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【イベント感想】海賊的想像力としてのMOD/Tracker―音楽ファイルの90年代と同人音楽の黎明期に寄せて―

先日、東京芸術大学大学院の日高良祐さんが主催したシンポジウム&ライブ「音楽ファイルの90年代」に行ってきました。橋本から北千住まで。流石に遠くて「ここがイスカンダル王が夢見た世界の果てか」とか思いました……!


というわけで、簡単に感想など。

さて、はじめに日高さんによるMODファイルについての簡単なレクチャーがありました。MODファイルというのは80年代中盤に生まれた音楽ファイル形式で、TrackerというのはそのMODファイルを操作するためのツール。要するに音楽を作るためのファイルとツールで、しかも無料でめちゃくちゃ容量が軽かったので、90年代初頭まで広く遣われていたそうです。ただし音圧が低いとか、音質が悪い、MIDIの製作環境が整備されてきた、等の理由で廃れてしまっていたというわけです。

ただ、ぶっちゃけよくわかりませんでした。すまねえ!

さて、この「音楽ファイル」という観点から見てみた時に、MIDIとMODは文化史的にきれいな対比を描くというのがシンポジウムで得られた面白い視点でした。今やMIDIしか残ってない(MIDIも使わないですかね)のですが、産業界からの圧力や合意によって形成されたMIDIと、海賊版が次々生み出されパソコン通信で拡散し続けるというMODファイルは要するに「正規」と「アングラ」の対立なんだろうと思います。しかも、そのMODファイルというかTrackerの特性によって、テクノやハウスが多く製作されていたというのも面白い。元々はキーボードの操作を使用方法として考えられていたMIDIとはそういう音楽的な点も違うというわけです。

河野崇さんの発表はそうしたMODの美学を高橋悠治などのことばと共に説明していたと思います。軽くて早い、しかもすぐ作れて、多くの人に、すぐに届く。というわけ。しかも勝手に使い勝手にアップデートされて勝手に拡散する。デモシーンという、僕はしらんかったけどアニメーションカルチャーなどとも関係があったそうです。レジュメも公開されていますね。


スティーブン・ジョブスは「海軍に入るなら海賊になろう!」というようなことを言っていて、これをアナロジカルに使えば「MIDIは海軍」、「MODは海賊」とも言えるのかもしれません。いや、より正確には「海賊的な美学がMODによって復活した」というべきかな。

海賊的・アンダーグランド(?)・ハッキング・拡散・反応的・連鎖的、匿名的な顕名性(ガヴァンゲリオン、カラテクノ)……といった環境が「ハウス・テクノ」といった音楽とあるタイプの相関性を持っていたことが僕には(勝手に)自然に納得されるのですが、谷口文和さんはそこにより広くMOD以外の音楽文化と絡めて「MIDI臭さ」という問題を提起されていたと思います。

MIDIくさい、というのはMIDIで作った曲の、奇妙な無機質さみたいなことだと思うのだけど、それが別に侮辱のニュアンスがあるわけではなくてMIDIの界隈ではキャンコード的な使われ方をしていたというのも面白かった。まさにMOD臭さ、という議論には時間がなくてつながらなかったのだけど、本質的にはこうしたMOD美学の魅力がどこにあるのか(どこにあったから人が集まってきたのか)ということだったんじゃないかな。後半の毛利さんを交えたディスカッションでも、ほとんどは谷口さんの応答で、前にポピュラー音楽学会か何かで苛烈な質問をしていたのでちょっと記憶に残っていた方なのですが、なかなかの篤学とお見受けしました。毛利さんは『ストリートの思想』という大変な名著を書かれている偉大な先生ですが、ウゴウゴルーガを作ってた会社におられたそうで、90年代の情報産業界隈の思い出話など少しされていました。面白かったなぁ。一冊本を買わせていただいて帰宅。

そんなわけで発表後のシンポジウムはちょっとグダりましたが、大変おもしろかったです。

質問者の一人が「カネがないからMOD使ってただけ」というすさまじく本質的な質問をしてたんですが、逆に言えば「カネが無制限につかえてクオリティだけが重視される」環境だったらMODコミュニティは生まれなかったわけで、お金が無い、という条件があったことはとても重要だったと思う。

田中治久さんの発表は同人音楽に関する事。特に90年代の同人音楽に関する実証研究は、舌を打つほどの見事さでした。僕にとってはもはや神話の世界のはなしでしたが、僕の同人音楽観が2割ほど消し飛びました。音系同人の中に同人音楽があるっていう枠組み自体も少し歴史的に考えて見直さないといけないかもしれません。

うーん。連載のほうも何かの機会に大幅に書き換えないといけないなぁ。

ああいう人たちの繋がりがあること自体には気づいてはいたけれど、やっぱり実証研究は面白いっす。1999年に出版された本にはすでにゲーム音楽とクラブカルチャーの関連について触れられているのですが、そういう繋がりが自然に見える環境はすごく早い時期にあったわけです。同人音楽の歴史的文脈はもっと深くて面白いところともつながってるわけですね。

それから、個人的には「インターネット」の登場で区切りを付けることもよくないのではないかと思うようになってます。IT産業歴史観というのかな。ちょっとよくない。「理念」と「環境」はすごく密接に結びついてるんだけど、ある環境が登場したことはたまたま以前の理念が実現しただけだったりするものね。これについてはまた調べて書きたいです。

はなしが戻りますが、MODファイル的といっていいのか悪いのかわかりませんが「海賊的」な想像力は初期の同人音楽にも根強くあったんじゃないかと思います。「同人音楽で海賊王になろう!」こうですか、わかりません(^o^)

ライブも超面白かったです。目の前でMODでガバを作ってくれたり、巫女装束を着たおにいちゃんが踊り狂ってたり!

てなわけです。ハッシュタグ「#tm90」で議論の感想やスーパーライブなんかが見れますので、ぜひー。



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