1947優生保護法案提案理由説明
国会会議録より
第一回国会衆議院厚生委員会1947/12/1
加藤シヅエ代議士による優生保護法案提案理由説明
(以下の投稿番号はtwitterへ分散投稿した折の通し番
号です。)
投稿番号1
この優生保護法案は他の法案と違いまして、議員提
出であるということに非常に意義があると存じます。
投稿番号2
ご承知のように戦争中に国民優生法という法律が出
ました。これは名は優生法と申しておりますけれど
も、その法律の立案の精神は軍国主義的な産めよ殖
やせよの精神によってできた法律であることは、ご
承知の通りであります。
投稿番号3
そうしてその手続きが非常に煩雑で、実際には悪質
の遺伝防止の目的を達することが殆どできないでい
るということは、この国民優生法ができてから今日
まで、実際どのくらいの人がこの法律を利用したか
という報告を見ますとよくわかることでございます。
投稿番号4
また現行法の国民優生法は、むしろ出産を強要する
ことを目的といたしておりますために、
投稿番号5
実際に出産が適当でない人が、出産を逃れるような
色々の医学的な処置を医師に求めることを不可能に
する結果、国民殊に妊娠、出産をいたさなくてはな
らない婦人たちが非常に苦しんでおるという現状で
ございます。
投稿番号6
殊に現行法の国民優生法は、その第十六条において
は、断種手術並びに妊娠中絶の届け出制ということ
をいたしておりますので、
投稿番号7
断種を受けるべき者、あるいは妊娠中絶の処置を医
師に受ける当然の理由があると思われる者でも、そ
の医学的な適応症が、非常に煩雑な届け出を必要と
することになっておりますので、その結果非常に婦
人たちは苦しんでおるというのが現状でございます。
投稿番号8
そこで私どもはこの法案を提出いたしまして、その
目的は第一章の総則に書いてある簡単な条項がすべ
てを説明しております。
投稿番号9
すなわち第一条に「この法律は、母体の生命健康を
保護し、且つ、不良な子孫の出生を防ぎ、以て文化
国家建設に寄与することを目的とする。」と申して
おりますが、これはこの法案すべてを説明しておる
と私は思っております。
投稿番号10
元来今までも母体の生命、健康を保護するとか、
あるいは不良な子孫の出生を防ぐというようなこと
は広く言われておったのでございます。
投稿番号11
けれども実際の母体の保護の方法をどういうふうに
するか、あるいは不良な子孫の出生を防ぐ方法はど
うするかということになると、非常な消極的な方法
のみを選んでおったのでございます。
投稿番号12
今日世界の医学は非常に進歩しておりまして、衛生
の見地からは、すべて事が起こってからそれを処置
するというやり方は、非常に旧式なことになってお
ります。
投稿番号13
今日は生命の健康を保護するためには、むしろ予防
医学の見地から処置をしなければならないというの
が、文化国家の諸外国においてやっておるところで
ございます。
投稿番号14
予防医学の知識を採用するということになると、
わが国の医学界の現状は、今日非常に立ち遅れてお
るということは事実でございます。
投稿番号15
従いまして私どもは、あくまでもこの予防医学を全
面的に採用して、母体を保護し、優良な子孫を生み
たいということを主張いたすものでございます。
投稿番号16
並びに私はこの法案において、母体の保護と優良な
子孫を生みたいということを目的とするとは申して
おりますけれども、事柄が断種の手術というような
ことに及んでおりますし、あるいは妊娠の中絶とい
うようなことにもなっておりますし、
投稿番号17
また現在の日本の法律は、受胎を未然に防ぐところ
の、いわゆる産児の調節ということについては、
法を持ってこれを禁止するということは何らいたし
ておりませんけれども、
投稿番号18
この法案の中においては、こういう受胎を未然に
防ぐところの処置は、医師のみがこれを指導すると
いうことを、特に明記しております関係上、この優
生保護法案は産児調節の趣旨を持った法案であると
いうふうに世間では見られております。
投稿番号19
その結果はこれが必然的に日本の人口の問題と多く
の関連をもって考えられることは当然でございます。
投稿番号20
しかし提案者といたしましては、この優生保護法案
がすぐに日本の将来の人口を減らすものとか、ある
いは殖やすものとかいうような結論を下すことは、
決してできないと信じております。
投稿番号21
ただあくまでも今日敗戦日本の覚悟として、この狭
い国土の中に人口が過剰であるということは、誰し
も認めておる事実でございます。
投稿番号22
従って日本の人口の問題を考慮いたしますときに、
多くのヨーロッパあるいはアメリカの民主主義国家
が、文化国家の建前として、人口の問題に対してど
のような考え方をもって対処しているかということ
を見ますときに、
投稿番号23
その国々は人口の問題に対しては一定の計画性を持
つことは絶対に必要である。非文化国家においては
生み殖えようと、あるいは自然に減退しようと、何
ら計画性というものを持っておりません。
投稿番号24
けれどもいやしくも文化の発達しております国々に
おいては、一つの計画性というものを考えておりま
す。
投稿番号25
この意味においてこの優生保護法案は、日本の将来
の人口に対しての一種の計画性を与える文化国家の
建前を、日本に備える一つの方法ともなると信じて
おります。
投稿番号26
しかし、私共は特にこの法案を審議していただきま
す時には、人口問題との結びつきよりは寧ろ如実に
迫っております母体の生命保護、健康増進と生まれ
てくる幼児の優良なるべき者を求めるというその点
に重点を置いてご審議あらんことを希望致すもので
ございます。
投稿番号27
私は先だって予算委員会の席上において、やはりこ
の問題に関連した質問を厚生大臣にいたしました。
投稿番号28
今日の実際の私ども日本の婦人の生活の現状といた
しまして、食糧は決して足りてはおりません。殊に
住居の問題においては、まだ四百万世帯近いものが
住む家がないという実情でございます。
投稿番号29
たといまた家のあるものとしても、さいわいに屋根
の下に住んでおるとはいえ、四畳半あるいは六畳と
いうような狭い部屋に二家族あるいは三世帯という
多くの家族が雑居いたしておるという実情でござい
ます。
投稿番号30
しかも燃料も非常に不足いたし、繊維製品も殆ど
見るべき配給もないというような実事でございます。
このような状態におきまして婦人が妊娠し、出産し、
そうして育児をしなければならないというのに、
投稿番号31
はたして今日の多くの状態が、これらの妊娠出産に
適当な条件が備わっておるかどうかということを
考えますときに、私は多くの婦人たちが声を上げて
今日子どもを生みたくない。
投稿番号32
でき得るならばもう少し何とか住居の問題、燃料の
問題、食糧の問題等に余裕ができてから、愛するわ
が子を生みたいというのが、今日の婦人の声である
と信じております。こういう今日のわが国の現状に
即応しましてこの法案をご審議願いたいと存ずる次
第でございます。
投稿番号33
なおこの法案には、非常に医学的に関連を持った事
柄が多いので、私と同じ提案者であるところの太田
典礼、福田昌子、この両医学博士は医学的な見地よ
り、なお十分にご審議にあたっては皆様方のご質問
に答える用意がございますので
投稿番号34
その点をお含みくださいまして、今日よい子どもを
生みたい、愛する子供には十分な条件のもとに子供
を生んで、りっぱに育てたいと考えておりますとこ
ろの多くの母親たちの声として
投稿番号35
この法案が生まれておりますということをご考慮に
置きまして、どうか御審議御賛成あらんことを、提
案者の一人としてお願いいたす次第でございます。
了
※この提案理由説明の後、委員会で質疑が無い
状況で会期末を迎え、1947年の優生保護法案は廃案
となる。
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