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スーパーフードをたらふく食べたい。

世間では「美容と健康」は切っても切り離せないことになっている。美しい人は健康であり、不健康なやつは美人ではない。そういうことになっているらしい。

そこで、世には健康食品が溢れかえることになる。ブルーベリー、青汁、あとなんだ。その他いろいろ。その健康食品がまさに「健康」を目指す究極であるならば、その反対に美容をめざす至高がある。

その名を、スーパーフード、という。

スーパーフードの存在を知った僕は、2.1秒で恋に落ちた。

スーパーフードというのは、普通の食品に比べてある種の栄養素(ある種の栄養素、というのがなんなのかよくわからないが、多分美容にいいのだろう)が突出して高い食品をいうらしい。近年では、アサイー、チアシード、ローズヒップ、ゴジベリー、マカなどがある。

どれもこれも、ビタミンCがレモンの何百倍とか、コエンザイムQ10が入ってるとかなんだかわからないが栄養価が高いことになっている。これらの食品はわりと年中口にしており、また食べ過ぎると危険だったり、毒性があったりいろいろするのだが、僕はすっかりスーパーフードに魅了されてしまったのだった。

なぜか。それはスーパーフードには詩があるからだ。その「詩」を箇条書きに示すと次のようになるだろう。

・我々が普段食べる食品に比べて重要な栄養素が何倍も何百倍もあり、ひいてはそのスーパーフードでなければ略取できない栄養素が含まれている場合がある。
・健康によいことが現地住民の魔術師や民間医師などによって証明されており、場合によっては「神の実」だとか「王のなんとか」といった権力や神性と結びつく賜名をもつ場合すらある。
・また、流通量が少なかった中世・古代においては王族や貴族に限って食されていたという逸話が付託される場合がある。それが庶民の我等も口にできるとは光栄を一食に下賜されることであり、また歴史を食べることでもある。
・さらに、そうした健康及び美容についての効能は現代科学による成分分析によって立証されており、「セサミン」や「グルコサミン」など語末に「ン」が付く栄養素名を与えられている。それらの「~ン」によって我等は怪しげな未開の地にある盲目的な信仰に対して実証的な裏付けを手に入れたことに安心する。
・芸能人も食べてる。

このような盤石の包囲網をもって我等を取り囲むスーパーフードは継続的に食べる場合であってもわずかスプーン一杯を毎日とればよく、しかしそれらの手間を省くためにあらゆる方法で食品に混ぜられる。その最たる方法がスムージーだ。

スムージーの厳密な定義はしらない。しかしローソンで売られているスーパーフードが沢山入った触れ込みのスムージーはどろりとした粘性のある液体で、食べれば胃壁や腸壁にしっかりと絡め取られ最後まで徹底して栄養が最高効率で吸収されるような気がする。それらのスムージーは足りていない栄養素ごとに、様々なチューニングが含まれている。

その中でも、圧倒的な迫力で僕らに迫ってくるのが「チアシード入りスムージー」だ。

チアシード。ダイエットに圧倒的な効能があるといわれるシソの種である。水にひたすとぷるぷるのジェルみたいになる。

これが実に高栄養素の顔をしているのだ。αーリノレン酸も含まれている。なんて、なんて健康に良さそうなんだ。

そして悲劇は起こる

医療従事者にこの話をした。僕はいまスーパーフードに恋をしていること、スーパーフードに詩を感じていること。そして、もはやスーパーフードの信者になってしまったこと。

突然、スカイプ越しに泣き出した。

その人は、「たたたさんを守れなかった。情けない」といって本気で号泣しだしたのだ。「やめてくれよ! ただの冗談だろ!」と僕はここまで縷々書いていたことがまったく適当な妄言であることをいま告白しつつ、泣かないでくれと頼んだ。

「そういってみんな死んじゃうんだ。そういって、バカにされたがってるんでしょ! 死にたがり!」といった。

見抜かれていた。

ぼくはスーパーフードも健康食品も、まったく信じていなかった。こういった馬鹿げた食品を信じているフリをしているネタを、ただコミュニケーションのツールにしたかっただけだ。それなりになかよしなはずの医療関係者にとって、スーパーフードにはまる中年男性のクソネタは、どこにでもある自虐ネタのひとつとしておもしろおかしく処理されるだけの、そういうくだらない雑談だと僕は思い込んでいた。

それはネタでしかなかった。でも、違った。たぶん、上に書いたような健康と栄養の信仰に囚われ、狂気に狂って死んだ人がいたのだろう。

健康と美容は、どこか狂気に似ている。普通に生きていること以上の、なにかの圧倒がなければ「健康」にも「美しく」もなれないのだ。

ひとしきり号泣して、突然「きるね」といって切られた。それから短いメールが届いて、それに返事をして、僕は砂糖を入れ忘れていた梅酒に砂糖をぶっこんでお湯をいれて飲んだ。

仕事は山のようにあった。お金になるものも、名誉になるものもあった。どちらも、もう見たくなかった。梅酒のお湯割りは8杯飲んだ。健康に良いわけがなかった。少しゲームをした。大敗した。早く寝なければならなかったが、腹痛に襲われていた。

ついさっきまで輝いてみえたスーパーフードの栄養表は大本営発表のでたらめさの塊を数字に直しただけの、くだらない数列になってしまった。

もうそこに詩はなかった。もう僕もまた、健康を目指すことはないだろうとおもった


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