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パワースポット・オブ・ニンジャ:マウント・オブ・フォー・ビースト

四獣山。それは台北市の東南方に広がる丘陵地帯のことである。

だいたい中央の緑色地帯がそれ

旧正月休み。連日親戚が集まって食事、飲酒、夜更かし。不摂生な生活で肉体と精神が堕落しかかっている。室外に出て身体を動かしてヘイキンテキを取り戻す必要がある。私は決断的に山に赴いた。

これが四獣山の一つ、象山の入り口。四獣とはつまり象、虎、ライオン、そして豹のことを示す。それぞれ獣の名を冠した山がここハイカーを待ち受ける。中で象山が一番市街地に近く、標高が183メートルと高くなく、四獣山の中でいちばん登りやすいと言われる。たしかに階段の段差が低いしメンテナンスも行き届けておりしっかり踏める。途中に小さい子供を連れている家族や年寄りが多く、登山よりちょっとハードな散歩といった感覚か。

途中に休憩兼景観ポイントが多く設置されていていつでも息抜きできる。眼下に広がる市政府の所在地であり、繫華街である信義区が広がっている。真ん中に見えるビルは現在世界順位11番め高いの101ビル。ニューイヤーズイヴの時はカウントダウンと共にビルから花火を放つ。それを見晴らしのいい場所で観るため大勢の人がイヴに山を登るとか。

あっという間象山の頂の到着した。

いちばん登りすいだけあってあっけなくも象山を攻略してしまった。また物足りないと思った私は虎山の方向へ進んだ。

そして「それ」と出遭った。

アイエエエ!?岩に刻まれた鮮血のごとく赤い『忍』のカンジ!こ、これは!私は立ち止まり、しばらく状況を整理した。ここは歩道の分かれ目でもあり、右に行けば整然とした石段の道が続く、そして右は。

このように苔が生えたでこぼこの石で敷いた危なっかしい小道が亜熱帯原生林の奥へと続いていく。経験豊富なハイカーが見たら「ハッ!また歩道があるだけで十二分ぬるいわ!」と鼻で笑うだろう。だけど私はDiscoveryやナショナルジオグラフィックチャンネルで得た知識あるものの野外に足を運ぶ経験が実際少ないインドア派シティボーイだ。それに今日は体を動かして運動量を増やすことが目的であり自らハードルをあげる必要はない。

と、普段ならそう自分に言い聞かせて左の道を選んだだろう。しかし、最近は実況行為を一切しなくなったものの、私はニンジャヘッズだ。思いかけぬエンシェント・カンジとの出遭いで内なるカラテが疼き、未知なる道へ突き進めと訴えかけている!

こうなりゃもう、行くしかねえな……Wasshoi!

しばらく進むと敷石すらなくなり、獣道じみた細道になった。前日の雨のせいか土が柔らかく、足元に意識しないと滑ってしまいそうだ。途中にロープを掴まないと登れない急な斜面もあった。20分近く歩いて、途中に人と出会うことなく、野犬一匹がエンカウントしただけ(結構緊張したが当方は尽力に敵意のなさをアッピールしやり過ごせた。理解のある野犬でよかった)。

どこまで続くかわからない道、湿った空気、頭上から雨が木の枝葉を打つ音、たまに鳴る野鳥。文明との距離が遠い。一人で荒野に放り出された感覚に陥って、精神が不安になってきた。叢の中に隠れたなんかの良からぬ存在が私を見ているのでは?ベトコンじみたニンジャがスリケンを弓矢で構えて私を狙いつけているのではないか?焦燥感を覚え、足を急がせる。そして土地神を奉る祠が目に入った。信仰心の薄い私だが、半時間ぶりの文明がこれ以上なくありがたい。ねじられた雑巾のように緊迫した精神がリラックスを取り戻し、ふと上に目を向くと。

小さく、ピンクの花が咲いていた。植物がよくわからないが、たぶんサクラだ。

ここ最近は雨が続いて花が結構落ちた。美麗な花びらも地に落ちればあとは腐って土に還るだけ。ショッギョムジョウを感じる。

祠周辺に建てたテントでしばらく休憩を取り、想像を膨らませる。『忍』のエンシェント・カンジ、山道、サクラ。完璧なぐらい要素が揃っている。この山はかつて(もしくは今も)ニンジャのドージョーがあって、ニュービーたちは日に何回も険しい山道を往復して身のこなしを磨き、数々の試練を乗り越えて、やがてはセンセイとハナミしてメンギョを授かる......イメージが鮮明浮かび上がる。

このあとは祠から離れるとコンクリート階段が見えて、もう一度文明に感謝し、私は無事に下山できた。また来ることになるだろう。こんどはフォービーストを全登頂、ついでに『殺』『伐』が書かれた岩があるどうか探してみようかね。

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