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2次会デミグラスソース【毎週ショートショートnote】

――また始まった。

義実家の夕食の席で、私はそっとため息をついた。

「和食に飽きた」という義父の一言で、食卓に並んだのは義母手作りのハンバーグだ。

「おい、ケチャップ取ってくれ」

そう言うや、義父は熱々のハンバーグの上にたっぷりとケチャップを絞り出した。

別にいい。人の好みはそれぞれだ。
だが義父の困ったところは、自分の狭い好み以外をまったく認めないことにある。別のソースなど出そうものなら、「そんなもの」と怒り出すから始末が悪い。

「沙穂ちゃん、沙穂ちゃん」

食後、義父と夫がテレビに釘付けになった頃合に、義母がキッチンから私を手招きした。
何だかいい匂いがする。

「ほら、こんなのどう?」

深いコクのある色あいのデミグラスソースがたっぷりかかった、焼きたての小さなハンバーグ。

「いつもケチャップじゃつまらないでしょう。でも男どもには内緒ね。これは私たちだけの二・次・会」

次は自分が作ろうと心に誓った私は、嬉々として義母のデミグラスソースをひと舐めした。

(418字)


【あとがき】
私の義実家は、結構こんな感じでしたね。
義父はとにかく好みのストライクゾーンが狭く、しかもめちゃめちゃ偏ってて。外食はいつも焼肉かカニばかりで、義母はたまには洋食なんかが食べたかったそう。
私とはよく好みが似ていたので義母も喜び、何度か食べに行きました。
それからたった一年で逝ってしまった義母ですが、一緒に食事をした想い出は今も心に残っています。
(たまには真面目に 笑)

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