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「詩を読む」から「とむらい」までの解説のような

はい、どんどん行きますよ!
昼間殆ど寝ていたのでちょっと元気です。

これは、
本当は出す予定ではなかった一編。
別にそうは言っていなかったけれど、
東京での数日間に書いた詩をまとめて冊子にし、
お姉さんにお渡ししたのです。
その中の一編。
素敵な喫茶店での一幕。

お姉さんとの思い出なので、
出すかどうか迷い、
でもこの詩が私は好きで、
これだけ出してしまいました。

誰が怒るわけでもないけれど、
少し悪いことをしたような気持ちです。


少しだけ開いた窓の静寂
薄汚れて心地いい窓際
この時に私は詩を進む

かすかに外の匂い カラスの声
飾られたプランターの中のしまうま
声を掛ける代わりに 私は詩を進む

趣のある引き出しに双子は眠り
一方の寝息に文句を夢で垂らす
マグカップには成れない硝子のコップが光に白い

自分の弱い心臓の音
わたしの丸い指の爪
憐れになれなかったと思っている私を探す

どこにもいないのよ
どこにいたっていいけれど
どんなに包み込んでも空気は洩れるもの

私は詩を進む
生きる術として

私は生きている
詩を進むために

「詩を読む」


「あなた」への直接の詩です。
過去はどうして変化してしまうのか。
凍ってけして変質しなければいいのに。
けれど、
そうして変化したのは、私が光の下、闇の真中を歩いてきたからでしょう。
「あなた」はこの変質さえ喜んでくれる。


あなたの死について
祈りたいような
未だ
心が砕け続けていくのを
呆然と無為に手で支えているような
心をいきている

あなたの死について
覚えていることと
現実は
もうどれほど離れてしまったのか
それでも私は
私の中のあなたの死を書いている

握りしめた手の細さも
ありったけの力の弱さも

「あなたの死について」


「あなた」とは、
心の中で会話をしてみようとする。
いつもうまくいかない。
あなたをただ思い出す。

会いたいかと聞かれて、
まだ大丈夫と言える日は、
私の中にたぶんある。


会いたいかい

会いたいよ

会いにくるかい

まだ行かないよ

どうしたいんだい

行きたい、より大切なことを見つけられたよ

よかったねぇ

よかったのかしら

よかったに決まってる

そう それじゃあ、よかった

私今生きてる
自分の意思でここを歩く
眩しい初夏に染められて
あなたを浅い影に置いていく

「ひとり 会話に頷いて」


これは珍しい詩だなと思ってもらえたでしょうか?
私は思っていて、
何が珍しいかと言えば、
事実を残しておきたくて書いた詩だということです。

次男の姿があまりに切実に夕焼け空に向かうので、
わたしたちが別々の生き物であると強烈に分かってとても嬉しかった時の詩です。

男の子が
小さなベランダに椅子をふたつだして
夕日と空を眺める

彼のとなりの少し簡素な椅子には
友人のシロクマのぬいぐるみ
学校に通いだしても彼は一番の親友

影になって 部屋へ差す
その二人の影の距離がいとおしい
そして儚いもののようだ

私は皿を並べながら ひとつ息をつく
彼の友達がずっと心の中を
友達として過ごしてくれますように

ひとりでさみしい足首を冷やし
私は薄暗い階段に出る


「彼の友達」


これは川柳にもした「ヘンナイキモノ」を、
詩にもしておいたもの。

本は変なものしかつくらない。
本につくられたものは、
ヘンな本をまた作っていく。

その循環の中に私はいます。

本は変なイキモノを創り
ヘンナイキモノは本を造り
巡り
巡って
かなしいことも
幸福なことも
混じり合って
真実の色に近づいていく

「イキモノ」


詩学舎のお題『舞台』へ寄せた詩。
でもこれもだしていない。
舞台と分かりにくそうだったから。
非売品なのにどうして店に並べられているのか、
それはそこにしかないものだから。

どこにでも居そうで
ここにしかいない私は
私がひとりしかいない
他に代わるもののないために
売値はつかない

何処にでも居そうなのに
非売品の私は
いつまでも売られない
でもそれは大切なことじゃない
私が私の価値に頷くから

誰かに教えてもらってもいいけれど
本当の値段を知りたかったら
痛いのを拒まずに
ずっと奥 草の闇 花の裂け目 とまどいを踊り
その広々とした視点に立ち尽くすしかない

わたしは
いつまでも非売品

「とおい舞台の側を離れて」

これも『舞台』を意識して書いた詩です。

でも発表で読み上げるには向かない詩かなと思い、
出していません。
心の全てを曝け出させてくださいませ、
という懇願の一幕。

愛の姿をみつけたとき
わたしは
この眼が猛禽類のものだった
思い出す

愛を見つめ
愛を見据え
愛を見越し
一瞬の隙を爪でひと貫きにしてしまいたい

耐えて
冬の椿を
凍えて
湖の底の小石の反射する月の光を
終えて
尊かったひとびとの祈りの裾を

あいしてしまい
あしを通したくなり
あいを遠ざける始末をつける
私の眼を抉り出して
えぐりだして

私の愛を手の平の上に見つめて

「初舞台」


何も言わず、
致すことをいたしましょう。
その間、焦がれるものになりましょう。
いつかこの心に気付いても、
どうかあなたの薄い目の色が亀裂を入れませんせんように。

沈黙にひたした両手で
あなたの頬を包みましょう

白い私の顔
黒塗り固めた唇を見て

ほんのりと明るい鳶色の瞳
この暗闇の色に追いついて

音に割り込まれないように
ひとつを分かち合いましょう

継ぎ目を忘れてしまえば
その間だけ

私の振りをして
あなたを抱きしめて

「黒い唇」

静かな視。詩。死を、
私の鼓動と待っている。
そんな詩です。

静かに待っています
ずっとじんわりと黙って
流れるものにふたをして
整うものは整えて

静かに
できないものと待っています
その熱が温むのを

「温む」

終わってしまったものに、
終わったのだと、
私は言わなくてはいけない。

それが大切なことだから。

それを一生懸命言おうとしている詩。


あなたの言う通りにしてあげられたなら
良かったのかもしれない

思い出は
ただ思い出という域を出ず
静かに層の奥へと沈めてやれたなら
歌を泥だらけにせずに済んだでしょう

あなたの言う通りの未来が
私にあったならもっと笑ってくれたかもしれない

いつだってもしもは役に立たない
引き千切って
その滲む血を固くする力を信じなくてはいけない

溺れた胸は
誰の手で押されようと
もうかつてを吐き出しはしないだろう

あなたという終わりが見たい
あなたのいるそこに静かに未来を置きにいきたい

それだけなの

「とむらい」


はい、溜めていたので、まだこのシリーズ続きます。
息が続く方はどうぞご一緒に。

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