ライトノベル『非正規雇用の押し掛け用心棒(イレギュラー・バウンサー)』

わたしの名前はユミ。ユミ・フルカウ。グローバルIT企業ガーファ社の雇われプログラマーだ。好きな言語はCOBOL。今日もドメイン駆動設計の実践アジャイルテストでボスのサティ・リトルアイランドとディスカッションをしたばかりだ。もちろん平和的な。口論に見えるのは、あなた方が私たちの関係性を正しく認知していないから。ハードなディスカッションはパワフルなプログラム生み出すサプリメントみたいなものよ。わたしは彼の意見に納得したし、彼もわたしが彼の意見に納得したことに納得した。それで万事OK。わたしはボス黙らせるスキルを上達させることに成功したし、彼もまたわたしをポジティブに労働させるティップスを会得したわけ。

「わたしは帰るが、フルカウは?」
「許されるならもう少し残業して、思いついたアイディアを実装したいのですが」
「OK。ただし1時間だけだぞ。ではお先に」
 彼が退室するとこのフロアに残っているのはわたしだけになる。集中するには少し静かすぎる。
「HeySiri! 1984をアルバム順に」
 まあまあな音圧に満たされてオフィスはライブ会場と化す。わたしはゾーンに入り、ほんの思いつきを実用可能な機能として実装していく。気がつくとすでに2時間。Wow。オーバーした。
 ひとまず帰ろうとノートPCを閉じてHDMIケーブルを引き抜く。続きはBarXamarinでジントニックでも飲みながら試そう。

「フルカウ-サンですね?」
突然誰もいないはずのところから声がして死ぬほど驚いた。わたしはフルカウだけど、あなたは誰?
「ワタシはライバル社のエージェントです」
「それって言っちゃっていいの?」
「この場合は言ってもいいです?」
「ということは」
わたしは生命の危機を感じた。しまったな。ボスの言うことを聞いておくべきだった。1時間で帰れって言ってた。黒ずくめのヤバそうな人はブッシュナイフを抜いてわたしに突きつけてきた。こんなので刺されたらマジヤバイ。
「お覚悟」
こんなことなら先週のスイーツバイキングに行くべきだったし、技術書典120の原稿も書き上げておくべきだった。今となっては時すでに遅し。残念。
 そのとき、天井の石膏ボードが割れて、セーラー服のJKが降りてきた。両手に腰溜めに構えたAA12が火を噴く。エージェントは全身にマシンガン∩ショットガンの大量の散弾を浴び、偽装ラバーが飛び散って中の金属体が露わになった。JKは筒型マガジンが空になるまで射撃を続け、プラスチックの薬莢を事務所に撒き散らした。粒状の弾痕まみれになったエージェントは、ギョリギョリを異音を鳴らしながら何も言わずに立ち去った。

「ユミ、大丈夫?」
「わたしは何も。怪我もしてない」
「よかった」
「それよりあなた誰?」
「アタシはインフィニティ。あなたを守るために天井裏にいました」
「そうなんだ。なんでセーラー服なの?」
「これは前にいた海軍のユニフォームです」
「そうなんだ」
「わけは言えませんが、フリーランスの用心棒としてあなたの身辺警護をします」
「そんなギャラ払えないよ?」
「派遣会社から支払われるので問題ありません」
「ならいいけど」
「自宅も警護対象なので、今夜からよろしくお願いします」
「わかった。ついてきて」

こうしてJK型バウンサーロボット・インフィニティはわたしのルームメイトになったのだけど、続きの話って要る?

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