見出し画像

さしすせそサイン【毎週ショートショートnote】

さすがにヤバいかもしれない。落ち着こうとしても、体の底から湧き上がる震えは抑えられなかった。

しんと静まり返った真夜中の住宅街に、自分の呼吸音が妙に響く。もしかすると心臓の鼓動まで聞こえているかもしれない。

すりきれた革の手袋をこすり合わせて寒さを凌ぐ。でももう間もなくのはずだ。もしもその時が来たら……成功か、それとも破滅だろうか。

せっかく掴んだ情報を無駄にはできない。だが下手をすればすべてを失う可能性だってあるのだ。まともな神経のある奴ならまずやらないだろう。

その時、遠くからコツコツと足音がした。
いよいよだ。もう後には退けない。腹を括った俺は一気に飛び出す。

「サイン下さい!大ファンなんです!!」

自宅を前にした人気アイドル歌手の表情が、瞬時に強張った。

「きゃああ、ストーカー!!」

ああ、やっぱり破滅の道か。
俺はただサインが欲しかっただけなのに。
立ち尽くす俺の耳に、遠くから迫るサイレンの音が微かに聞こえてきた。

(ちょっとズルかったかしら。判らなかった方は縦読みしてみて下さい…)

*この記事は以下の企画に参加しています。

お読み下さってありがとうございます。 よろしければサポート頂けると、とても励みになります! 頂いたサポートは、書籍購入費として大切に使わせて頂きます。