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インボイスの話。結局なんの結論も出ないけど。

こんにちは。今日は税理士業界の人間らしく。インボイス制度の話をしましょう。
この話は前々から書こうと思っていたけど、なかなか書く覚悟がなく後ろ倒しにしてたもので。この前ちょっと話題になっていたので便乗しようと思います。

注意事項
・これはインボイス制度の概要をふんわりお伝えするという趣旨です。
実際にこうするのがいいよ、とかそういうアドバイスする立場ではないのでその点ご容赦ください。
・説明の都合上簡略的に表現している部分が多々あります。細かい話は国税庁HPや最寄りの税理士さんにご確認ください。

初めに

さて、消費税法の改正により2023年10月から導入されることとなったインボイス制度。この言葉、皆さんどこかしらで聞いたことはあるかもしれません。ですが、制度としてはよくわかっていないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回はそんなインボイス制度の全体像をお話させてください。なお、私自身は企業勤めの人間ですので、いわゆる免税事業者側だけではなく、課税事業者側、つまり企業側で感じる部分も含めて少しお話をさせていただければと思います。

インボイス制度とは

さっそく本題に入りましょう。インボイス制度というのは、簡単に言うと請求書の形式を整えなさいねっていうお話です。
インボイス制度、もう少しきちんとした言葉を使うと「適格請求書等保存方式」とかいいます。正しい形式の請求書をきちんと保存しておきなさいね、っていうルールです。まぁ保存の話は今回は特に触れませんが。

きちんとした請求書じゃないとどうなるの?

きちんとした請求書じゃないとどうなるかという話は図を使いつつ説明していきます。具体例がないとわかりにくいので、今回は農家さんとスーパーマーケットの例でみていきます。

請求書というのは、発行する側と受領する側がいますよね。下記でいうと、請求書を発行する側が農家さん、受領する側がスーパーマーケットです。

本日の登場人物

ここで、農家さんの発行する請求書が「きちんとした請求書(適格請求書といいます)」であるかどうか、というのが重要になってきます。

実はこのインボイス制度ですが、制度の影響を直接受けるのは農家さんでありません。直接影響を受けるのは、請求書を受け取る側であるスーパーマーケットさんなのです。
スーパーマーケットさんは、農家さんから受け取る請求書が適格請求書でない場合、仕入税額控除が受けられなくなってしまいます。
インボイス制度!インボイス制度!と叫ばれているのは、この仕入税額控除が受けられなくなるという部分の影響が大きいからです。ちなみに直接的に影響を受けるのはスーパーマーケットさんですが、農家さんももちろん間接的に影響を受けます。めちゃくちゃ影響うけます。

ちなみに、農家さんが直接消費者にお野菜を売っている場合は特に影響ないです。我々消費者は仕入税額控除なんてものは必要ないので。

消費税の仕組みの話

突然専門的な言葉がでてきました、仕入税額控除。仕入税額控除ってなに?ってなりますよね。仕入税額控除を理解するためには、消費税の仕組みを理解しておかないと難しいかもしれません。

消費税というのは皆さんもよくご存じの、ある意味最も身近な税金だと思います。この消費税、実は少し特殊な税金で間接税と呼ばれています。
間接税というのは、税金を負担する人と納付する人が異なるものを指します。

消費税を負担するのはご存じの通り我々消費者です。なので、スーパーマーケットで買い物をするときにレジで商品代金と消費税を合わせて支払いますよね。ですが、私たちは消費税を国には収めてはいません。
消費税を国に納めてくれるのは、今回の例でいうとスーパーマーケットさんです。消費税を我々消費者から預かって、我々の代わりに国に納めてくれています。

ちなみに間接税の対義語が直接税ですが、わかりやすい所でいうと固定資産税や自動車税をイメージしていただくといいでしょう。家や車を持っている人が負担する人で、その人が納付まで行っていますよね。

で、仕入税額控除って?

上記でスーパーマーケットさんが我々の代わりに消費税を納めると記載しましたが、単純に預かった消費税の全額を納付するわけではありません。スーパーマーケットさんは、我々から預かった消費税からスーパーマーケットさん自身が支払った消費税分を差っ引いた残額を国に納付します。

単純に預かった消費税全額を納めるわけではないのは、スーパーマーケットさんも商品の仕入れの際に消費税を支払っているからです。スーパーマーケットさん自身は消費者ではないので、消費税を負担するのはおかしな話です。なので、スーパーマーケットさんが納付する際に支払っている消費税分は差っ引いて残額を納めましょう、というのが消費税の仕組みなのです。(ちなみに消費者の対義語は事業者をイメージしていただくのが良いです。)

この支払った消費税分を差っ引く、というのを難しい言葉で仕入税額控除といいます。

8円マイナスすることを仕入税額控除という

つまりどうなるの?

インボイス制度の影響ですが、スーパーマーケットさんからすると、商品を仕入れた際に適格請求書を受け取らないと、仕入れ時に支払った消費税(8円)を差っ引くことができなくなります。

8円差っ引けなくなるということは、スーパーマーケットさんは預かった消費税を全額、国に納付しなければいけなくなります。上記の図でいうと16円の納付になります。
そうなると、8円分スーパーマーケットさんの負担が増加してしまうんですよね。
スーパーマーケットさんからしたら、それは困るよね、って話で、農家さんたちに適格請求書を発行するようにしてくださいとお願いして回らなければいけない状況なわけです。

請求書発行する側の問題は?

この適格請求書の発行なのですが、一つ大きな問題があります。この請求書は誰でも発行できるわけではないのです。
適格請求書を発行するためには税務署に申請をして登録番号を付与してもらう必要あるのですが、免税事業者はその申請を行えません。これが厄介です。

また少し消費税法という法律のお話になってしまうのですが、消費税は事業者全員に納税義務があるものではありません。簡単に言うと事業を始めたばかりの人や売り上げ規模が小さい人は消費税の納税義務が免除されます。この人たちは、預かった消費税を国に納付する必要がありません。
このように消費税の納税義務が免除されている人たちのことを私たちの世界では免税事業者と呼んでいます。ちなみに消費税の納税義務がある人たちは課税事業者と呼びます。

上記にも記載した通り、免税事業者は適格請求書を発行することができません。なので、もし農家さんが免税事業者だった場合、スーパーマーケットさんはどう足掻いても適格請求書を手にすることができません。
適格請求書をもらえない場合、このままだとただスーパーマーケットさんの負担が増えるだけですから、それを避けるためには農家さんに対して値下げの交渉をすることになります。

値下げ以外の対策としては、農家さんに課税事業者になるようお願いするという方法もあります。消費税は免税事業者であっても、税務署に届け出を提出すれば課税事業者になることができます。届け出の提出によって農家さんは課税事業者となり、適格請求書を発行することができるようになるわけです。

あとは最悪の場合、スーパーマーケットさんはその農家さんとの取引を停止してしまう可能性があります。スーパーマーケットさん側からしたら、ほかに課税事業者の農家さんがいるのであれば、その農家さんから商品を仕入れれば仕入税額控除ができるわけですから。
取引先によって消費税分を差っ引けたり、差っ引けなかったりするわけなので、どうしてもスーパーマーケットさん側からしたら取引先を選びたくもなってしまいますよね。

免税事業者はどうする?

さて、この場合免税事業者である農家さん側に選択肢はないのでしょうか?この答えは、お互いのパワーバランスによります。
例えばその農家さんでしか作っていないお野菜があって、どうしてもそれをスーパーマーケットさんが仕入れたいのであれば、値下げを飲んでもらえなくても、適格請求書をもらえなくても、その負担しなければいけない消費税分をコストとしてきっと商品の仕入れを続けるでしょう。

とはいえ、上記みたいなパターンはなかなかないと思います。よっぽど付加価値高い何かとか、あとは不動産賃貸とかならあるかもしれないですね。それ以外だと、どうしても発注者側、スーパーマーケットさん側の立場が強く、値下げを飲んだり課税事業者になったりという決断をする農家さんが増えるのではないでしょうか。

スーパーマーケットさん側の話

特に値下げの話なんですけど、発注側、スーパーマーケットさん側的にはどうなんですか?というと、実は結構デリケートな話だったりします。
特にスーパーマーケットさんが大きな企業であれば、単純に消費税分を値下げ要請してしまうと下請法とか独占禁止法とかそういうルールに抵触する可能性があるんです。(現時点ではあくまで可能性、という程度ですが)

スーパーマーケットさん側からすると、「なんでだ!今まで農家さんが消費税上乗せしてポケットにないないしてただけじゃないか!!!」と思うかもしれませんが、消費税ってそうシンプルな話じゃないんですよね。

農家さんが免税事業者の場合、確かに消費税として受け取った8円を納付してはいませんが、その分、自分が支払った消費税についても仕入税額控除の適用は受けることができません。農家さんだって、肥料かったり、苗買ったりするときに消費税は支払っているはずです。
免税事業者の農家さんは、消費税の納税をしない代わりに、自分が支払った消費税をそのまま負担しているのです。

なので、農家さんは、スーパーマーケットさんに消費税の8円まるっと値下げしてください!といわれてしまうと、受け取っていた消費税分の収入はなくなるものの、今後も仕入れにかかる消費税は負担し続けるわけです。そうなると、今度は農家さんが困ったことになってしまいます。

なので、下請法とかそういうルールに抵触しないようにするためには、ここの部分も考慮して取引価格を決めなさいというような記載がされているようです。とは言え、具体的な対応がまだ見えていなかったりするのでスーパーマーケットさん側でも対応に悩んでるのが実情です。

終わりに

読んでいただいてわかる通り、インボイス制度って、いまいち誰も得しない制度です。(消費税の納税額は増えるはずなので、国としてはポジティブな話かもしれませんが)

スーパーマーケットさん側としては、取引価格の交渉をしたり課税事業者になる様にお願いするのも気持ちの良いものではないですし、どうしても消費税分の持ち出しはゼロにならないでしょう。
農家さん側では、逆に値下げの依頼があったり、課税事業者にならざるを得なくなったりするでしょう。課税事業者になるということは消費税の納付を今後行っていかなければいけないということで、金銭的な負担だけでなく手間も増えます。

国の決めたルールなので今そこをどうこう言うつもりはないですが、お互いがお互いの立場を知って少しでも穏やかにインボイス制度に対応できるといいなと思っています。理想論っぽい感じでまとめてごめんなさい。おしまい!

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