「積極的な態度の観客」のつくりかた
ラーメンズが好きだ。
ラーメンズは1996年に結成されたコントグループで、その笑いのスタイルはアートとも称されることがある。そのコントの脚本は小林賢太郎によって手がけられている。
ラーメンズを研究してる論文はけっこうある。シュールコントをさらに細分化したもの、言葉遊びに着目したもの、笑いの手法を分析したもの、などなど。だけど、小林氏が観客をどうすれば積極的な態度にさせるかを考えてコントを組んでるかはあまり触れられてない
小林氏の著作、『僕がコントや演劇のために考えていること』で繰り返し述べられているのは、自分がやりたいことは「目の前のお客さんを楽しませること」であること。
それと、チケット代を払っている観客を納得させるパフォーマンスを行うこと。
演じる目的は「だます」のでなく「楽しませる」、観客の目的は「タネを見破る」でなく「不思議を楽しむ」ことである。
楽しんでもらうために、徹底した情報操作がコント中に見られる。
まずは徹底したミニマムなパフォーマンス。セリフを極限まで削り、小道具、大道具もなくてはいいものは使わない
「観客から思考を借りられるポイントだけは、きっちり余白を作っておいてあげるということ」を意識して作品を作っていると小林氏自身は述べているように
台詞は一文字でも少なく、ものを使わず言葉やパントマイムで表現する。
結果として強制的にイメージする力を使われた観客は頭が積極的になるという。
小林氏曰く、「これ(頭が積極的になった状態)は笑いや感動を導くのにとてもいい状態」という。
ユーモア学的視点でこの発言を考えると、「異化の程度(意外性)が大きく、同化(なあるほど!納得)で得られる内容が高度になればなるほど上等なものとして評価される」。
余白を残すことで、場面場面に観客の生活、常識、こうなるであろう、こうであろうという一定の図式が出来上がる。
小林は「セリフはヒント集」というように、セリフによって舞台上の二人の関係性、状況を観客のイメージによってつくられていく
いわば、観客は舞台上に自分で作った世界観を生み出す状態。
シェイクスピアはロミオとジュリエットの冒頭に劇の結論を述べて、観客が舞台に感情移入しすぎないように工夫していたように、
小林氏も情報制限によって観客があくまで「非日常のなかの日常」を眺める第三者の立場を保つよう努力する
「面白くて、美しくて、不思議であること」が小林氏の目指す世界観
それを実現する重要なルールは「コント」とか「演劇」という概念の完成予想図を持たずに自分の作りたいものを純粋に形にするというやり方だという。
その見せたい世界観をパフォーマー側が「見てください!」と一方的に押し付けるのでなく、観客側も一定以上の努力をして「見せてください!」という態度であり、リアリティのある表現の場であることが舞台を中心に活動をする理由の1つであるという。
小林氏が目指すのは「自分の作品で目の前のお客さんを楽しませること」である。
その目的のために生み出された積極的な観客をつくるための手法は、プレゼンなどビジネスの場からプライベートな場でも活用できるものだと考える。
できる限り情報を削り、観客のパーソナルに入り込める余白を残しておくこと。
この小林賢太郎の、たくらみを知って実際のコントをみると、コント中に小さな企みがギチギチに込められていることがわかる。
だからこそわたしはラーメンズが好きなのだ。
リンクを貼るのは、見る側の想像力が心地よく裏切られるコント。
「ん?どういうこと?」と不思議に思い「なあるほど!」と納得する快感を味わってみてほしい。
スキを押すと、2/3の確率で冬にうれしい生活雑学を披露します。のこりはあなたの存在をひたすら誉めます。