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(米)精神医学会が出した診断基準とは?解説と対応方法

・自閉スペクトラム症ってなんだろ?
・言うことを聞かないし、わがままだけじゃないの?
・いつも同じ行動をしてるよね?
・癇癪をよく起こすし大変そう。
・空気よめないよね?

 一般的には、こんなことを言われる事もあるでしょう。実際は脳の病気によるもので、その根本原因はまだはっきりしていません。

 現在分かっているところまでで、アメリカ精神医学会が出している『DSM-5』という診断基準では、これから説明するA~Eが必要になってきます。

 この記事では、診断基準と筆者なりの対応方法について解説しています。

A.複数の状況で、社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥があり、現時点または病歴によって、以下により明らかになる。

(1)相互の対人的、情緒的関係の欠落で、例えば対人的に異常な近づき方や通常の会話のやり取りができないことといったものから、興味・情緒または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり、応じたりすることが出来ないことに及ぶ。
ASDの森

 ここでポイントとなってくるのは、まずは複数の状況で症状が起きていることが挙げられます。
 家だけでコミュニケーションの困難さが生じているだけでは、ASDの診断をするのは難しいでしょう。

 もし幼稚園や保育園へ通っている場合には、園長先生の許可を得て、園への訪問や担任の先生へのアンケートを行い、お子さんの確認をすると良いでしょう。

 通常の会話のやり取りの難しさについては、話を聞いて理解したり、何か経験したことを相手に伝えることの難しさかなぁーと分かりやすいかと思います。しかし、社会的相互反応と言われると急に難しくなりますね。

 私たちは誰かと関わるときに大きく分けると2つの関わり方をします。
 1つは相手と関わることを目的とする行動で、もう1つは相手を動かすことを目的とする行動です。ここでいう社会的相互反応とはこの両方を含みます。

 1つ目の行動は『相互伝達系』といい、挨拶や声掛け、情報提供などがあります。(例:やあ!、いただきます、天気いいね!)
 2つ目の行動は『要求伝達系』と言われ、コミュニケーションと取っている相手に指示をするようなものになります。(例:起きて!、捨ててきて!、買って!)

 特に、ASDのお子さんは相互伝達系の獲得が遅れる傾向にあります。コミュニケーションと取る相手に興味や関心がないと、会話が始まらないですし、興味や関心が強すぎると異常な近づき方をしてしまいます。

 まずは、誰かと関わることが楽しいな、うれしいな、便利だなと思ってもらえるような対応が必要でしょう。

(2)対人的相互反応で非言語コミュニケーション行動を用いることの欠陥、例えば、まとまりのない言語的、非言語的コミュニケーションから、視線を合わせることと、身振りの異常、または身振りの理解とその使用の欠陥、顔の表情や非言語コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ。
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 非言語コミュニケーションには様々なものがあります。身振りを理解したり、視線を合わせること、表情を読むなど沢山あります。
 私たちは無意識に非言語的なものを、相手から読み取り、コミュニケーションに生かしています。

 例えば、話している相手が頻繁に時計を確認していたら、”もしかすると、予定があるのかな?”なんてことも考えて、話を早く切り上げたりするでしょう。また慌てている人に『すいません!トイレは!?』と言われれば、『ありますよ』や『用を足すところです』とは答えずに、トイレの場所を教えるんじゃないでしょうか。

 読み取るのが苦手であるならば、直接的な表現で伝えてあげましょう。『ちょっと待って』とかではなく、『5分間、椅子に座って待っていてね』などになります。

(3)人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥で、例えば、様々な社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像上の遊びを他人と一緒にしたり、友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ。
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 体調が悪く病院に行き、受付を済ませた後は、おおかた待合室で座って待つことになります。ここでは特に何も言われていませんが、周囲の人たちは話さずにテレビを見ながら、自分の名前を呼ばれることを待っています。何か話すにしてもヒソヒソと話すんではないでしょうか?

 これが社会的な状況に合った行動になります。この行動を調整することが難しくなります。

 ここでも同じように、直接的な表現で伝えてあげましょう。

 『病院の待合室で椅子に座っているときには、話してはいけません。何か言いたいことがあるときには、ヒソヒソ話の声の大きさにしてね』など、具体的に伝えるようにしましょう。

B.行動、興味または活動の限定された反復的な様式で、現在または病歴によって、以下の少なくとも2つにより明らかになる。

(1)常動的または反復的な身体運動、物の使用、または会話
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 ASDのお子さんの一部には、楽しそうにオモチャで遊んでいますが、一列に並べて遊ぶことがよくみられます。大きさや形、色で順序が決まっている場合もありますが、ほとんどの場合、規則はないようです。

 常同的な行動がなぜ、起きているのか?今、対応しているお子さんは、その行動から何を感じているのか?考えたり、推測ことが大切ですね。

 時々、必死にやめさせようとする親御さんがいらっしゃいますが、逆効果になります。不安を助長しより常同的な行動が増えます。どのようにしたら楽しめたり、安心できるかを考えてみましょう。

(2)同一性への固執、習慣へのかたくなななこだわり、または言語的、非言語的な儀式的行動様式
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 銀行に行ってから、買い物して、クリーニングを出そうかな・・・なんて私たちは行動するとき最適な道順や内容にしまよね。
 同じ買い物をするという行動でも、状況に合わせて道順をかえて移動します。しかし、ASDのお子さんの場合、目的地に行く道順はいつも決まっていないと落ち着かなく、パニックや癇癪の原因になってしまうこともよくあります。

 目的が同じでも、手段が変わることに不安を感じるのであれば、手段を変えないことが大切です。安心して社会参加できることがまずは必要です。

(3)強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味
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 車や飛行機、パトカーへの興味・関心はどのお子さんでもよく見られるでしょう。特に男の子では楽しそうに遊んでいる様子をみるんではないでしょうか。
 しかし、ASDのお子さんの中には、車のオモチャ自体ではなく、車のメーカーやエンブレムの形に異常な興味を示す子がいます。他にも家電メーカーなど通常、子どもが興味を示さないようなものに強く惹かれていることがあります。

 『また変なものを覚えて・・・もっと他の子が面白がるような事に興味を持ってもらえないかしら?』と思いたくなりますよね。
 まずは、大人が子どもに興味を示してみてはいかがでしょうか?そこをスタートとして、やり取りの楽しさを身に付け、大人や他の子どもに興味を持てるようにつなげていくのはいかがでしょうか?

(4)感覚刺激に対する過敏さ、または鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味
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 特定のにおいを頻繁に嗅ぐ、オモチャの見え方へのこだわりなど、感覚の偏りに代表されるような行動があります。この辺りは、これまで書いてきた記事を参考にしてみてください。

C.症状は発達早期に存在していなければならない。

 発達早期とは、おおむね2歳までの事をさすようです。
 2歳までに上であげたようなA.やB.の症状が出ている事が必要になります。2歳では早すぎる、もっと後にならないとわからないのでは?という意見が聞こえてきそうですね。

 ある調査では、過去から現在までに自閉症と診断された方は、人口の1.8%いるようですが、その方々の実際の有病率は1.1%だったそうです。0.7%の人たちは自閉症と小さい頃に診断を受けたものの、現在は違うという結果であったようです。

 2歳では早すぎるのではないか?と意見もありますが、早期療育が叫ばれている昨今では、2歳という年齢は診断に適切なのではないでしょうか?

 もちろん、診断をつける際に保護者への最大限の配慮は必要になります。診断だけつけて支援がなければ保護者の不安をあおるだけになります。

D.その症状は、社会的、職業的、または他の重要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしている。

 A.やB.で上げたような症状は、日常的な様々な場面で生じます。
家の中だけでなく、家の外でも起きますし、学校の中でも、仕事場でも起きてきて、対人的な不具合を生じさせます。

 誰でも苦手なことや、頑張ってもできない事はあります。それを強く求められると、いやな気持になるだけでなく、精神的な病気になるのは言うまでもないでしょう。

 苦手なことやできないことが分かった時点で、配慮を求めることや啓発していくことが必要になります。

E.これらの障害は、知的能力障害(知的発達症)または全般的発達遅延ではうまく説明できない。知的能力障害と自閉スペクトラム症はしばしば同時に起こり、自閉スペクトラム症と知的能力障害の併存の診断を下すためには、社会的コミュニケーションが、全般的な発達の水準から期待されるものから下回っていなければならない。

 一般的に知的能力は、ウェクスラー式の知能検査では、言語理解や知覚統合、ワーキングメモリ、処理速度などの項目で測定していきます。検査は言語的な手続きが中心であり、やはり、言語的・非言語的なコミュニケーションの困難さがあると、知的能力はどうしても低くなってしまうようです。

 ここでいう社会的コミュニケーションは、上で出てきた言語的・非言語的なコミュニケーションや要伝達系、相互伝達系など全体を指します。端的にいうと、『空気を読みながら、他者と上手く付き合っていく』能力です。

 知的能力障害と自閉スペクトラム症の特徴をしっかりと理解したうえで、今、お子さんに生じている不具合が、何から生じているのか?が考えます。
激しく絡まった複数のヒモを解いていくような作業になるでしょう。

まとめ

 今回は、自閉スペクトラム症のお子さんの診断基準と対応方法について記事にしました。この記事は、アメリカ精神医学会が出したものであり、中心的な障害はA.とB.になります。
 今回のDSM-5以外にも世界保健機関(WHO)が出した診断基準ICD-11もあり、次回の記事にしたいと思います。

 診断することは、医療機関でサービスを受けたり、療育手帳をもらったりする上ではとても大切になりますが、支援を受けることとは少し違います。診断名がなくても、児童発達支援事業所や放課後等デイサービスなどで支援を受けたりすることができます。

 必要に応じて診断名をつけて、子どもたちが住みやすいように環境を整えることができると良いですね。

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