生まれてから

僕に『身体』がある

上を見ると 天使がいる

身動きが取れない、これが『生まれた』ということか

天使が 急いで消えてしまった

と同時に 僕は宙に浮く

眠くなって寝てしまった

お乳を与えられて眠ってしまったのだ

この時の僕は 母親からお乳を飲むことの意味も

分からないまま 時間を過ごしていく

のちになって あの時のことは こういうことだったのかと

理解するようになる

『大人』がいなくなると 天使が現れる

もう一人の『大人』は 『お乳』はくれないけど

ずっと抱っこをしてくれる

だから好きだった

『お乳』をくれる人に抱かれると

必ず眠くなるから イヤだった

眠ると 天使に会えなくなるし、遊べない

『母親に抱かれると いつも泣く』

大人になって 僕は聞かされた

泣いて 抱かれることに背こうとするけれど

抵抗虚しく 心地良くなり 寝てしまう

天使は笑う

消えていなくなるくせに そんな僕を知ってる

天井に向かって 腕を伸ばし

手をグーパー するのが

赤ちゃんの頃の僕の癖だった

天使を掴もうとして 届かない

時々 マリア様も現れた

僕の様子を見にきてくれていた

マリア様と天使が消えて 姿を現さなくなった

僕は ベビーカーに乗るようになって

その頃には 天使の姿は見えなくて

笑い声だけ聞こえていた

当時のベビーカーは 四輪で

今で言うなら 保育園の子供達が

4人ほど乗っているようなあれだ

ベビーカーの内側に

紫色っぽいピンク色のふわふわした保護マットがついてて

それをくわえて 味がしないザラザラした感じ

今でも覚えている

母に大人になってから保護マットのことを話すと

あれはあなたが赤ちゃんの頃に処分してるから

なぜベビーカーのことを知ってるのか

不思議がられた

いつから 天使と遊べなくなったのか

もう忘れてしまった

最近でこそ 見なくなったけど

時々 同じ夢を見る

自分一人がやっと通れるくらい

パイプ管の中にいる

ほんのり黄色明るい中、

僕は必死に 上へ上へと泳ぐ

天井まで 泳ぐと 口と鼻を出すのがやっとくらいの空間しかなくて

天井の蓋を開けると まだパイプ管は続いていて

ひたすら泳ぐ

とても苦しくて怖い

ようやく一番上の天井に辿り着く

苦しかった… 

と、そこで目が覚める

何度も同じ夢を見る


それ、産道の夢なんじゃないの

あぁ、そうか、産道か


この記憶や夢のことを

生まれる前の記憶なのかと

ずっとあとになって理解した

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