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坂の一枚

この坂がないと始まらない。

毎年、元旦を迎えると、朝から家族でおせち料理を食べて、その後は各自、好きなように行動する。部屋でゴロゴロするもよし、ちょっとコンビニに行ってくるでもよし、分厚いチラシをチェックして、気合入れて初売りに行くもよし。
でも私は家族でそろって行く初詣が好きだ。

ここ数年は、甥っ子姪っ子たちを連れて、バスや電車に乗り、初詣に行く。
小学生の彼らは、私をはじめ、周りの大人たちが坂の入り口でいったん足を止めて坂を見上げている横を、まるで何かの自主練かのように、何食わぬ顔して坂の端の方を駆け上がってゆく。

人の数だけ人が坂を登るペースがあると信じている。そう、私は私のペースで登っていけばいい。たとえ、途中できつくて、足が止まったとしても。
ふと見渡せば、今まで登ってきた坂の下に、これから登ってくる人たち、その向こうにビルの街並みが見える。なんだかホッとする景色だな。

うわっ!びっくりした!

「おばちゃん!ここにいた!」
そうさ。おばちゃんはここで街並みを眺めながら感傷にひたってい・・・た・・・のだ・・・よ?
「おばちゃん、荷物持ってあげる!」
「おばちゃん!俺はもう上まで行って戻ってきたんだぜ!」
「じゃあ、もう1往復してきたら?おせちが消費されるよ」
「やだ!一緒に行こーよー!」
「え~!やだ!おばちゃんはおばちゃんのペースでのんびり・・・ぐわっ」
体力が有り余っている甥っ子が背中を押し始めた。
「わかったわかった!登るから、もうちょっとペース落としておくれ」
「ねーねー、おばちゃんの右腕こっちだよね?」
「そだよ」
「じゃあ、こっち引っ張ってあげる!」
右腕のリンパ浮腫を気にして、いつも腕をさわったり、手をつなぐ時は、まず腕の左右を確かめてくれる。
それにしても、荷物を持ってもらい、背中を押してもらい、手を引っ張ってもらっているとはいえ、この熊本城加藤神社へと続く「棒庵坂ぼうあんざか」はやっぱりきつい。・・・ん?背中から何か聴こえてくる。
「ポテト♪ポテト♪ねーねー、お詣りしたらポテト食べたい!」
やっぱりそれだったか。もぉ、何が悲しゅうて、元旦そうそう、壮大な熊本城を眺めながら、屋台のフライドポテトを食べないかんとよ、ったく。

撮った!

何もこの坂を登るのは、元旦に限らない。
私が幼い頃は、帰省した時に祖父や父と一緒にこの坂を登って、熊本城へ散歩に行っていた。広大な二の丸広場で桜を見たり、時には、そのまま城の反対側の「御幸坂みゆきざか」へ降りていき、そのまま熊本市内の繁華街に繰り出していた。

坂もいろいろあるが、ずっと昔から私にとって、心に残る坂はこの熊本城へ続く棒庵坂である。年をとって腰が曲がっても、この坂は登り続けたい坂である。果たして、あと何年登れるだろうか。

坂にはいろんな物語がある。


記事を書くための栄養源にします(^^;)