回帰
暗闇にいた。
いた、という感覚すらない。それが暗いということも分からない。自分という始点をまずもっていなかった。
完全な闇だ。まずそれを思い浮かべてみてほしい。
出来たかい?
そうだ。それは言うほど簡単なことじゃない。
君はいま、あらゆるものを感覚しているその場からイメージの世界に飛んで感覚を遮断しなくてはいけない。「ある」ものを消していく作業は思うほど楽じゃない。
僕らは生まれた時から、もしくは母の胎内に宿ったときから感覚を徐々に拡大させてきた。いま、それを逆回転させて母の子宮に着床するその間際まで戻ってみてほしい。
出来たかい?
そうだ。感覚というものを頼りにその感覚をオフにしていく。しまいには自分という感覚、自分という寄る辺すらなくなってゆく。境目というものが分からなくなり「ある」ということすら消えてゆく。
そこから、はじめようと思うんだ。
僕は再び感覚するに至った。
大切なものを追って虚無の闇に身を投じたあと、どれくらいの時が流れたのかは知らない。そして僕が追っていたその大切なものが何だったのかも、実は思い出せないでいる。僕は生まれ変わったのだろうか?それもどうなのか分からない。分からないが僕はたしかにそれを探し求めるために今があると「感覚」する。
そう、僕はいま感覚している。
世界も自分もなかったはずのところから感覚するいまに再びやって来た。
世界があり僕がいる、ということ。
無限遠点の大切ななにか。
その、予感。
それが僕だ。
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