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第298回: 飯塚先生の講演を聴いて

≡ はじめに

連載「ALTAのテキストをつくろう」の「3. テスト技法」が終わり、一息ついたので箸休め回です。

2024年8月24日(土) 13:00~17:30に、第1回 JAQシンポジウム「新時代を切り開く品質立国日本の再生に向けて」が開催されました。

私はオンラインで聴講したのですが、飯塚悦功先生(東京大学 名誉教授)の特別講演の内容がとても良かったので、その内容について書こうと思います。



≡ JAQと飯塚先生について

飯塚先生の講演の話の前に、JAQと飯塚先生について書きます。ご存じの方や興味がない方は、読み飛ばして大丈夫です。

■ JAQ

JAQとは日本クオリティ協議会の略称です。JAQは「ジャック」と読みます。何の略かはロゴに書かれていますので以下をご覧ください。

JAQのロゴ

JAQは、2015年6月に開催された、第100回品質管理シンポジウム(日本科学技術連盟主催)において、当時の日本品質管理学会会長の大久保尚武氏が提唱した品質管理団体のアンブレラ組織です。

大久保尚武氏は、1960年ローマ五輪ボート競技、舵手付きフォアに出場した経歴を持つとのことです。

Wikipediaの「大久保尚武」より

そのときの図を見ていただくのが早いかな。

第100回品質管理シンポジウムより

見てお分かりの通り、2015年の起案では、日本品質管理学会、日本科学技術連盟(日科技連)、日本規格協会の3団体までのアンブレラ組織提案でした。

それから約8年の検討が行われ、その過程で、2017年末に日本能率協会、2018年末に品質工学会と、2団体が加わりました。
そして、2021年12月に「JAQ設立準備委員会」が発足し、JAQは計5団体のアンブレラ組織として、2023年4月に正式発足しました。

素案を発表する前には当然、根回し期間があるわけです。
そういう意味では、2013年に大久保氏が品質管理学会会長に就任したときに始まった感じです。
いや、もちろん、その前から様々な議論はありましたし、長老はともかく下々のものたちは仲良くやっていました。

特に、素案の3団体はアンブレラ組織なんて不要なほど、以前から密に交流していました。
でも、まー、私はこの日を迎えられて本当に良かったと思っています。感無量です。

JAQ傘下の品質関連団体

そうそう。品質管理関係の団体は、略称で呼ばれることが多いので話の腰を折らないため知っておいたほうが良いです。でも、相手が知っているとは限らないので、自分から使いだすのは避けるほうが良いです。

JAQ: 日本クオリティ協議会
──────────────────────────────────────────
JSQE: 日本品質管理学会(THE JAPANESE SOCIETY FOR QUALITY CONTROL)
JUSE: 日本科学技術連盟(Union of Japanese Scientists and Engineers)
JSA: 日本規格協会グループ(JSA GROUP)
JMA: 日本能率協会(JAPAN MANAGEMENT ASSOCIATION)
RQES: 品質工学会(Robust Quality Engineering Society)
 ※ 古い人は品質工学会のことをQESと呼ぶかもしれません。
 え?「品質工学フォーラム」??えっ?ええっ??


■ 飯塚先生

飯塚悦功(いいづか よしのり)先生は日本的品質管理の第一人者の一人です。『現代品質管理総論』を書いた人です。

上記のように10年以上前から推していますね。

そういえば、この本を若い人に薦めていたら、(飯塚先生の教え子だった)にしさんから、「あきやまさん、初心者にはちょっと難しいんじゃないですか?」って言われました。
でも、「初心者には、難しいか簡単かどうかより、正しいことが書いてあることがずっと重要なんです。真っさらな頭に最初に正しいことを染み込ませることが大切なんです。『間違いを恐れず分かりやすく書いてある本』ではダメなんです。」って言い返したら「それはそうですね。」と言ってくれました。

何度も読み返すたびに新発見があるタイプの本です。

今なら「それなら、『品質管理特別講義 (基礎編)』の方をおすすめしましょうか。」って言い返すかなあ。(←言い返さない選択肢はないのか!?)
こちらは対話形式で話が進みますので読みやすく面白い本です。飯塚先生からコンサルティングを受ける疑似体験ができます。

ただ、基礎編を読んだら『品質管理特別講義 (運営編)』も読まないといけませんし、「基礎編+運営編」だとボリューミィです。

ということで、初心者には『現代品質管理総論』をおすすめします。QA職の中堅以上の方は3冊とも読むといいです。

で、飯塚先生の偉大さですが、1947年生まれで東京大学工学部計数工学科を卒業し、1997年に教授になりました。
日本品質管理学会の会長(2003-2005)、TC176(ISO 9000)日本代表(2000-2012)、デミング賞本賞(2006)など功績は数え切れません。

「歯に衣着せず」という成句がありますが、考えたことを率直に伝える先生で、そういうところは、にしさんが受け継いでいたかな。

けど、その物言いには品があって、嫌みや皮肉が一切ありません。一度聴かれたらきっとファンになります。先生の最終講義をこっそり録音したものを時々聴きなおしています。



≡ JAQの講演

JAQでの講演のタイトルは、「品質立国ニッポンよ、再び!」です。同様のタイトルで他所でもお話しされているのでお聴きになった方もいらっしゃるかと思います。

「再び」というわけですから、「品質立国ニッポン」と呼ばれていた時期があったというところから始まりました。

それは、1980年代のこと。確かに日本は「高品質」を武器に経済大国となっていました。
1988年にはとうとうGDPは世界2位となり、1988年から1992年の4年間、IMD世界競争力ランキングは第1位をキープしました。(ちなみに、2023年は第32位に転落しています。)

これらのデータを紹介した後、飯塚先生は「1980年代に「品質立国日本」はなぜ実現したのか?」と、「日本が高品質を武器に経済大国となった理由」について解説し始めました。

「データで状況を把握したのち、そのデータの背後にあるメカニズムを解明する」、、、これはまさに品質管理のアプローチです。品質管理のアプローチがどこにでも通用することを実証している、そういった講演でした。

飯塚先生は、品質立国になったメカニズムを「時代が良質安価な工業製品を求めており、そこに品質管理(TQC/TQM)のアプローチがぴったりはまり、さらに日本人の勤勉な特性がマッチしたため」と分析されていました。そして、「良質安価な工業製品は行き渡り、私たちの環境は成熟社会となってしまった。成熟社会になったという環境変化に取り残されたから日本は衰退した」という見立てでした。

だから、「品質立国ニッポンよ、再び!」を実現するためには「成熟社会の要求と、そこで働く人の意識の変化」を理解する必要があると話を続けます。

そして、日本人は日本人であるがゆえに品質立国に復活できると解きます。そのための戦略地図がキャッチイメージの図です。
キャッチイメージを再掲します。

第1回 JAQシンポジウムの飯塚先生の資料より

講演では何度も「品質は『提供価値に対する顧客の評価』であり、そこを外さずに頑張れば、QMSの土台を持つ日本は再び品質立国になる」という主張をされていました。

つまり、何かの製品やサービスを販売するときに、「その製品やサービスの出来栄え、すなわち、製品価値(提供者が認識している価値)を品質として管理するのではなく、お客様が『どういう価値を感じて自分の会社の製品やサービスを選んでくれたのかという顧客の評価(顧客が認識する価値)を品質管理しなさい」という教えです。

顧客がどこに価値を感じているかを知ることは、昨今の「ビジネス」で最重要視されていることですからスッと納得できるのではないかと思います。



≡ 理解度確認問題

ALTAの問題を毎週日曜日にツイートしているので、その流れで問題をつくりました。

《問題》
 「品質」について様々な定義がされてきましたが、飯塚悦功氏の品質の定義を選びなさい。

1. 要件に対する適合
2. 誰かにとっての価値
3. 明示的または暗黙的ニーズを満たす能力
4. 提供価値に対する顧客の評価

答えは月曜日のツイートに書きます。



≡  おわりに

今回は、「第1回 JAQシンポジウムの飯塚先生の講演」の話でした。

品質を良くすることを考えれば、それは、自然に外的評価で考えること、すなわち目的志向になります。
そして、成功、あるいは、失敗の背後にあるメカニズムを明らかにすることで、成功を続け失敗を改めることができます。
」という飯塚先生の信念が伝わり、とても勉強になりました。

たぶん、ソフトウェアテストでも使える考え方です。

次回はALTAに戻り、「4. ソフトウェア品質特性のテスト」に入ります。非機能のテストの話が中心となる予定です。

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