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ハートの一枚

2月ってさ、

1年のうちでハート出現率高めやんね、と心の中で思いながら、今年のバレンタインは旦那にチョコを渡さずに終わった。特に深い意味はないが、美味しいモノがあれば、その都度買って渡しているし、まあいっかと、それぐらいである。

今どきのバレンタインはどうなのかなと、姪っ子たちに聞いてみたが、
「え?何もしないよ」
と、あっさり。いや、そこは人それぞれなのだろうが、小学校高学年ともなれば、好きな子の一人や二人ぐらいはいて、ねぇねぇ、どうしよ?〇〇君にチョコあげようかなって思うっちゃけど、手作りの方がいいと思う?ていうか、どこで渡したらいいと思う?なあんて、お悩み相談がくるかと思っていたが、見事にこちらの妄想で終わってしまった。

それでも、今年のバレンタイン前に連休があり、その連休を利用して、手作りチョコを作り、ピンポーンとわが家のチャイムを押して、レンズの向こうで、もじもじしながら、
「あ、あのぉ・・・バ、バレンタイン・・・」
なんて言う子もいるわけで、なぜかその子にキュンとなる私なのである。

でも今年のハートは違った。

話はちょうど実家に帰っていた時にさかのぼる。
実家は熊本にあり、その熊本市では「バス・電車100円ウィーク」なるものが行われていた。これを使わない手はないと、気になっていたカフェへ行ったり、散歩を少し遠くまで行って、帰りをバスと電車で帰ってくるという、100円ウィークをあの手この手で利用しまくっていたのだ。

そして、それをもっと利用しようと姪っ子に声をかけた。この100円ウィークを利用してどこか行ってみないかと。すると二つ返事で、行く行く!と。しかし、姪っ子は習い事をたくさん抱えており、宿題もあるとなれば、行く時間は限られてくる。頭の中で、いろいろ時間をやりくりしてみたが・・・。
「あのね。動物園に1時間ぐらしかおれんかもしれんけど、それでも行く?」
「うん!行く!行こうよ!」
かくして、動物園弾丸ツアーが敢行されることとなった。

ツアー当日。といっても、声をかけた日の翌日の夕方だったが、所用を済ませた姪っ子とバタバタと準備をして、家を出る。予定していたバスが遅れている。そっか、世間は三連休中だ。二人で気を揉みながら、やっと来たバスに乗り込む。ちなみに、小学生は半額なので50円だ。

さあ、電車に乗り換え。

市内の繁華街へバスで出て、今度は路面電車に乗り換える。バスも乗客がたくさんいたが、電車も乗客がたくさん。途中まで座れないほどの満員御礼だ。
「ここからどれくらい?」
「うーん・・・20分ぐらいかな」
私はスマホで時刻検索とにらめっこ。かなりギリだな・・・。

電車に乗ったのが16時前。動物園の最寄りの電停まで20分電車に揺られ、電車を降りたら、なるべく早歩きで動物園へ向かう。その時間、公式サイトでは約10分。動物園の入園時間は16時半まで。
「ねえ、かなりギリギリなんやけど、本当に行く?」
「行く!行けるよ!」
マジか。めっちゃポジティブだ。

20分後、電車を降りる。時間は16時15分。おっ、行けるんじゃね?
姪っ子は小走り。私は身体がもつ限りの早歩き。ここで、ほぼ毎日散歩の成果が発揮されることになろうとは。
動物園まであと〇〇〇mという看板にも激励されながら、やっと正門にたどりついた。

17時の閉園まであと35分。

さあ、弾丸動物園ツアーの始まりだ!
とは言っても、もう閉園準備が始まっている動物園で、表の展示場に出ている動物はまばらである。そして半分ぐらいの動物が夕食タイムに突入しており、部屋の中で食事風景を見ることができる動物もいれば、まだ外で悠々と過ごしている動物もいる。

カバは外の水辺で悠々と泳ぎ、ライオンは座ってじぃっと人間を見ている。イヌワシは夕陽に照らされて神々しく、タヌキやキツネは檻の前をうろうろ。フラミンゴはいつもどおりといった感じで立っているし、キジやヤマアラシも何食わぬ顔で過ごしている。
爬虫類館のメガネカイマンやカメ、ヘビはあまり環境が変わらないので、マイペースに暮らしている。
ゾウはもう部屋に入っており、ご飯を鼻でつかんで口の中へ放り込み、むしゃりもしゃりと食べている。キリンはもう展示場から部屋へ戻っており、展示場はがらんとしていた。

「シカがおるよ!」
子どもは元気だ。風の子だ。いまだ勢いが衰えない。一方の私はというと、徐々に体力の限界を感じ始めていた。ほぼ毎日散歩の成果もここまでか?
「・・・えーっと、キュウシュウ・・・ジカ。お尻は・・・白い・・・ハートマーク・・・え!?ハート!?」

撮った!

「お尻がハートってよ」
「え?どこどこ?」
「うーん・・・シカが真横に向いとるけん、見えんね~」
「シカ!こっち向いて!」
「こっち向いたら、お尻が見えんやん」
「あ、そっか。シカ!あっち向け!」
「あっち向けって、なんちゅうことを・・・」

そんな勝手なことをシカに言いながら、しばらく見ていると、シカが向きを変えて、こちらにおしりを向けた。
「ほんとだ!ハートだ!」
姪っ子は感動している。私はこれを逃すものかとシャッターを押す。
「撮った?」
「撮った!」
二人で顔を見合わせてニッコリ。そして、シカに「ありがとう!」とお礼を言って次へと急いだ。

もうここから先は出口へ向かう道だった。展示場はあったものの、見ることができたのは、ホッキョクグマ、ペンギン、クロクモザル、リスザルだけだった。それでもこの短時間で見ることができたので、姪っ子も私も大満足だった。

正門に戻ってきた。閉園まであと五分。途中遊園地などの乗り物の誘惑もあったが、それを振り切ってギュッと凝縮して動物園を堪能した姪っ子の視界に、小さな家が写った。
「あれ、なに?」
「行ってみる?」
大人が背をかがめてやっと入れるぐらいの小さな家には、壁面に絵本が展示してあった。そう、熊本地震に遭った時の動物園の様子、避難の様子、復旧の様子、そして今が描かれた絵本だった。閉園時間が迫っているということもあり、私が姪っ子に読み聞かせをした。読みながら、今こうして動物たちが普段どおりに暮らしていけること、私たちも動物たちに会いに来れることは、被災復旧に尽力した職員の方々や他の動植物園の協力があったからこそだというのをあらためて感じた。

「今度は2時間ぐらい見たいな」
「そうだね。今度はゆっくり来ようね」




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