【セカコの世界史2024】 4-1 メソポタミア文明
都市国家の成立
今回は、都市国家の成立から見ていきましょう。
私たち人類は、旧石器時代には小さな群れを生活単位として、移動する生活を送っていました。新石器時代に入ると、集落をつくって定住するようになります。そして、集落の規模が大きくなると、国家の原型が誕生しました。
人類が最初につくった国家が、都市国家です。
――――セカコ「都市国家」って、普通の国家と何が違うんですか。
一つの都市がひとつの国家になっているものをいいます。
現代にも都市国家は存在します。シンガポールは代表的な都市国家ですね。
国家というものがそもそも存在しなかった古代においては、まず都市が成立し、それがそのまま国家の原型になりました。
人類が最初に作りだした国家は都市そのものだったわけです。
――――セカコ「国家は、都市で生まれたというわけですね」
そういうことですね。
ただ、そうではない場合もあります。遊牧国家とか、遊牧帝国と呼ばれるものがそうです。これは、家畜とともに移動しながら暮らす遊牧民が、小規模なテントの群れを統率する小集団から、大規模なテントの群れを統率する国家のような枠組みへと発展したものです。
これについては、別の機会に学びます。
今回は都市国家に着目していきましょう。
紀元前3000年頃までに、イラクのティグリス川とユーフラテス川の下流域に広がる沖積平野に大小20余りの都市国家が成立しました。これを(1)メソポタミア文明といいます。
「メソポタミア」という名前はギリシア語に由来します。「メソ」は「間の」、「ポタミア」は「川」という意味です。世界史ではほかに、南北アメリカ大陸の中間にあたる中央アメリカで栄えた文明を「メソアメリカ文明」という用例があります。
メソポタミアは土地がたいへん肥沃だったので、多数の小さな集落が成立し、それらが統合されたりしながら、集落の規模が大きくなっていきました。やがて生産が増加し(2)余剰生産物が増えると、農業に従事しない人々が現れ、(3)職業の分化がすすみます。
――――セカコ「職業の分化って、どういうことですか」
農業に従事しない人々が現れ、職人とか、商人とか、いろいろな職業の人たちが現れてきたんです。
――――セカコ「どうして(2)余剰生産物が増えると、(3)職業の分化がすすむんですか。」
新石器時代の農業集落では、基本的に全員が農民でした。土器も石器もみんなで作っていたと考えられています。
土器づくりが得意な人も苦手な人もいただろうし、石器づくりが得意な人も苦手な人もいたと思います。でも、基本的に全員が農民でした。
――――セカコ「どうして全員が農民なんだろう。そういえば、江戸時代の日本も八割以上が農民だったって習いました。地理で学んだ発展途上国の中には、第一次産業の人口割合が高い国がたくさんありました。何か関係があるのかな」
そうですね。社会を維持するのに、つまり全員が必要な分の食糧を生産するのに、それだけの労働力が必要なんです。農業の生産性が低いと、大勢で農業をしないといけない。
全員が農民であるということは、1000人の集落で、1000人が農業をしないと食べていけないわけです。
ところが、かんがいなど農業技術が向上して、生産性が上がるとどうでしょう。
例えば、1000人で農業して、2000人分の食糧が作れたらどうしますかね。
――――セカニャン「たくさん食べるニャ」
――――セカコ「私だったら半分を売ります。」
二人ともいい答えです。でも、今求めているのは、違う答えなんですね。
――――セカコ「あ、わかった!わかりました!」
セカコさん、どうぞ。
――――セカコ「500人で農業をして、あとの500人は別のことをします!」
その通り、これが職業の分化です。
もう一度テキストを確認しましょう。
生産が増加し(2)余剰生産物が増えると、農業に従事しない人々が現れ、(3)職業の分化がすすみます。
――――セカコ「第一次産業の割合が下がって、第二次、第三次産業の人口割合が増えるってことですね」
そういうことです。
次にすすみましょう。
職業の分化につづいて、(4)階級の分化が起こり、王や貴族、神官や戦士などの階層が平民や奴隷といった階層を支配する(5)階級社会が成立しました。
――――セカコ「カイキュウの分化って何ですか」
階級というのは、身分のことです。
職業の分化の延長なんですが、王様とか神官とか戦士とか、人々から税を取る立場の人たちが現れてきました。
――――セカコ「職業の分化が進むにつれて、王様とか、働かなくていい人たちが出てきたってことですか」
働かなくていい人たちっていう表現は、面白いですね。
王や貴族は政治を担当し、神官は祭祀を、戦士は国を守る仕事をしたんです。ただ、彼らは産業に従事せず、農民や商工業者から税を集めて、そこから自分たちの生活に必要なお給料をもらったわけです。
――――セカコ「なるほど。職業の分化と階級の分化が、国家の成立にとって大切なものだということがよくわかりました」
物資の(6)交換が盛んになり、(7)交易が活発化すると、交換や交易を前提に、特定の商品を専門に製作する鍛冶屋や大工など農業に従事しない(8)手工業者(職人)や、交換や交易を専門に行う(9)商人があらわれました。
やがて交易の拠点に手工業者や商人が集まり、交易ネットワークの拠点として(10)都市が生まれてきた。
そして都市を拠点に王や貴族、神官や戦士などの階層が周辺の集落を支配する(11)都市国家が成立しました。シュメール人
メソポタミアに都市国家を建設し、その文明の担い手となった人々は(12)シュメール人とよばれる人々です。
民族系統は不明です。
彼らはメソポタミアに二十以上の都市国家をつくりましたが、代表的な都市国家はウルやウルク、ラガシュ、ニップールなどです。
(13)ウルは、ユーフラテス川最南部に位置します。英国人考古学者ウーリーらによって王墓が発掘されました。
メソポタミア文明を代表する工芸品として、ウルの軍旗(スタンダード)が、よく知られています。あとで紹介しますね。
(14)ウルクは、メソポタミア最古の都市国家のひとつで、ウルより上流部に位置します。ウルと名前が似ていますが、区別してください。ドイツの調査隊によって発掘されました。最初の文字記録が発見されるなど、文明化・都市化を先導した都市であったと考えられています。
世界最古の文学作品といわれる『ギルガメシュ叙事詩』の主人公は、ウルクの王ギルガメシュです。
(15)ラガシュは、ウルの北方に位置します。フランスの調査隊によって発掘されました。
あと、もうひとつ、ニップールは、ティグリス川中下流域に位置し、シュメールの最高神エンリルを都市神とする宗教的中心地でした。
――――セカイシシ「各都市の王は神の権威を借りて政治を行った。これを(16)神権政治といい、神官が強い権力をもっておった。その神官たちの頂点に位置したのが、王ということになる。神を祭るために、都市国家の中心には(17)ジッグラトと呼ばれる聖塔が建設さた」
シュメール人の都市国家は抗争をくりかえし、前24世紀アッカド人によって征服されるまで、数百年間にわたって、ひとつに統一されることはありませんでした。
文字の発展や技術の革新
シュメール人は(18)六十進法を用いて収穫や土地を測り、それらを(19)楔形文字で粘土板に記録しました。
六十進法は5000年たった今も、私たちの身近なところで使われていますね。この教室にも・・・。
――――セカコ「あの時計です」
そうですね。60分で1時間になるという時間の数え方が六十進法です。
楔形文字は、なぜ楔形をしているかご存じですか。
――――セカニャン「その前に、楔って何かニャ」
楔というのは、木や金属を先がとがった形に整えた部品で、車軸に車輪をはめた後に車輪が外れないように外側から留め具として打ち込んだり、ふたつの板のつなぎ目に打ち込んで両者を引き離したり、いろいろな用途で使う部品のことです。
楔を刺す、楔をうつ、というふうに使います。
――――セカニャン「それと、文字と何のかかわりがあるのかな」
そうですね。私たちは文字を「書く」ものだと思い込んでいますが、紙がなかった古代においては、必ずしも「書く」ものではなかったというのがヒントです。
――――セカコ「中学校の歴史で習ったことがあります。粘土板にヘラで文字を書いたんですよね。書いたというか、彫ったというか」
その通りです。ヘラを粘土板に押し当てて文字を書いていくんですが、その押し当ててできた跡が楔のかたちをしていることから楔形文字といいます。
――――セカコ「メソポタミアの人たちが楔形文字って呼んでいたわけじゃないんですね」
そうですね。私たちは数字や漢字、仮名文字やアルファベットなど様々な文字を知っていますが、彼らはこれしか文字を知りませんから、彼らにとってはこれが文字そのものだったわけですね。
――――セカイシシ「シュメール人が作りだした楔形文字は、シュメール人の時代が終わっても使われ続けて、アッカド語、エラム語、バビロニア語などを表記するオリエント共通の文字となっていった。三千年前後、使われ続けたと言われておる」
仮名文字は誕生からまだ千年程度、アラビア数字も千数百年程度、漢字やアルファベットでも二千数百年程度といいますから、楔形文字がいかに長く用いられたかわかりますね。
次は暦の話をしましょう。
メソポタミアでははじめ(20)太陰暦を用いましたが、のちに(21)太陰太陽暦に移行していきます。
太陰暦というのは、月の運行をもとにした暦です。
――――セカコ「(20)太陰暦と(21)太陰太陽暦のちがいは何ですか。
太陰暦は、新月から次の新月までを一か月として数える暦です。新月から次の新月までを朔望月といい、これが約29.5日なので、30日の月と29日の月を交互に置いていきます。
ところがこれだと、一年が354日となってしまい、地球の公転周期365.2425日と一致しません。そこで、原則として三年に一度閏月を入れて、三年につき37か月を置くことで、地球の公転周期と合うように調整します。このように一年の長さを太陽暦に合わせるように調整する太陰暦を太陰太陽暦といいます。
――――セカコ「難しいけど、なんとなくわかりました」
メソポタミア文明の伝統を受け継いでいる中東諸国では、今も純粋な(20)太陰暦であるヒジュラ暦を用いています。これは、イスラームの開祖であるムハンマドがメディナに逃れた622年を元年とするイスラーム独自の暦です。
いっぽう日本や中国の旧暦は、(21)太陰太陽暦です。日本では明治維新まで、中国では清の時代まで、(21)太陰太陽暦をもちいていました。
一週間を七日とする(22)一週七日制も、シュメール時代からすでにありました。
――――セカコ「旧約聖書の創世記で、神様が七日間で世界をつくったから、一週間が七日になったって、どこかで聞いたことがあります」
そうですね。確かにそうなんですが、『旧約聖書』の成立時期はもっとずっとあとなので、一週七日制がもともとあって、それを説明するために物語がつくられたと考える方が自然ですね。
――――セカコ「どうして七日なのかな。太陰暦と関係がありそうですね。」
そうですね。一か月を4つに分けたと言われていますが、それだと28日になってしまいますね。いろいろな説があるんですが、とにかくシュメール人の時代から、一週間は七日だったことは間違いないようです。
シュメール人の時代には、すでに文学も成立していました。
都市国家ウルクの王ギルガメシュの冒険を記した(23)ギルガメシュ叙事詩が世界最古の文学作品として知られています。
(23)ギルガメシュ叙事詩には、洪水物語が描かれているんですよ。資料を見てみましょう。
―――――セカコ「あれ、これって、旧約聖書のノアの箱舟の物語と似ていませんか。『生けるもののあらゆるたねを汝がつくった舟に運び入れよ』とか『七日七夜、たけり狂った風、洪水、たつまきは地を荒らした』とか、そっくりです」
その通りです。
ここに登場する洪水の物語は、『旧約聖書』の「創世記」にある(24)ノアの洪水伝説の原型とされています。
紀元前7世紀のアッシリア帝国の都ニネヴェの図書館跡から、楔形文字を刻んだ大量の粘土板文書が出土したんですね。『ギルガメシュ叙事詩』は、その粘土板の中にあったんです。
じつはまだ解読されていない粘土板というものがたくさんあって、今後新しい発見がある可能性も大いにあるんです。
最後にこれを見てください。
これは、ウルのスタンダードと呼ばれる工芸品です。
――――セカニャン「飲み物を飲んでいる人や、車を動かしている人もいるニャ」
描かれた絵は、シュメール人の生活の様子を今に伝えています。
――――セカコ「鮮やかな青色が印象的ですね」
装飾には、貝殻・瑠璃・石灰岩などの他、メソポタミアでは産しないラピスラズリが使われているんです。遠隔地との交易ネットワークが存在したことがうかがえます。
――――セカコ「これは何ですか」
ああ、これは(25)円筒印章です。
――――セカコ「印章ってことは、ハンコですか。ハンコには見えませんけど」
そうです。紙じゃなくて、粘土板に押すんでよ。
――――セカコ「粘土板に押し付けたんですか」
そうです。ころころ転がして跡をつけたんですね。
――――セカコ「現代のハンコより、オシャレですね」
そうかもしれませんね。印章の使用は、私有の観念の芽生えを示しています。個人の財産という考え方が生まれ、これは自分のものだという証明に、印章をもちいたのですね。
重要語句まとめ
――――セカコ「この節で学んだ重要語句をまとめておきましょう。
1 メソポタミア文明
2 余剰生産物
3 職業の分化
4 階級の分化
5 階級社会
6 交換
7 交易
8 手工業者
9 商人
10 都市
11 都市国家
12 シュメール人
13 ウル
14 ウルク
15 ラガシュ
16 神権政治
17 ジッグラト
18 六十進法
19 楔形文字
20 太陰暦
21 太陰太陽暦
22 一週七日制
23 ギルガメシュ叙事詩
24 ノアの洪水伝説
25 円筒印章
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