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ちょいワルおやじのダメさについて。

ちょいワルじじいが話題になっている。

「ちょいワルジジ」になるには美術館へ行き、牛肉の部位知れ│NEWSポストセブン https://www.news-postseven.com/archives/20170610_561363.html #postseven

おおむね僕の周辺の評価は最低最悪。

そもそもなぜ「チョイワルじじい」になろうと思ったのか疑問だけれど、端的にいってきもちわるい。きもちわるいのは次ぎのくだりだ。

実は1人で美術館に訪れている女性は多い。しかも、美術館なら一人1500円程度だからコストもかからない。(中略)熱心に鑑賞している女性がいたら、さりげなく「この画家は長い不遇時代があったんですよ」などと、ガイドのように次々と知識を披露する。そんな「アートジジ」になりきれば、自然と会話が生まれます。美術館には“おじさん”好きな知的女子や不思議ちゃん系女子が訪れていることが多いので、特に狙い目です。

岸田氏がつくる『GG』という雑誌、大変興味がある。ナンパに美術館にいくじじいが、一人で美術を楽しみにきている女性をひっかける為のテクニックを開陳してくれるらしい。

大変興味がある。なぜ「アートジジ」ジゴロに女性が惹かれると幻想を抱いているのかに興味があるからだ。ぼくの仮説はこうだ。この手の男性は「女はバカ」でいてほしいと思っているから。

そして、かなうことならばこのような「バカ」に崇められて縋られたいと思っているからだ。

わかる。

僕はこの気持ちがいたいほど分かる。そうなれなかったから、痛いほどわかってしまうのだった。

堀口 茉純(ほりぐちますみ)さんという大江戸アイドルがいる。

僕の1つ上だから、34歳になると思う。彼女は史上最年少で江戸文化歴史検定一級を取得していて、歴史学の学位を持っていたと記憶する。江戸についての本はどれもこれも丁寧に書いていて、思いつきや筆滑りがなく、虚実をちゃんと分けて書いている(ちょっとネタっぽい記述もたくさんあるが)

彼女はよく、中年の男性タレントと一緒に江戸の町を歩くという企画をやる。ただのお笑い芸人や俳優が「したり顔」で神社のうんちくを垂れるときに、しばしば本気で死ぬほど苦そうな顔をしている。

けれどもすぐに笑顔になって、ちょっとした背景や歴史的な由来を簡単に付け加えて説明し、にこにこしながら狛犬のかわいらしさや、神社の片隅の末社の掃除なんかに感動してみせている。

すごいなぁって思う。

いまはアンジェルムに居る和田彩花さんという元スマイレージのアイドルがいる。彼女はもう二冊も美術書を書くほどの前近代美術(主に仏像)オタクである。はずかしながら、僕は彼女のブログで「定朝様」を知った。

美人さんである。

前に、彼女が出ている美術の番組みたいなのがあって、テレビかネットでちらっとみた。すごい勢いで話し出そうとしたところ、えらそうな大学教授が横から入って何かしゃべり、和田彩花は一瞬はっとする、怒りのような表情を浮かべてから、それをかみ殺した。

すごいなあって思う。きっとなにかその説に言いたいことがあったんだろうなって。

女の子だろうと男の子だろうと、そうした情報を知り、学ぶ力に差異はない。

学ぶ理由は基本は「愛」だ

性別に関係なく美術館は開かれている。図書館も。

けれども、男性には自身が腕力と知性で相手より勝っていることを証明したくなる理性のないタイプもいる。「アートジジ」になりたければ大枚はたいて将来性のありそうな若造の作品を買い集め、才能のない人に才能のなさを告げることが理想とされるが、そこまでの熱意がないジジイは一般向けの駄本をかってしたり顔で他人の人生を語る。

僕はこの手の「じじい」が現れ、話題をふりまき、気持ち悪がられる度に、いつか自分もこうなってしまうのだろうと思った。汚れたじじいになり、その汚れる前の姿を誰も思い出せないぐらいに、アートにくわしいじじいであること――その詳しさの程度を比較することもできないまま――だけを誇りにして死んでいくのだった。

そうなる前に、闇に落ちて女性をナンパして鮎の塩焼きの食い方を伝授するジジイを肯定しないとならなかった。そうなれずに誇り高く死ぬ勇気がでなかった。

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5年前に、奈良にいった。

真夏の暑くて暑くてたまらない日だった。僕は平城京跡に赴いた。平城京跡には巨大な、あまりにも巨大な大極殿があって、朱雀門からそこまで日よけのない巨大な空き地が存在していた。

僕は真夏の太陽に焼かれながら大極殿にたどりついた

かつては人が行き交い、飢餓と交易で大和の栄華を一都に担った大都市はもうどこにもなかった。

悲しかった。

大極殿には老人の夫婦が数名と、一人でそこを訪れていた夏服の、日焼けした女の子がいた。その子は大学生らしかった。おじいちゃんのボランティアが、大極殿について延々と話していた。その子は途中から頭がパンクしたらしかった。

ふわっとその子が床下をみたときに「○○がありますね」といった。ダンパーといったのか、クリートといったのか思い出せない。おじいちゃんは傷ついた声音で「建築基準法に違反するからって、適当に最先端技術をぶっこんだんだよ」と吐き捨てるようにいった。おじいちゃんは「本当の大極殿」について語りたかったのだろうと思った。

おじいちゃんはふっと、「お嬢さんは大学生?」ときいた。お嬢さんは「はい。奈良の」といった。「奈良か」とおじいちゃんはいって「文化財?」と聞いた。

奈良大学の文化財学科のことだったのだろうと、あとで思った。

この話には続きがある。おじいちゃんの正体もそこで明らかになる。

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