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溝に落ちた仮設トイレを引き上げる話

※このnoteの一部は有料になっております。それぐらいの価値があるので是非お求めください。あと飲食中はご注意ください。

演習三周目、海軍陸戦隊の進駐により我々走行歩兵連隊は宿舎から追い出され、デント生活を余儀なくされた(クソマリーンどもめ)。これは生まれながらの都会っ子で潔癖症のアクズメさんが寝れず、疲労が溜まって翌日の訓練中履帯に潰されて殉職するのでは?

残念だったな。割と平気だった。軍隊に入ると、心が削り減って色々構わなくなるんだ。演習場では野ション、野クソは当たり前。オイルと土で汚れた手を洗わずに弁当を食べるのも慣れた。デント生活は宿舎より少し窮屈だが大したことではない。就寝時間になるとみんなが昼間の労働に疲れて泥のように眠る。

しかしキャンプ地ではさすがに野クソはいかない。少し歩けば宿舎のトイレはあるが、陸戦隊の長官に出会ったら面倒くさいので(クソマリーンどもめ)業者に頼んで仮設トイレを何個もキャンプ場の近くに設置した。ちょうど溝すぐそばにある。野郎どもが使ってたのですごく汚い。

話が変わる。みなみの国の南端、日本人からすればトロピカル的な南国風景が広がるイメージかもしれない。でも時折、東北よりの季節風が山脈を伝って勢いを増し、落山風と呼ばれる強力な下降気流が一帯を吹きすさぶ。その威力は軽度の台風に及ぶほど。バイクや軽自動車を飛ばして事故になることもしばしば。北からの乾いた風が確実に兵士の体温を奪っていく。深夜に歩哨してた際は散々苦しまれて人生を疑ったものだ。

さて。強風、キャンプできるほどの平地、溝辺の仮設トイレ。聡明なる読者諸兄なら何が起こるか、想像がつくだろう。

ある日、勤務が終わり、デントに戻った頃。今日も絶賛に落山風が吹いている。早く風呂に入って寝袋に潜りたいぜ。うん?

何かトイレの位置がずれていない?

その時キャンプを襲う一陣の風!ブォォォォー!

ズズッズズ……強風に吹かれた仮設トイレの一つが地面を十数㎝スライドした。

「やっっっばw」「中に人がいないよね」「GTASAにこんなミッションあったな」「溝に落ちそう」

兵士たちがバカなことを言ってる間、強風が再びキャンプを薙ぐ!ブフォーン!ブォホホォォー!

「「あ」」

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