仕事のむなしさについて
2年ほど前に、マクドナルドがアルバイト募集のアニメを作って話題になったことがあった。アルバイトをすることでマックが何を従業員(キャストという言い方でごまかすのはよくないと思う)に得させようとし、アルバイトからどのようにして離れていくのかを描いていて、みればみるほどヘンテコだ。
手がけた若手アニメーターの〈好き〉が詰まった素敵な作画と、声優の声ずれが印象的で、これからマックで働いてみようかな、と思っている人に向けたメッセージだとすればそれほど的外れではない明るさに満ちていると感じた。
それぞれ全八種類のご当地バージョンがある。
冒頭の「スマイル下さい」を「処理」する先輩の姿であったり、落としそうになったポテトを実際には落としていないにもかかわらず、別のと取り替える姿勢など、アニメのできとは全然別に、描かれるストーリーの背景には、マックが取り沙汰されているいろいろな問題が凝縮されている。
商品に問題が無くても問題がありそうと感じられたら交感します。スマイル下さいというからかいにも(元々は身から出た錆だが)ちゃんと誠実に対応します、ということだ。
コーヒーが出てこないのもそういう意味では象徴的だろう。マクドナルドのコーヒーをめぐる訴訟があったからだ。
これの続編は、その頼れる「先輩」が卒業して就活しているという状況が描かれる。
マクドナルドのこのCMは、「働く側」のモデル(夢を追い掛ける、バイト代が欲しい、なんとなく、空いた時間で等)と、「サービスを受ける側」の論理(食品が安全、早い、的確など)が描かれている。働く側は夢や目標やスキルや思い出が手に入り、それをもって現実世界(就活)でも活躍できるのだというメッセージ。
この作品には上層部や経営陣は出てこない。店長すら出てこない。いつかやめるはずのアルバイトだけがマクドナルドの店舗を動かしているかのようだ。そんなことがあるわけがない。実際には彼らは、自主的に判断し適切に処理しているように見えて「言われたことをやってるだけ」なのだから。
経営の空白は、グローバル企業における〈雲の上〉を逆説的に指し示す。アルバイトとは、何もなく、何も得られず、何も決定せず、何にも関わらない、日本というローカルな蛮族の地におけるお金を吸い上げる機械であり、虚無そのものなのだ。
実際にはマックのアルバイト以外に生きていくすべを持てなかった中年や、海外から来てマクドナルド以外では仕事に就けなかった留学生たち、いろいろなケースが有る中で、日本人の・学生の・就職をする世界だけがキラキラと輝いているのはいろいろと考えさせられるものがあるはずだ。このキラキラをもっと極めれば、強欲な議会による官製貧困となるし、創業者は900億円の貯金を持ちながら会社は労働問題で訴訟をうけるZOZOの姿にも重なるだろう。
もっと救いのない労働世界を描いた作品に「MOSAIC」というゲームがある。
このメインストーリーはなんと「通勤」にある。
毎日朝起きて、通勤するだけの話で、一日の終わりには謎の労働をさせられることになる。トーンは恐ろしく暗く、邪悪で、灰色の町を歩き回りながら、予約済みの借金によって毎日減っていく貯金を見るだけのゲームである。
その途中には無数の夢があらわれる。このゲームのラストは夢を見ることで、最後に人間を支配していた邪悪なものと対決するのだった。人が最も大切にするべきものが何かをテーマにした作品で、道中の退屈さを除けば素敵な世界観があるなという感じがする。
マクドナルドのCMはMOSAICの世界から闇を取り除いた虚無そのものだ。たしかに働けばお金がもらえ、マクドナルドで買えばハンバーガーが食べられる。Win-WInの関係だ。
その裏にあることは〈君はみなくてもいい〉。
〈OK?〉
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