不可抗力

人を好きになった。
同じ大学の同じ学科の一個上の先輩。
1年生の時に、全員が取らなければいけない科目の授業にその先輩はいた。
本来、1年生のうちに取り終えなければならない単位なのに、その先輩はいた。
1年生の時に取り損ねたから、再履修しているというのを風の噂で聞いた。

その先輩は、太陽のような人で、いつも周りには同じように太陽を飼っている人たちで溢れていた。
風の噂で、ダンスサークルに入っているというのも聞いた。
風の噂、いつもありがとう。

ある授業の日、グループワークでその先輩と同じグループになった。
必然的にその先輩とのやり取りが増えた。
グループワーク、本当にいつもありがとう。
グループワークを思いついた、偉い学者さんあなたには何か賞を。

今思えば僕は、その人に恋をしていた。
1週間に一度しかその授業はないのに、
1週間毎日その人のことを考えていた。
雹の日も、霰の日も。

先輩のことを考えながら、駅を歩いていたある霙の日。
どこかの国のアイドルが、CDを出すとかなんとかで、駅の柱にポスターが貼られていた。
若い女の子がこぞって、そのポスターと一緒に写真を撮っていた。
警備員が、忙しなく声を出して注意していた。
その群勢の中に、先輩がいた。

先輩は、いつもよれたTシャツにジーパンというファッションなのに、その時はフランスで修行して日本で店を出す系のパティシエが作るお菓子みたいな格好をしていた。
ポスターの横で、グループワークでは見せたことない笑顔を見せている。しかも、アヒル口で。
数メートル先に、絵ではない動いている僕がいるというのに。

友達と思しき人物が、カメラを先輩に向けて、シャッターを下ろしていた。
僕は思い出した、自分<偶像に決まっているこの世界を。
そして僕は、先輩の偶像になれるわけないということを。
この方程式は、不可抗力であることも。

先輩と目が合った。
先輩と友人は、満足気にどこかに行ってしまった。
僕の目線の先に先輩の眼球がたまたまあっただけか。

僕は結局その授業に行くのをやめて、単位を落とした。
束の間の恋にも落ちた。勝手に落ちてばかり。

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