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【セカコの世界史2024】8-3 アッシリア帝国の統一と四王国の分立

アッシリア帝国の統一と四王国の分立


アッシリア人の帝国


先生:教科書にはヘブライ王国とそこから分裂したイスラエル王国とユダ王国、それとクシュ王国くらいしか出てきませんが、鉄器時代に入った前1200年頃から前800年頃までのオリエントは、次々に新興勢力があらわれて、争い、敗れて消えていく、戦乱の時代でした。オリエント版の戦国時代です。

セカコ:鉄の入手しやすさが、新興勢力の台頭をうながし、戦乱が起こったと、前節で教えていただきました。ヘブライ王国はそれを勝ち抜いたのですね。

先生:そうですね。しかし、ヘブライ王国は、内実は部族制国家でした。クシュ王国も、エジプトに進出したものの、短期間でスーダンに撤退を余儀なくされました。

セカコ:そんな中、いよいよ統一帝国が登場するんですね。

先生:そうですね。オリエントも、地中海も、南アジアも、中国も、鉄器時代に入って戦乱が激しくなってから、統一帝国が出現するまでにだいたい300年から400年ほどかかっています。

セカコ:オリエント初の統一帝国といえば、アッシリアです。

先生:セム系(1)アッシリア人は、ティグリス川中流域の都市アッシュールを拠点に交易を営み、一時ミタンニに服属したものの、前14世紀に自立し、ミタンニを滅ぼしました。前9世紀以降、鉄製の武器と戦車を装備し、新たに騎馬遊牧民の戦術を取り入れ騎馬隊を組織し、歩兵と騎兵を使った戦術で周辺の諸勢力を打倒し、勢力をのばしました。

セカコ:アッシリアの王について調べました。

セカコの世界史マイノート アッシリアの王
 

ティグラト=ピレセル3
位744BC-727BC
732年にダマスクスを占領し、アラム人の内陸交易を支配した。

サルゴン2世
位722BC-705BC
722年にサマリアを攻略してイスラエル王国を滅ぼした。

センナケリブ
位705BC-681BC
ニネヴェに遷都し、バビロニアを征服した。

エサルハドン
位681BC-669BC
エジプトを征服し、はじめてオリエント統一を実現

アッシュールバニパル
位669BC-627BC頃
スサを攻略してエラム王国を征服
都ニネヴェに大図書館造営

先生:とても詳しく調べましたね。いちおう、大学受験に出るのはアッシュールバニパルだけです。念のため、サマリアを攻略してイスラエル王国を滅ぼしたサルゴン2世を覚えておけば大丈夫です。

セカコ:アッシリアは、アッシリア王国と言ったり、(2)アッシリア帝国と言ったり、教科書に寄っては世界帝国なんて書いてあります。

先生:アッシリアは正式には王国です。ですが、メソポタミアからエジプトまでを統一した最初の帝国として、アッシリア帝国とも呼ばれます。世界帝国は、ウォーラーステインが近代世界システムで提唱した概念です。ちょっと特別な文脈での使い方なので、注意が必要です。近代世界システムの話は、いずれどこかでお話ししましょう。

セカコ:全盛期の王(3)アッシュールバニパル は、スサを攻略してエラム王国を征服したんですよね。エジプトを征服したエサルハドンと親子二代で、オリエント交易トライアングルのほぼ全てを手中に収めましたね。

先生:そうですね。彼らには交易トライアングルが見えていたんです。(3)アッシュールバニパルが首都(4)ニネヴェに造営した大図書館の遺跡からは、膨大な量の楔形文字を刻んだ粘土板が出土しました。この図書館を舞台に、中島敦さんがとても面白い短編小説を書いているのをご存知ですか。「文字禍」という作品です。

セカコ:「山月記」の中島敦ですよね。現代文で学びました。私、山月記の李徴が嫌いです。自分勝手なやつだから。

先生:まあ、その話は、唐のところで取り上げることにしましょう。司馬遷と李陵を題材にした「李陵」も名作なので、こちらは前漢のところで取り上げましょう。

セカコ:「文字禍」はどんな話なんですか。

セカイシシ:アッシリアのナブ・アヘ・エリバ博士が、文字の霊が人間に及ぼす災いについて研究しているという設定じゃ。アッシュールバニパル王に進言するものの認められず、最後には文字の霊の呪いによって粘土板の下敷きとなり圧死してしまう。

セカコ:セカイシシは、何でもネタバレしすぎだよ。

先生:隠れた名作なので、ぜひ読んでみてください。


アッシリアの統治


先生:アッシリア帝国は、オリエント全土のさまざまな民族を支配し統合したので、最初の(5)世界帝国と言われます。

セカコ:世界史では、さまざまな文化や言語の異なる民族を統治する国を帝国って言うんですね。

先生:そうです。狭い意味では、「皇帝」が統治する国を「帝国」と言うんですが、世界史の教科書では、様々な異なる民族を統治する国を「帝国」っと言います。皇帝がいてもいなくても、君主制でも共和制でも民主制でも、様々な異なる民族を統治する国を「帝国」と言います。19世紀末から20世紀の「帝国主義」もこの意味で使っていますね。

セカコ:アッシリアが「帝国」になる以前に、「帝国」が出てこなかったのは何故なんだろう。

先生:紀元前7世紀というと、まだ情報伝達手段も未発達で、距離の離れた多くの民族を統治することは難しかったからです。これまでは、新たな民族がどこかの都市や文明を征服すると、そこに移住してしまうか、戦利品を奪って引き上げるかのどちらかでした。

セカコ:アッシリアが初めて距離の離れた多くの民族を統治することに成功したというわけですね。

先生:そうです。 歴代の王は、さまざまな民族から構成される広大な帝国を統治するために、工夫を凝らしました。征服地を(6)属州に分けそれぞれに(7)総督を派遣する直接統治や、情報伝達のための(8)駅伝制など、先進的な統治法を導入しました。

セカコ:駅伝制というのは、箱根駅伝みたいにして、情報を伝達する仕組みですか。

先生:そうですね。ただし、人間ではなくて、馬が人間を乗せて走ります。駅伝制は、古代に置いて、公文書や使者、兵士などを高速で運搬するために用いられたシステムです。駅と呼ばれる馬の待機場所を一定の距離ごとに設置し、駅同士を結ぶ道路網を整備して、馬を乗り継いで行くことで、情報や物資の迅速な伝達を実現していました。

セカコ:なるほど。属州というのは、征服地をアッシリア領の一つの行政区分に位置付けて、総督を任命して統治したというわけですね。

先生:その通りです。駅伝制も属州も、その後のアケメネス朝やアレクサンドロス帝国、ローマ帝国や秦漢帝国など、古代帝国に受け継がれました。

セカコ:そう考えると、アッシリアが、ファーストペンギンとして世界史に果たした役割は大きいですね。それまでの部族制国家の限界を突破して、中央集権的な国家になっています。

先生:そうですね。ご指摘の通り、それまでの部族制国家の限界を突破して、中央集権的な国家を構築した意義は計り知れないほど大きいですね。一方でアッシリアは、(9)強制移住(10)重税など抑圧策を用いたので、服属民の反発をまねき、統治は不安定でした。

セカコ:テキストに、アッシュールバニパルが亡くなると急速に衰退し、紀元前612年に都ニネヴェが陥落して滅亡した、とあります。

四王国分立

先生:セム系カルデア人がたてた(11) 新バビロニア王国(前625-前539)が、イラン高原のインドヨーロッパ系メディア人がたてたメディア王国(前715頃-前550頃)と結び、両国は前612年、都ニネヴェを攻略し、アッシリア帝国を滅ぼしました。

セカコ:この後オリエントは、四つの王国が並び立つ、四王国時代に入るんですよね。

先生:そうですね。新バビロニア王国はアッシリアほどの勢力を持てず、オリエントを統一できないまま、小アジアのリディアやエジプト、イランのメディアと争い続けました。

セカコ:ヘブライ王国のところで、南のユダ王国が、新バビロニアの王ネブカドネザル2世に滅ぼされたことを学びました。

先生:はい。 前586年、新バビロニアの王(12)ネブカドネザル2世 はヘブライ人のユダ王国を滅ぼして、首都イェルサレムの神殿を破壊し、住民を自らの都バビロンに強制移住させましたた。ヘブライ人のこの苦難を「(13)バビロン捕囚」と言います。バビロン捕囚はユダヤ教の成立につながった出来事で、頻出です。

セカコ:聖書にはどんなふうに記録されているんですか。

先生:気になりますよね。少し長いですが、重要な場面ですので、引用してみます。「歴代誌下」第36章11-20節です。

11 ゼデキヤは王となった時二十一歳で、十一年の間エルサレムで世を治めた。
12 彼はその神、主の前に悪を行い、主の言葉を伝える預言者エレミヤの前に、身をひくくしなかった。
13 彼はまた、彼に神をさして誓わせたネブカデネザル王にもそむいた。彼は強情で、その心をかたくなにして、イスラエルの神、主に立ち返らなかった。
14 祭司のかしらたちおよび民らもまた、すべて異邦人のもろもろの憎むべき行為にならって、はなはだしく罪を犯し、主がエルサレムに聖別しておかれた主の宮を汚した。
15 その先祖の神、主はその民と、すみかをあわれむがゆえに、しきりに、その使者を彼らにつかわされたが、
16 彼らが神の使者たちをあざけり、その言葉を軽んじ、その預言者たちをののしったので、主の怒りがその民に向かって起り、ついに救うことができないようになった。
17 そこで主はカルデヤびとの王を彼らに攻めこさせられたので、彼はその聖所の家でつるぎをもって若者たちを殺し、若者をも、処女をも、老人をも、しらがの者をもあわれまなかった。主は彼らをことごとく彼の手に渡された。
18 彼は神の宮のもろもろの大小の器物、主の宮の貨財、王とそのつかさたちの貨財など、すべてこれをバビロンに携えて行き、
19 神の宮を焼き、エルサレムの城壁をくずし、そのうちの宮殿をことごとく火で焼き、そのうちの尊い器物をことごとくこわした。
20 彼はまたつるぎをのがれた者どもを、バビロンに捕えて行って、彼とその子らの家来となし、ペルシャの国の興るまで、そうして置いた

Wikisource

セカコ:ゼデキヤというのが、ユダ王国の最後の王ですね。

先生:そうですね。

セカコ:ゼデキヤ王が不徳な王なので、神が罰を与えたように描かれていますね。

先生:そうですね。ネブカデネザル王は、よほどユダ王国の人々、つまりユダヤ人の記憶に残ったのか、旧約聖書のあちこちに繰り返し登場し、残虐非道な王として描かれています。

セカコ:「 彼はまたつるぎをのがれた者どもを、バビロンに捕えて行って、彼とその子らの家来となし、ペルシャの国の興るまで、そうして置いた。」という最後の部分が、バビロン捕囚ですね。

先生:そうです。

セカコ:バビロン捕囚から解放されて、ユダヤ教が成立していくんですよね。

先生:そうですね。その話は次回以降に置いておいて、今回は、新バビロニアと並び立った他の王国についてみておきましょう。

セカコ:用語集で調べました。 (14)リディア王国 (前7世紀~前547)は(15)サルデスを都とし、アナトリア半島に勢力を広げました。前6世紀のクロイソス王の時代に繁栄を誇りますが、アケメネス朝ペルシア帝国のキュロス2世に滅ぼされました。この国は、世界最古の(16)鋳造貨幣(エレクトラム貨)を発行したことで知られています。

先生:そうですね。地図でサルデスの位置を確認しておきましょう。 (17)メディア王国(前715頃-前550頃)はインドヨーロッパ系のメディア人がたてた国で、イラン高原の(18)エクバタナを都としました。こちらも、アケメネス朝のキュロス2世に滅ぼされました。

セカコ:(19)エジプト王国は、これが第26王朝ですね。前7世紀にアッシリアから自立し、ナイルデルタ(下ナイル)北部の(20)サイスを都とする王朝が栄えた。525年にアケメネス朝の(21)カンビュセス2世に滅ぼされました。

先生:時間もきたようですから、今回はここまでにしましょう。

セカコ:アケメネス朝についても、学びたかったです。

先生:アケメネス朝は学ぶことがたくさんありますから、あらためて別の機会に取り上げます。

セカコ:今回は鉄が世界史に与えた影響を学んだり、『旧約聖書』を読んだり、盛りだくさんの内容でした。今回はありがとうございました。みなさん、また、お会いしましょう。さようなら。

先生:さようなら。またお会いしましょう。


重要語句まとめ 

セカコ:今回の重要語句をまとめておきましょう。

1 アッシリア人 
2 アッシリア帝国 
3 アッシュールバニパル 
4 ニネヴェ 
5 世界帝国 
6 属州 
7 総督 
8 駅伝制 
9 強制移住 
10 重税 
11 新バビロニア王国 
12 ネブカドネザル2世 
13 バビロン捕囚 
14 リュディア王国 
15 サルデス 
16 鋳造貨幣 
17 メディア王国 
18 エクバタナ 
19 エジプト王国 
20 サイス  
21 カンビュセス2世


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