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オススメ参考書6 総合的研究 記述式答案の書き方 﨑山理史著 松野陽一郎著

オススメ度 ☆☆☆☆ 


著者の一人である﨑山先生は開成中高の教諭であり、その前は麻布中高で教諭をされていた。僕は大学を出てしばらく経ってからとある大学の教職特別課程というもので教職免許を取った。そのときに麻布で教育実習を行った。そこで指導教官は別の先生だったのだが、おそらく指導教官の次にお世話になったのが﨑山先生だ。数学の教師は厳密派とそうでない派にわかれていて、予備校によってはそれで派閥が出来たりするのだが、﨑山先生はとことん厳密な先生だ。麻布の授業自体も﨑山先生が麻布の教諭になられてからより厳密よりになったという話を聞いた。具体的には、同値の考え方を大切にし、中学1年生で連立方程式を解くときからひたすら同値変形を意識する。本書においてもその厳密さがよく表れていると思う。﨑山先生はとても生徒に人気があった。麻布の生徒は不真面目な生徒が多いのだが、それでも﨑山先生が伝える数学の美しさに魅せられていたのかもしれない。僕も生徒なら間違いなく憧れていただろう。

面識のあるかたが書かれた本を紹介するのは躊躇する。どうしてもひいき目に見てしまうことがあるかもしれないし、知り合いの本ばかり紹介していてはこれを読む人も客観性を疑問に思うだろう。それゆえなるべく避けたいのだが、それでも本書は唯一無二であると考え取り上げることにした。


さて、本書は数学の記述について書かれた本である。192ページと薄い本でかなり丁寧に解説してあるので読みやすい。最初は「判読できる文字で書く」などの当たり前のことから書いてある。ただ、60ページあたりから同値の話になりほとんどの受験生にとっては当たり前のことではない。問題自体はそれほど難しくないのだが、書いてあること自体は難しい。この本の良さは数学の記述の基礎が学べるというより、同値変形などについての考え方が学べて数学をより論理的に捉えられるという点にあるのではないかと思う。


たとえば分数式の恒等式については多くの本で取り上げており、青チャートでもなぜ分母=0の値を数値代入して良いかの説明があるが、正直よくわからない。これについて理路整然とした答案と解説が載っている。

後半では軌跡・領域の典型問題を取り上げる。おそらく多くの人が参考書や学校で習っている答案を不十分であるとする。逆の確認をしっかりとするか、同値性を意識した書き方をすべきと書いてある。たしかにそのとおりなのだが、受験生にここまでの答案を要求するのはなかなか難しい部分もある。模試の採点を100点満点とするなら140点くらいの答案といった印象だ。大学入試の採点は学校によっては模試の採点よりずっと厳しかったりもするようだが、採点基準を公表している学校は少なく、受験生が満点を取るためにどこまで書くべきかの基準は難しい。これについては大学側がもう少し採点基準を公開してほしいところ。検定教科書自体にそこまで踏み込んだ答案や記述が無いことからも教科書程度に書ければ減点はされないように思うがどうなのだろう。数学的な正しさというのは客観的なものだが、受験生がどこまで書くべきかというと別の問題な気がするので難しい。僕自身も生徒に指導するときはここまで厳密な指導はしていないし、生徒のレベルや志望校を考えながらこれくらい書けばいいかなという感じにしてしまう。これについては当然お叱りの声もあると思うが。


そういったこともあり、全ての受験生がこれを完璧にすべきという内容ではない気もするが、たとえ受験でここまでの答案が要求されていなかったとしても学ぶべきことは多い本だ。扱っているテーマは賢い生徒なら既存の参考書の書き方に違和感を覚えていたところも多いだろう。また、読み物としてもとても面白いと思う。



(どんな人に向いているか)


書いてあること自体は大半がかなり厳密な話なので数学が出来る生徒でないと理解が難しい部分がある(とても丁寧に説明してあるのだが)。載っているレベルの問題についてはとりあえず答は出せるくらいの生徒が改めて読むのに向いているように思う。記述答案が全く書けない数学が苦手な生徒が読むものとしては高度な内容。そもそもこういう論理の話を面白いと思える生徒というのは現在の学力に関係なく数学が向いている生徒な気がする。少し読んでみて面白いと感じる生徒は是非読んでほしい。あとがきにはyoutubeで有名な古賀真輝さんの名前もある。


◎数学の論理的な話を面白いと感じる生徒
◎一般的な指導者
◎同値についてしっかり学びたい人
◎古賀真輝さんの動画が好きな人
〇難関国公立を受験する生徒
〇上位進学校の生徒
〇今習っている先生が同値記号を使う生徒
△模試レベルでも記述となると全く書けない生徒



(問題のレベル)1~4or5(10段階)


問題のレベルとしては易しい。問題として一番難しいものは基本対称式の絡む軌跡。ただ、前述したように解説や答案としてはかなり難しいものもある。分野としてはBはなく、Ⅱも微積はない。曲線族の通過範囲に関して、いわゆる逆手流とファクシリの原理での解答を紹介しているが、解説はあっさりしており既知である生徒を対象にあくまで記述のしかたに重点をおいているように思う。



(気になる点)


かなり厳密に書かれた本なので、この本のレベルまで書けないとダメだと思って逆にその問題や数学自体が難しいと感じてしまう生徒もいる気がする。また、同値について詳しく学びたい人はあとがきで「総合的研究 論理学で学ぶ数学」を薦めているがこちらは本書よりだいぶ難しいので本書だけで全て書いてほしかった気もする。これについては出版社の事情もありそうだが。


※参考書を批判する目的ではなく良いものを紹介する目的です。すべての参考書で気になる点を挙げています。

こちらの参考書についてはyoutubeでも紹介しております。
是非ご覧ください。

オプスタ


僕が代表講師として立ち上げたオンラインプロジェクトです。
オンラインでコーチング、学習マネジメント、個別指導等を行っています。
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