女の子のうた
四年ぐらい前の日曜日。
池袋サンシャインビルの一階噴水前から、かわいらしくて元気いっぱいな女神たちの歌声が聞こえてきた。
女子6人。時折かけあいのフレーズを交えながら、一生懸命なダンスを踊りながら、思春期の女性特有の張り詰めた歌声で儚い恋心を歌っていた。
アイドル。
地球では彼女たちを妖精や聖霊にみたて、その神聖さを貴んで「アイドル」と呼ぶことになっている。
6人組はそれぞれに似通ったカラフルな衣装をきていた。紫色(高貴な色だ)を筆頭に緑(下っ端の色だ)まで、息をきらしながら、夢の舞台であったサンシャインビル一階噴水前に来れたことに感謝していた(観客席からイエーイの声)。
僕は三階からそれを見下ろしながら、まだ十代と覚しき少女達の夢が、このちっぽけなスクエアにかかっていたのか、というかそもそもここがアイドルの聖地だったのかと聞いて驚いていた。
さらに驚いたのはそのあとだ。
イエーイに続く二曲を続けて聴いていたとき、僕はダンスも歌も、ソロパフォーマンスもアンサンブルもぶっちぎりで上手な緑の子に目を奪われていた。一方で、動きはもたもたしていて、アンサンブルもブレイク気味、うたはまあまあだがやる気ゼロの紫の女の子もそばにいた。
緑の子は人気あるだろうと思っていたのに、うたとダンスがおわると、そのあとに握手会があった。背後に屈強な男性がはりついた状態でCDを買い握手をするというよくわからない時間に、ずらり、と並んでいたのはそのへたくそ紫の列ばかりであり、緑の子は閑古鳥がないているをみた。
そのあと帰宅してブログをみた、はずだ。
緑は3000字ちょっとの文章をしっかりと書き上げ、観客やメンバーへの感謝を楷書体がすけてみえるような文体で書いていた。
紫は、「たのしかったらいぶ~」みたいな感じだった。
儚い。しばらくしてから、緑と黄色がやめて、最後には解散したときいた。
援助交際のビデオっぽい携帯電話における女子のダンス動画
最近、6年前の動画が自分のiPhoneから発掘された。
どこか見覚えのある女性がカラオケでハレハレユカイを歌って踊っている解像度の低い怪しげな動画で、それにしてもどこでいつ撮ったものか、と某人の結婚式で聞いたところによると「FC2だ」と言われた。
FC2でよくある援交動画はこういうものらしかった。援交動画かどうかしらないが、女性がカラオケで踊っている姿を男性が撮影したものはいやらしいもの、らしかった。
よくわからない論理ではあったが、そのような論理の不明瞭さも含めたいかがわしさを「FC2」というのだ、と教えてもらった。教えてくれた人は近代小説における風俗描写の神と崇められた吉行淳之介のファンだった。
吉行淳之介ならね、と彼はハイトーンの缶麦酒をあおって言う。
「説教するんだよ。その、風俗嬢にね。吉行淳之介の描く女っていうのは、自分が可哀想で可哀想でたまらないから可哀想さをMAXにするための嘘や幻想を限界まで塗り固めた女なんだ。そいつらに『おまえらはうそつきだ』っていうのが最高の快楽なんだよ」といった。
ジゴクにおちて死ぬのがよいと僕はおもったが、しょうじきその気持ちはわかった。
僕は「FC2かー」といいながらその動画を二回みた。歌っておどっている女性は、それなりにだんだん可愛くみえてきた。彼女の名前をきいて、そんな子がいたことを思い出した。だけれども、もう会うこともないだろうと思った。
彼女の歌も踊りもへたくそだった。
へたくそな人が一生懸命なのは、なにか反則だった。上手にならないで、って祈りながら応援することは、何かの罪のように感じたんだけれど、アイドルに対してならそんな贅沢も許されるのだろうか。
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