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漂白

消したいのは知らぬ間に付いた色

わかっているのに消せない色

あたまのなかで思いこんでしまった他人の色

わたしがわたしをやるだけで発色される色

彗星の進行をひきとめるように尾っぽにぶら
下がる重しのような色



そういう色を漂白して、世界を感じてみたい。
漂白された布巾が洗濯紐の上で太陽の光を真正面から浴びながらそ知らぬ顔でパタパタと風になびくように。

かるくて、自由。

それが肝要だ。

そうしたら、と声が言う。

そうしたら、もっといろんなものの声が聞こえるよ。

花の声。
木々の声。
石の声。
山の声。
もの言わぬひとの声。
星の声。

欲張りなあなたはふつうに聞こえる人間の声だけでは物足りなくなってしまったね。
そして風変わりなものにしか興味を持てなくなってしまったね。
みんながきこえる世界だったら、興味を持たなかったかもしれないね。
それはあなたのおへそが曲がっているからかもしれない。へそ曲がりさん。


声は挑発するように、同時になだめるように囁く。


漂白剤を調合しようね。
これは同時に錬金術でもあるから、すぐに精製することはできないけれど。
でも、あなたは今日わたりをつけたね?


そうなの、と応じる。

まさしく。わたりをつけたわ。

西の世界から妖精が訪れて、シナプスの宇宙に魔法をかけて「わたりをつけた」の。本当に。だから、漂白剤はいつか誕生するはずよ。


真っ白に?

真っ白に。ううん、それは暴力的な白さではないの。ただ、「わたし」みを消すの。
エゴエゴしい、まとわりついて鬱陶しい膜のようなそれを消すの。
それを消したところで世界を見るんだ。
そのときは、世界もお日様を浴びたあとのシーツのようにおだやかな肌触りで包みこんでくれるはず。

それでどうするの?

そうしたら宇宙の底まで見透すことができるのよ。きっとそうよ。


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