俺たちはジャンケンすらできない

新年度、出会いと別れ。日本の組織の多くは、4月に新体制になることが多い。

新しい役割を決めたり、当番を決めたり、決定することがあまりにも多い。どれもこれも吟味してはいられない。エーイ、こんなものは適当にジャンケンで決めてしまえ!

そこで気がついてしまう。私たちは、どうやってジャンケンをすればいいのだろうかーー。


私たちは今、三つの「密」が禁じられている。誰かと面と向かってジャンケンをするのは、この「密」に抵触する恐れがある。直接ジャンケンをすること、これは危険である。


「へいへい兄貴! 知らねぇのか? 今はSkypeやzoom、テレビ電話ができるソフトが大量にあるんだぜ?」


テレビ電話を使用してジャンケンをすればいいではないか。もっともらしい意見である。しかし留意すべき点がある。

テレビ電話における時間軸の差異、「ラグ」である。

通信機器を使う以上、完全なリアルタイムで相手が見えているわけではない。そこにはわずかな時間差が生じている。そしてこの時間差、ことジャンケンに至っては致命傷になりかねない。

言わずもがな、後出しである。

かつての対面ジャンケンであれば、後出しなどしようものなら即座に糾弾される。しかしテレビ電話にはあれがあるのだ。そう、「ラグ」が。

「お前今後出ししなかった?」

「してねぇよ、ラグじゃねぇの?」

ラグを用いて働いた不正が、ラグによって解消されてしまうのである。

公正な勝負はもはや成り立たない。テレビ電話でのジャンケンは大きなリスクが伴う。


ならば私たちはどのようにしてジャンケンをすればいいのか。残された手段は一つ、チャット機能しかない。

「兄貴、チャット機能って言ってもタイミング合わせるのめんどくせぇじゃねェかよぉ!」


その通りである。○○時○○分に示し合わせてグーだのチョキだの送りつけるのは少し面倒だ。1秒の遅延で後出しを疑われかねない。

そこで私は考えた。チャット機能を用いてジャンケンを完遂する、最適な方法を。


まず用意するのはチャット機能のある端末。チャット機能と一般化しているが、もう面倒臭くなってきたのでLINEで統一する。以下LINE。

そしてジャンケンを行う戦士(二人以上)。

最後に、ジャンケンを見届ける公正な立会人。審判だ。


全体の流れはこうである。

まず審判と戦士全員が所属するグループLINEを作成。ジャンケンの時間を決める。ここでの時間は厳密である必要がなく、「大体10時くらいで〜」みたいな軽いノリでいい。

予定時刻が近づいてきたあたりで、審判は一度、戦士全員に個人メッセージを送る。内容はなんでも構わない。「あ」とかでいい。

その後、戦士と審判は無駄な会話を交わすことなく予定時刻を待つ。予定時刻になったら、戦士たちは審判に、個人メッセージで自らの手の型を伝える。「グー」とか「パー」とか言うのである。

予定時刻を忘れたり、遅刻したりする輩もいるだろう。そんな時、審判はグループLINEで声をかける。個人LINEは使わない方が良いだろう。

そうして審判の下に全ての戦士の手が集まる。そうしたら審判は、戦士との個人メッセージ全てをスクリーンショットで撮影し、全体LINEに貼り付けるのだ。

この際、予定時刻前の「あ」とか適当に打ったメッセージが入るように撮影する。これが不正を働いていない証拠となる。

審判は戦士全員の手を知ることができるため、簡単に買収されかねない。そのため、「予定時刻前から戦士が手を宣言するまで、他の情報は一切与えていませんよ」という証明のための「あ」だったのだ。

全体LINEに貼られたスクリーンショットによって、ついに勝敗は決する。アイコの時はもう一度だ。これでようやくジャンケンができる。

ちなみにこの手法、戦士と審判の間に別の連絡方法があると何も信頼できない。チャット機能を持つソフトが大量に溢れる現代では、公正な戦いなどできないのかもしれない。積んだ金の多い方がジャンケンの勝者。全く嫌な時代である。

随分くだらないことを長ったらしく書いたような気がするが、とにかく私たちは今、ジャンケンもまともにできないということだ。あんなに身近だったあのジャンケンが。

私たちが再び、かつてのジャンケンを取り戻した時、世界の前進を身を以て感じることができるだろう。

ではまた。

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