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直接経口抗凝固薬(DOAC)は腎機能低下時の薬物動態に違いがあるので使い分ける


直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants: DOAC)は4種類発売されています。

これら4種類の一般的な使い分けについてはこちらの論文にとても詳しくわかりやすくまとめられています。(日本医科大学医学会雑誌 2018;14:113―120)


ゼロから始める腎機能検査値の活用(2)eGFR値を用いてどのように投与量を確認していくか」の記事では、腎機能低下時に絶対に見逃してはいけないハイリスク薬としてDOACを挙げました。

DOACは副作用である出血が起こってしまうと命に関わる可能性があるので、投与量の減量が必要です。

ダビガトランは、安全性速報(ブルーレター)により腎機能低下に応じた投与量の減量などが周知されています。

腎機能低下時は、ダビガトランはクレアチニンクレアチニンが30 ml/分未満で禁忌、その他の3剤は15 ml/分未満で投与禁忌となっています。


腎機能低下時はDOACのうち、どの薬剤を推奨したら良いのかよく聞かれますので私見をまとめました。

結論から言うと、腎機能低下が気になり投与量の減量を推奨しても安全性に疑問が残るのであればアピキサバンをオススメするのが良いと考えています。

その理由について薬物動態の面から考えていきたいと思います。

主な参考資料は「透析患者に対する投薬ガイドライン」です。

無料で閲覧可能であり、詳細な情報が載っていますのでとても参考になります!



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DOACの有用性についてワルファリンとメタ解析した結果、クレアチニンクレアチニンが50 ml/分未満の患者では、ワルファリン群に対してDOAC群は主要エンドポイント(脳卒中及び塞栓性イベント)発症リスクが19%低下したと報告されています。

また、出血性脳卒中や頭蓋内出血は DOAC群で半減しており、重度の出血は有意差はなかったもののDOAC群で2 割減でした。(Kimachi M, et al : .Cochrane Database Syst Rev, 2017 doi : 10.1002/14651858.CD011373.pub2.)

これらの結果から、腎機能低下患者においてDOACはワルファリンと同等の血栓症予防効果を持っており、出血の副作用は少ないことが分かります。

したがって、腎機能障害患者においてもDOACの投与は有用であると考えられます。


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ダビガトラン

ダビガトランは 1 日 2 回服用する薬で、腎排泄率は約80%です。

腎機能低下時は、クレアチニンクレアチニンが50 ml/分未満で投与量の減量が必要となり、30 ml/分未満では投与禁忌となります。

AUCは腎機能正常者に比べ、クレアチニンクリアランスが30~50ml/分で3.2倍、30 ml/分未満で6.3倍に上昇します。

65歳以上の高齢者ではクレアチニンクレアチニン低下の影響を受けるため、AUCが2.2倍上昇します。

また吸収率が約7%であり、特にP-糖タンパクに影響を及ぼす薬剤の影響を受けやすいと考えられます。

透析患者への投与は、ワルファリンに比べて出血による入院や死亡のリスクが高いとの報告があります。


これらの報告から、腎機能低下患者はもちろん高齢者への投与もより慎重に行う必要があり、さらに併用薬の影響も考慮する必要があります

もし他のDOACに切り替える場合は、ダビガトラン投与後12時間以上空けて投与しましょう。


リバーロキサバン

リバーロキサバンは1日1回服用で有用性が確認されている薬で、腎排泄率は約36%です。

腎機能低下時はクレアチニンクレアチニンが50 ml/分未満で投与量の減量が必要となり、15 ml/分未満では投与禁忌となります。

透析患者への投与は、ワルファリンに比べて出血による入院や死亡のリスクが高いとの報告があります。

単回投与時の健常人と比べてAUCは、クレアチニンクレアチニンが30~49lm/分で1.52 倍、30 ml/分未満で 1.64 倍となり、また、プロトロンビン時間の延長の比の増加度はそれよりさらに大きいと報告されています。

出血イベント発現率は、体重 50kg 以下で 44%、50kg を上回る場合 19%と低体重の患者で起こりやすいと報告されています。

CYP3A4で代謝されるため併用薬に注意が必要であり、また、中等度以上の肝障害患者には投与禁忌となっています。


アピキサバン

アピキサバンは 1 日 2 回服用する薬で、腎排泄率は約27%とDOACの中で最も低い値となっています。

腎機能低下時は、血清クレアチニン値が1.5mg/dL以上では投与量の減量が必要となり、クレアチニンクリアランスが15 ml/分未満では投与禁忌となります。

年齢・腎機能障害・体重に応じて減量基準が明確に決まっているという特徴があります。

透析患者への5mgの単回投与でAUCが36%上昇する程度であり、米国では透析患者への使用が認められています。

年齢,性別による薬効および薬物動態への影響は軽微であると報告されています。

CYP3A4で代謝されるため、併用薬に注意が必要です。


エドキサバン

エドキサバンは1日1回服用で有用性が確認されている薬で、腎排泄率は約50%です。

腎機能低下時はクレアチニンクレアチニンが50 ml/分未満で投与量の減量が必要となり、15 ml/分未満では投与禁忌となります。

体重 40kg 未満の患者では出血リスクが増大するとの報告があります。

P-糖タンパク阻害剤との併用により、AUCが1.5~2倍に上昇します。



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以上、腎機能低下時のDOAC4種類の特徴についてまとめました。

腎機能低下が気になり、減量を推奨しても安全性に疑問が残るのであれば、腎排泄率は約27%とDOACの中で最も低く、米国では透析患者への投与も認められているアピキサバンが良いということになります。

ただし、CYP3A4で代謝されるため併用薬に注意が必要です。

参考になれば幸いです。



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