見出し画像

無情会館【毎週ショートショートnote】

栄光の陰には必ず涙がある。
名も知れぬ街のその会館では、いつも不思議な写真展が開かれていた。
そこには勝者の歓喜も、闘いを制した高揚もない。
ただ果敢に挑み、そして無情にも散った者だけが写されていた。

優勝候補とされながら、よもやの敗退に呆然と立ち竦む姿。
勝利目前に不運な負傷でトラックに転がる姿。
”あと少し” が届かずコーチの胸で号泣する姿。

世間は勝者をもてはやす。敗者は忘れられ、時に理不尽な中傷を浴びせられさえする。
競技によっては、マイナーゆえにその選手の存在すら知られていない。彼らの死闘や涙は認知さえもされないのだ。

――夢やぶれたものたちへ。

そう主題コンセプトを掲げる会館を、いつしか人は『無情会館』と呼ぶようになった。

来場者はみな無言で、時に静かな涙を流しながらそれらの写真を眺めていく。そしてすべてを見終えた後、出口に置かれたノートに自分の想いを書き残す。


「頑張って」「応援してる」「私も負けない」


その手に握られたチケットには、名もなき勇者の言葉が刻まれている。


『人生に無情はつきものだ。だがゼロではない』


【あとがき】
いよいよパリ五輪も終盤ですね。選手の皆さんは悲喜こもごもそれぞれですが、どうか胸を張って帰ってきてほしいと切に願います。

今週の裏お題が「無情会館」と聞いて、名作『レ・ミゼラブル』、邦題『ああ無情』を連想された方もいらっしゃるかと思います。舞台版の有名な劇中歌が『夢やぶれて』なんですね。とてもいい曲なので、興味がおありの方はぜひぜひ~。


*この記事は、以下の企画に参加しております。



お読み下さってありがとうございます。 よろしければサポート頂けると、とても励みになります! 頂いたサポートは、書籍購入費として大切に使わせて頂きます。