ツノがある東館【毎週ショートショートnote:一行目で惹きつける】
『"ツノがある東館"オーディション募集中!』
……なにこれ。
「ああ、それね。流行りのアイドルユニットだよ。最初は"ヒゲぼうい南館"っていう男性グループでさ」
「ださっ」
「次は"ハタきっず西館"。子供たちが旗持って踊るの」
「しょーもな。じゃあ北館もあるの? あんま聞きたくないけど」
「あったよ。"リボンしにあ北館"――まあ説明は必要ないね。すぐ解散しちゃったけど」
「……だろうね」
「今度のはいちばんマシじゃないかな。ほら」
クリパで使うようなトナカイのツノをつけた女の子が、画面の中でにっこり笑っている。
後日、私はこっそりオーディションを受けに行ってみた。
実はアイドルってものに、少しだけ憧れがあったのだ。
「はい、じゃあこれで踊ってみて」
渡されたのはぼってりしたトラ柄ビキニに鬼みたいなツノと、トゲのついた張りぼての金棒。まさにザ・節分の鬼(女版)だ。
「――帰ります」
"ツノがある"ってそっちかい。
「あれ、じゃあもう一つの方はどう? 内緒だけど、実はこっちがメインなんだ。"カニたらは本館"っていって、不思議な着ぐるみを着た……」
「知らんわ!」
(468字)
【あとがき】
先週無事に退院し、ぼんやり療養している秋しばです。
ご心配をおかけしました。
お題は元より「一行目から惹きつける」は、小説を書く時にあたって非常に重要な要素なんですよね。常々冒頭部分が苦手な秋しばには、きっつい課題です……(涙)
*この記事は、以下の企画に参加しております。
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