見出し画像

『あいのり』と私と、ほんの少しの気まずさと。

「はじまりと、途中と、終わりの一文が決まった文」 を、8人で書きました。

書き始めは「『あいのり』かよ」、途中に入れるのは「膝と膝は偶然にはあたらないと思う」、書き終わりは「あぁ、またやってしまった」です。

ほかのメンバーの文章は、こちらから。
----------------


『あいのり』かよ! また、あいのりの話題かよ!

そう思ってふつふつとしている自分がいた。あいのり全盛期の約10年前、私は15歳、中学生だった。

あまりテレビを見ない家庭に育った私は、学校で繰り広げられる、その『あいのり』とやらの話題についていけず、なんとなく心細い思いをしたことを、今でも覚えている。

「昨日のあいのり見た?」「見たー!!あのシーン、ヤバかったよね!」

見てねえよ、あいのりってなんだよ、桃って誰だよ、恋愛観察バラエティってなんだよ!

そう、思っていた。


あいのりに対してなんとなくの気まずさと嫌悪感を抱いていた頃から幾年が過ぎた。テラスハウスだとか、バチェラー・ジャパンだとか、あいかわらず「恋愛観察バラエティ」なるものは世の中をにぎわせていて、私もそれにある程度ハマったりもして。

どうやら他人の恋愛は、観察するとものすごくおもしろいもの、らしい。

とにもかくにも、大人になってようやくあいのりから解放されるワ、ようやくあいのりの話題についていけない気まずさを感じることもなくなるワ……と思ったのもつかの間、なぜかあいのりは私のことを追いかけてきた。


カラオケが好きで、よくカラオケに行く。声が割と高いので、女性ボーカルの曲ばかり歌う。

特によく歌うのはI WiSHの『明日への扉』とMiの『未来の地図』。

……そう、図らずも、どちらも『あいのり』の主題歌だったのだ。

はじめてそのことを指摘されたのは、たしか大学の新歓だった。歌う私に酔っ払いの男の先輩が「ゆか、あいのり好きなんだねー」と絡んでくる。初対面で呼び捨てにするな、と思う。距離が近い。お酒くさい。膝と膝がぶつかっている。ぶつかっているというか、ぶつけられている。

だって、膝と膝は偶然にはあたらない、と思う。

そこからはじまる、「あいのり懐かしかったよねえ」という話題。見ていないんです、とも言えず、適当に話を合わせる自分。とりあえず桃しか知らなかったので、何を言われても「桃、かわいいですよね」と返事をした。

また、あいのりの話題についていけない気まずさを感じる私がふと顔を出した。


それからは、カラオケに行くたびに、『明日への扉』と『未来の地図』を入れようか、一瞬迷う。同世代であればあるほど、「あいのり回顧録」がはじまる可能性が高まる。あいのりの主題歌は好きだけど、あいのりは好きじゃないし見ていない。桃しか知らない。だから話にはついていけない。でも歌いたい。歌いたいけどあいのりの話にはなってほしくない……。

でも結局、ああ、またやってしまった、と思うのだ。結局は、歌ってしまうのだ。そしてあいのりの話になって、ほんの少しの気まずさを覚える、ので、ある。

みなさん、私とカラオケに行くとあいのりの主題歌を歌いますが、決してあいのりが好きというわけではないです。そして、たぶん歌いながら思っています。「あぁ、またやってしまった」。


ありがとうございます。ちょっと疲れた日にちょっといいビールを買おうと思います。