ミドルフィンガー

21時のターミナル駅。
縦横無尽に人々が帰路につく時間帯。
ちらほらと浴衣姿の男女も目につく。
人の流れに紛れ私は改札を目指していた。
20m先から人の流れに逆行してくる男の人がいた。
20代前半くらいで、180cmくらいのスーツを着た男だった。
耳にはイヤホンをつけ、スマホを横にして歩いてくる。
このまま行くと、必ずぶつかる。
そう思いながら、私はまっすぐ進んでいた。

どうやら向こうに避ける気はない。
「あなたたちが勝手に左側通行やってるんでしょ?」と言わんばかりの太々しさが透けて見える。
仕方なく、そいつの目前で右に避けた。
これは私の今回の唯一の反省点だが、急に進路を変更してしまった。
街を歩いてて目の前の鳩が唐突に飛び立つくらいの勢いだ。
その男は私に気付き、咄嗟に連続回避本能で私の方に避けてきた。
普通はお互い立ち止まってあわあわするのが通例なのだろうが、私は流れの中にいて後ろに人が迫っているのを察知したので、もう一歩右に膨らんで避けた。
そのおかげで衝突は免れ、私はよかったと思った。
すれ違ったその刹那、「チッ」
人の出す音で人をとてつもなく不快にさせるあの音が私の鼓膜を振動させた。

振り向きはしなかったし聞いてもいないが、「このクソチビ、機動力えぐいんだよ死ね」と言われてるのではないか。
カメラで撮られているのではないか。
そんな妄想をしているうちに、
私は勃起してしまった。
ガチガチの反り返る方のやつだ。
歩きながらほんの数十秒前のことを色々整理して、自分の過失が0なのに(異常な機敏さは認めるが)、音のミドルフィンガーで勃起してしまった。

断っておくと、これは性的興奮では絶対にない。
私はマゾではないし、この一件でちゃんと頭に血が昇るぐらいの苛立ちは覚えている。
振り向いて「おいっ」と注意できたら、どれだけ楽になれるかも想像できる。
ではなぜ、勃起したのか。

恐らくだが、相手にやり返したいという気持ちはありつつ、でもそいつとは同じ穴の狢にはなりたくないという衝動が、勃起に至ったのではないか。
もう少し噛み砕いて説明すると、舌打ちという音のミドルフィンガーに対しての私のできる唯一の対抗手段が、男性器でのミドルフィンガーだったのだろう。
威嚇行動、とでもいうのだろう。
それに頭に血が昇り、血流がよくなり、毛細血管の隅々まで血が行ってしまったのもあるだろう。
とりあえず、服着ててよかったなと思った。

体調やその時の気分、環境、性別、個人差、色々条件を変えての繰り返し測定は必要だと思うが、現段階での仮説は以上とさせてほしい。
でないと、わけがわからない。
心と体と脳が乖離して、別次元で機能してるかもしれないと思うと、自分をどこかの研究所に繋ぎ止める必要が出てくる。
また続報があれば、ここに記そうと思う。
ありがとう。では、またいつか。



男性器って器っぽくはないね。
なんだよ器って。
女性器はちょっとわかるけども。

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