私は今、「明確な目的がないまま生まれる行為を肯定する」という意味を持つ、小さな本屋を営んでいる

けれど、その考えを認めた上でも、やっぱり私はどこかで自分の人生に対して、「つるっとしている」という感覚を持ち続けているのだった。

私はこの社会と、果たして「関わっている」と言えるのだろうか。どうやって、これから先、この社会と関わっていけばいいのだろう? そういった、「当事者じゃないことに対する虚しさ」のような感覚が、ずっと私の人生にはつきまとっていたし、今もつきまとっている。

この世の中に起きる問題というものは、意識下にあるか無意識下にあるかの違いであって、深く深く考えていけば、すべてはどこかに個々の「原体験」として眠っているはずだし、この社会で生きている限り、「まったくもって当事者じゃない」なんてこと、あるはずがないのに。

そんなことを漠然と感じ始めたのは、前述した通り、会社員として働きながらフリーランスとしての活動も始めた──つまりは社会人3年目頃のことだった。

そしてそんな時に出会ったのが、当時所属していたサイボウズという会社の自社メディア「サイボウズ式」で取材した、小国さんだったのだ。

この取材は、当時サイボウズ式のインターンをしてくれていた木村和博くんが企画してくれたもので、「多様な個性が存在する組織内で、相手のことを受け入れるためにはどうすればいいのか?」といったコミュニケーションに関する取材だった。

その時に、はじめて小国さんの「注文をまちがえる料理店」という取り組みを知った。そして、「認知症」というテーマを、こんなにも楽しく、明るく考えるプロジェクトがあったのか、あってもいいのか、と驚いた。

小国さんとFacebookで友達になり、その活動を追っていると、他にも「deleteC」という、世の中にあるCのつくプロダクトのCを消して、その売り上げの一部をがんの治療研究に寄付する取り組みをされていることなどを知った。おもしろい、素敵な方だなとますます思い、へラルボニーの松田兄弟も交えて食事をしたりと、それからも何度かお会いした。

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そうして1年ほどが経った頃、現立教大学経営学部の教授である中原淳先生の集まりで、光文社の編集者である樋口健さんと出会った。私は当時サイボウズの会社員だったけれど、複業をしているという話をすると、懇親会か何かで、「もし作りたい書籍の企画があれば、光文社で作りましょう」と言っていただいた。

そしてその時に、「作りたい本の著者」として真っ先に思い浮かんだのが、小国さんの存在だった。小国さんの考え方は、いま、絶対に世の中に広まってほしい、広まるべきなのではないかと、そう思った。そして何よりそれは、私が誰よりも読みたくて、知りたいことだった。

小国さんの手掛けるプロジェクトは、いわば「強烈な原体験がなくても、どまんなかの当事者じゃなくても、社会課題をはじめとするいろんなテーマに関わり、少しずつ世の中がよくなるための一歩を共に歩み出せる」ものだ。

つまりそれらは、私のような「強烈な原体験がない」人間でも、何かそのテーマについて考える接点となる。つるっとした人生に、少しだけ、ざらりとした手触りが加わる。

私はおじいちゃんをがんで亡くしたし、冒頭にも書いたけれど、男女差別やルッキズムなどで小さな傷を負ったこともたしかにあった。これからもそういうことはあるだろう。生きる上での傷は考えてみればたくさんあるのだけれど、何か強烈なきっかけがないと、それらをあえて「大きな声」に出して言おうとは思えない。何か強烈なきっかけがないからこそ、自分の小さな傷を隠して消して、「つるっと」生きれてしまう。特段困っていることはない、けれどもじわじわと傷つくことはある、でも、リスクを取ってまで発信はする気にはなれない──。そんな人が、この世の中には、私だけではなくもっといるのではないかなと思う。

何か強烈な原体験がある人は、その思いが強烈であるがゆえに、「怒り」をあらわにすることが多いと感じる。その怒りはとてもとても大切で、そういった怒りから生まれるものに、私自身心動かされることもある。けれども自分自身に関して言えば、言えない。怒れないのだ。言うのが怖い。自分の痛みは声をあげるまでもない、と思ってしまう。

もっと、明るく発信できる何かがあればいいのに。そうしたら言えるのに──。

小国さんの考え出す企画は、そのバランスが絶妙なのだと思う。みんながそれぞれの経験を、思いを、考えを、ついつい話してしまう。そんな明るさと楽しさとやわらかさを兼ね備えている。そうした「笑える革命」のあり方が、じわじわと世の中に広まっていけば、いろんな人が、さまざまな問題に対して、考え、話し出すきっかけになるのではないか、と思う。

そんな思いを編集者として抱き、小国さんに伝えながら書いていただいたのが、この『笑える革命』だ。小国さんの思考力や文章力に脱帽し、くすりと笑い、グッと涙をこらえ、原稿を読むのを楽しみにこの2年半を過ごしてきた。あらためて、本当に素敵な原稿を書いていただき、ありがとうございました。

装丁デザインは、尊敬するクリエイティブデザイナーの木本梨絵ちゃんにお願いした。彼女の仕事には、毎回ほとほと感動してしまう。やわらかく、楽しそうににんまりとした表紙のニコちゃんマークは、この本の性格を的確に表していると思う。「笑う」「革命」「明るい」というキーワードはあれど、タイトルがまとまっていなかった時に「笑える革命」という単語をポンっと出してくれたのも彼女であった(コピーライターとしての才能もあり、本当にすごい人である……)。

そして何より、光文社の樋口さんのサポートがないと、この書籍は完成しなかった。というよりも、そもそも樋口さんと出会わなければ、この本は生まれなかった。書籍づくりに関して素人な私にいろいろと教えてくださり、いつも丁寧にご対応いただき本当にありがとうございました。

私はできるだけ「笑える革命」に関わっていきたいし、もし何か自分に伝えたいものが生まれた時には、そんな革命を起こしたい。そうやって、少しでも「手触り」を感じながら、この人生を歩んでいきたいと思う。

さてさて長くなりましたが、この書籍は3月24日に発売です。Amazonでの予約数が、書店さんからの注文にもつながり、結果的に多くの方に届いていくきっかけとなります。ご予約、どうぞよろしくお願いいたします!

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ありがとうございます。ちょっと疲れた日にちょっといいビールを買おうと思います。