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イケメン月餅【毎週ショートショートnote・裏お題】

西に、眉目秀麗な男がいた。
女はおろか、男までが落ちると言われるその顔は、国の菓子である月餅に彫り込まれるほどだ。その月餅を巨大化した盾は、相対した敵がすぐさま落ちることから、誰も貫けぬ盾と評判になった。

東に、氷のような女がいた。
その心は冷たく固く、どの男の甘い言葉も歯が立たぬ。
その女の顔を模した氷の刀は美女小豆刀あずきバーと名付けられ、どんな盾も打ち砕くと評判になった。

東の女の噂を耳にした西の男は、勇んで海を渡った。
女は浜辺で男を迎えた。

「俺に落とせぬ女はおらぬ」
男は自分の顔が彫られた月餅盾を構えた。

「私を落とせる男などいない」
女は自らの顔かたちに鍛えられた小豆刀を振りかぶった。

そこへ一日の仕事を終えた漁師が船を降りてきた。

「おっ、月餅と小豆刀じゃねえか。こいつはありがてえや」

荒波に疲れた漁師には、月餅に刻まれた顔など目に入らぬ。漁師は瞬く間に月餅盾と、浜辺の日差しに溶けかけた小豆刀を平らげた。

『矛盾』と『漁夫の利』の由来になったむかしのお話——。

(425字)
*少しオーバーしました。すみません。


【あとがき】
本お題がブラックでしたので、裏お題は真面目に変なお話を書いてみました。まったく射谷さんが変な夢を見るから、こんなことに…(笑)
食べたことのない方のために一言。某井〇屋のあずきバーは、かちかちに固いことで有名なのです。よろしければいちどお試し下さいませ。

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