見出し画像

ゼロから始める腎機能検査値の活用(1) どの推算式を使えばよいのか?eGFR?Cockcroft-Gault式?


全国の病院で処方せんに検査値を表示する取り組みが進んでいます。

検査値表示の利点は、臓器機能に応じた適正な薬物投与量の調節、 検査値異常を示す病態への投与禁忌例の回避、定期検査を必要とする薬剤の検査実施状況の確認などが可能となることです。

薬剤師が最も確認する頻度が高い検査値の一つが、クレアチニンや推算GFR(eGFR)などの腎機能検査値です。

しかし、いきなり処方せんに検査値を表示されるようになっても、これら検査値をどのように活用したらいいのか分からないといった人も多いのではないでしょうか。


そこで、腎機能検査値であるクレアチニンやeGFRをどう有効活用すれば良いかを2回シリーズで書いていきます。

今回書くテーマは「どの腎機能推算式を用いるのか」です。

クレアチニンを用いて腎機能に応じた投与量を確認するためには、腎機能推算式を用いる必要があります。

eGFRやCockcroft-Gault式など様々な推算式があり、どれを使えばよいのか日常業務では悩みのタネの一つです。

したがって、まずは腎機能検査値を活用するために、どの腎機能推算式を用いるのかを決めて運用するのが現実的です。


まず今回の結論は、これから腎機能検査値を活用することを検討している薬剤師さんは

・ 基本的に腎機能検査値はeGFRの値を活用する

・ ただし、ハイリスク薬を投与する寝たきりの高齢者など筋肉量が低下している患者の場合、Cockcroft-Gault式にクレアチニンを0.2加えた値を用いて推算する

というルールを設定すると良いと考えています。

その理由について書いていきます。


eGFRか、Cockcroft-Gault式で得られた推算クレアチニンクリアランスか

まず腎機能検査値を活用するときに迷うのが、eGFRを用いるか、Cockcroft-Gault式によって得られた推算クレアチニンクリアランスを用いるか、ではないでしょうか。

添付文書を見慣れている薬剤師さんは、「添付文書にはCockcroft-Gault式によって得られた推算クレアチニンクリアランスで表記されているから」と理由でCockcroft-Gault式を選択する人が多いと思います。

しかし、私は「ある例外を除き、eGFR(mL/分)」の値を用いて薬剤の投与量を確認するのが良いと考えています。


CKD診療ガイドには以下のような記載があります。

一般に添付文書におけるクレアチニンクリアランス別投与量はGFR 別投与量とみなしてよいが、eGFR は必ず体表面積補正を外して mL/分として評価することに注意する。

CKD診療ガイド2012より抜粋

すなわち、eGFR式、Cockcroft-Gault式どちらでも良いということですね。


通常、処方せんに表示されている腎機能検査値はクレアチニンとeGFR(mL/分/1.73m²)です。

Cockcroft-Gault式を用いる場合は、体重やクレアチニン、年齢を式に代入して計算する必要があります。

しかし、eGFRは体表面積÷1.73の値をかけ算するだけでよく、計算が容易であるのは利点です。

逆にeGFRの単位は、「mL/分/1.73m²」か「mL/分」であるかを確認した上で、「mL/分」の単位の値を用いて薬剤の投与量を確認しなければなりません。

画像1

eGFRの欠点

ただし、eGFRにも欠点があります。

それは、寝たきりの高齢者など筋肉量が低下している患者の場合、eGFRの値が実際の患者のGFRよりも異常に高くなる点です。

すなわち、寝たきりの高齢者など筋肉量が低下している患者でeGFRの値を用いて投与量を確認すると、薬剤を過量投与する可能性が高くなるのです。


具体例をあげると

92歳 女性   身長 147cm   体重  37kg  血清クレアチニン濃度 0.34 mg/dL  と仮定します。

すると、eGFR 127.5(mL/分/1.73m²)、91.5(mL/分)となり、腎機能はとても良いということになってしまいます。

実際の患者さんの腎機能を反映していません。

具体的な計算を体験したい方はこちらのサイトで実際に数字を入力してみてください。


では、寝たきりの高齢者など筋肉量が低下している患者の場合、どうすればいいのでしょうか?

シスタチンCや実測クレアチニンクリアランスに0.715を掛けた値を用いると良いとの報告があるので、これらの情報がある場合には用いたほうが良いでしょう。
(Biol Pharm Bull 42: 1350-1357, 2019)


しかし、これらの情報を入手することは通常困難です。

結論からいうと、Cockcroft-Gault式にクレアチニンを0.2加えた値を用いて推算するのが良いと考えています。

この手法はがん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016で記載されています。

Cockcroft-Gault式による推算クレアチニンクリアランスはJaffe法で測定された血清クレアチニンを用いて計算されたものであるため、わが国で一般的な酵素法で測定されたクレアチニン値を用いる場合には、実測クレアチニン値に0.2を加える。

経験則として、寝たきりの高齢者など筋肉量が低下している患者の場合、eGFRの値を用いるより、血清クレアチニン濃度に0.2を加えたCockcroft-Gault式による推算クレアチニンクリアランスを用いたほうが薬剤の過量投与を防ぐことができるのではないかと感じています。

ちなみにCockcroft-Gault式を利用したほうがよい血清クレアチニン濃度の目安として、私個人の経験則としては血清クレアチニンが0.5未満の場合です。


先程の  92歳 女性   身長 147cm   体重  37kg  血清クレアチニン濃度 0.34 mg/dL  の事例でCockcroft-Gault式を利用してみましょう。

血清クレアチニン濃度に0.2を加えて計算すると、38.3(mL/分)となります。

実際の患者の腎機能に近似した値となっているのではないでしょうか。



Cockcroft-Gault式で算出されたエビデンスではないか

よく頂く意見として、Cockcroft-Gault式で算出されたエビデンスだからCockcroft-Gault式を用いるべきだというものがあります。

では、仮に対象患者の実測クレアチニンクリアランスの値がある場合、それでもCockcroft-Gault式を用いた値を用いるでしょうか?

おそらく大半の人が実測クレアチニンクリアランスの値を用いるのではないでしょうか?

それはなぜでしょう?

実測クレアチニンクリアランスのほうが患者の真の腎機能を示した値だからです。

すなわち、どの推算式を用いるかということよりどの推算式が最も患者の真の腎機能を反映しているかが重要だということです。


そもそもなぜeGFRやCockcroft-Gault式などの推算値を算出しているのでしょうか?

少し難しい話になりますが、薬剤のクリアランスが患者のGFRやクレアチニンクリアランスに比例するからです。

GFRやクレアチニンクリアランスが低下すると、薬剤のクリアランスが低下するはずだから、薬剤の血中濃度が上昇して副作用が起こりやすくなる状態になります。

その状態を防ぐために、eGFRやCockcroft-Gault式などの推算値を算出して投与量の調節を行うのです。


ここで重要なのは、「患者のGFRやクレアチニンクリアランス」であって「どの推算式を用いた」ではないことです。

すなわち、どの推算式が患者の真のGFRやクレアチニンクリアランスに近い値かが重要なのです。

では、eGFRとCockcroft-Gault式、どちらが患者の真のGFRやクレアチニンクリアランスに近いのでしょうか?

それは、例外を除きeGFRである可能性が高いのです。(ファルマシア 51: 863-867, 2015)



****
以上これから腎機能検査値を活用することを検討している薬剤師さんに腎機能検査値であるクレアチニンやeGFRをどう有効活用すれば良いのかについて個人的な見解をまとめると、

・ 基本的に腎機能検査値はeGFRの値を活用する

・ ただし、ハイリスク薬を投与する寝たきりの高齢者など筋肉量が低下している患者の場合、Cockcroft-Gault式にクレアチニンを0.2加えた値を用いて推算する

です。

なお、寝たきりの高齢者など筋肉量が低下している患者の判断は、日常業務に活かすために血清クレアチニンが0.5未満の場合とするのが良いと考えています。


日常の薬剤師業務体験や生活体験をもとに記事を書いています。 よろしければサポート頂けたら嬉しいです。