見出し画像

【毎週ショートショートnote】見たことがないスポーツ:夫(お)リンピック

4年に一度の平和の妻点さいてんリンピック。
家庭内の平和を保つとされる夫の家事育児スキルを競う熱き戦いだ。

「あーっ! 出ました、大外刈おおそとがり! ニカタハラ選手の得意技です!」

優勝候補のニカタハラが、鎌と軍手で草ぼうぼうの庭へ躍り出て瞬く間に草を刈り終えた。

「いやぁ、見事な一本ですねえ」
「はい、素晴らしい高得点が出ました。庭仕事は負担が大きいですから」

解説席は早くも大興奮だ。

「続いてはリミットだ! リミット選手、行くか……ともえ投げ! 決まったあああ!」

流れるような技の入りでマットに背をついたリミットが両手と片足で赤子を高々と持ち上げる。その美しい姿勢と赤子の笑顔に観客は総立ちだ。

「おっと、日本の招来平太まねきへいただ! ――内股っ! 素晴らしい切れ味です!」

招来が目にも留まらぬ速さで赤子のおむつを取り替える。うっすらはたいたパウダーはもはや芸術的だ。

「どうした、アキシーバっ! なかなか技が出ません! これでは平和が保てない!」

泣きわめく赤子の横でアキシーバはぺたんと座り込んで微動だにしない。
実況は呆れたように呟いた。

「――待て、か……」


【解説】
大外刈り・巴投げ・内股は、それぞれ柔道の技の名前です。
「待て」は、審判が試合を止める時に使う号令ですね。
大外刈りは掛けられると後ろに倒れて受け身が取りにくいので、実はけっこう怖いです。内股とか背負い投げは、まともにやられるとマジで体が宙に浮きます。柔道はほんとにちょこっとしかやったことないのですが、受け身が(も)下手くその秋しばはとにかく痣だらけ、怪我だらけでした。
巴投げは、女子48Kg級で見事金メダルを取られた角田夏実選手の決め技ですね(下図参照)。

巴投げはこんな感じ

もっとも本作の技は、これらの柔道の技とは(ほぼ)無関係であることを申し添えるとともに、「”オリンピック” は競技名じゃない」というツッコミはご容赦願います(笑)


【あとがき】
『空想競技コンテスト』は、秋しばが過去に唯一ショートショートガーデンで入賞したものです。この時は審査員の中に、箱根駅伝で「二代目・山の神」と呼ばれた柏原竜二さんがいらしたので、そこを狙って書きました。
(ご不快に思われたら……とびくびくものでした。皆さん、血を吐くような練習をしてみえるので)

さて今回のパリ五輪、早くも熱戦が繰り広げられています。笑顔あり、涙ありと様々な戦いの日々ですが、どうぞ皆様お怪我のなきようにと願います。

頑張れ、ニッポン!!

頑張れ、世界のアスリート!!!


*この記事は、以下の企画に参加しております。


お読み下さってありがとうございます。 よろしければサポート頂けると、とても励みになります! 頂いたサポートは、書籍購入費として大切に使わせて頂きます。