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東京でライブした話

※左手の初の東京遠征の模様を記したレポートです。長いので日を分けて読んだり、目次から気になる所だけ読んだりしてもいいかもね。

発端

俺は昔「192週間」というバンドを組んでいて、福岡で活動を重ねる中で色んなバンドと共にライブをした。
ある日、そんなバンドのひとつ・A Perfect Day For Apple Dearのフロントマン、坂梨さんと久しぶりに再会した。

「192週間やめちゃったんだ?」
「そうなんです。今はソロでやってて。」
「へー!俺もさ、明日から東京に引っ越すんだ。」
「聞きました。頑張ってください!」
「せっかくだから、連絡先交換しようよ。」

というような遣り取りを最後に東京へ旅立った坂梨さんからライブのお誘いがあったのは、今年9月の終わりの事だった。

「東京」という言葉は、地方で音楽をやっていると常について回る。でも、単発で東京へライブをしに行くも実りなく帰ってくるアーティストは多い。

ただ闇雲に"東京でライブした"というステータスだけ持って帰るのが癪だった俺は、これまで何度か関東の駆け出しイベンターからの誘いを断ったり、慎重に悩んで結局辞退したりしていた。

ただ今回お誘いを頂いた企画は、主催者とツアーバンドが知り合いという安心感があったし、ずっと会いたいと思っていた東京の友人達にいっぺんに会えるチャンスとしてとても良い物だった。ある程度こちらも軍勢を整え、自信を持った状態で東京でのライブを行える機会はこの先なかなか無いだろう。

そんな訳で俺は、今回の遠征で色々な手応えを持ち帰られる確信を持って、飛行機に乗り込む事が出来た。

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2019.12.14

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飛行機の値段の関係で本番2日前に東京の地を踏む事となり、何の予定も立ててなかった俺は一緒に東京入りしたハタさん達とKichi(主催の坂梨さんが営むカフェ。俺達は今回ここに寝泊まりする)の美味しいカレーを食べたり西荻窪を歩いたりしたのだが、この日は結局今回の遠征の中でも俺にとってかなり重要なイベントとなってしまった。

盟友、今川宇宙とやっと会えたのだ。

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「インターネットの友達は本当の友達じゃない」という文言をよく耳にする。しかしインターネットの友達であるにも関わらず、ここまで強固な絆を感じられる人間はなかなかいない。

もう知り合ったきっかけは朧げにしか覚えていないけど、とにかく俺らは長い。でも実際に会った事が無かった。

待ち合わせた俺らは挨拶もそこそこにファミリーマートで適当に酒を買い、井の頭公園のベンチに座って、山程ある話を機関銃のようにぶつけ合った。興奮を隠せなかった。

今思えば、彼女と色々なことを確認出来た事がライブへのモチベーションにかなり影響したと思う。「絶対に彼女にヘボなライブは見せられない」という強い自戒を抱きながら、2日後また会う約束を交わし、俺は帰りの電車を間違えた。

2019.12.15

ボカロリスナーであり、所属しているレーベルの主宰者であるしまさんと会う事になった。しまさんにはレーベルアーティストとして既にかなりお世話になっている(たびたびご迷惑をおかけしている)ので、そんな同氏からのお誘いはかなり嬉しかった。グルーヴの話になり、新進気鋭のジャズドラマーを教えていただいた。

荻窪に戻る。帰り道に井上陽水を買った。

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その後は、この文章を書いたり県外の友達と電話をしながら近くのスタジオを冷やかしたりしたら、今度はボカロPのappyさんと夕食をとった。わざわざ荻窪まで来てくれた事には感謝しかない。俺の独りよがりかもしれないが、彼はまるで数年来の腐れ縁のような距離感で俺と接してくれる。

やはり俺の活動は周りの人達の優しさで回っていると、この二日間を通して改めて実感した。次の日のライブに向けて、ますます気が引き締まる。

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2019.12.16

隙間風の寒さで起きて寝てを繰り返し、訳の分からん夢を見ながら早朝を過ごす。

本番当日の朝聴いた曲は好きだった東京のバンド・QOOLANDの曲。

毎日は平等にすぎていく
まだ死なないと思うかい?
僕たちの人生は消えていく 
なら武器として使うかい?


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12時に吉祥寺駅で待ち合わせ。軽快な靴音を響かせてトイピアノシンガーの祭美和さんが会いに来てくれた。彼女はTwitterで知り合ったシンガーソングライターで、兼ねてからお会いしたいと思っていた方だ。

すっかり気に入っちゃった井の頭公園にレストランがある事を教えてくれ、連れて行って貰った。オムライスめちゃくちゃ美味かった。

彼女は何となく言動のリズムが独特で少し喋っただけで親しみが湧く。天真爛漫なようで時折深みを感じさせる佇まいがとても素敵だった。会ってくれてありがとうございました。

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会場にて

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そんなこんなで、とうとうボカロP左手として吉祥寺Planet Kの門を叩く時間となった。リハーサルが始まったが、Planet Kはステージ後方がレンガ張りでUteroの要領では背景画像を投影出来ない。スタッフさん達と様々な案を出し合いながら、ステージ上手にマイクスタンドで幕を吊り下げる事になった。嫌な顔一つせず無理な注文に応えてくれたライブハウスのスタッフさんには頭が下がる。

今回もう1人会いたかった人間がいる。対バンのもちもちこんちだ。Twitter上で知り合ったキッカケは些細な事だったけれど、何かと馬が合った俺達の初対面が、まさか対バンとは夢にも思ってなかった。

なんだかんだ俺はもう、リハーサルの時点で舞い上がっていた。

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リハや顔合わせが終了し、オープンの時間になった。イベント開始直後から、予め連絡をくれたお客さん達が少しずつ顔を出し始めた。皆凄く会いたかった人達ばかりで、俺は物販の対応もそこそこにお客さんに握手をして回っていた。

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ボカロPがライブをするという特異な立場もあり、俺のお客さんは意を決して初めてライブハウスに足を踏み入れてくれた方が多い。そうでなくても、完全アウェーなライブハウスほど不安でしんどい空間は無いというのは俺が一番分かってるつもりなので、俺は出来るだけ皆と話す時間を多くとることに徹したつもりだった。果たして来てくれた人は楽しく過ごせていただろうか?

次々と共演者達のライブが繰り広げられ、俺はあくまでもトリに控える自分のライブへの意識を高めながらそれらを見ていたのだが、4番目に出て来た福岡の大先輩バンド「ノンフィクション」のアクトに完全にやられてしまった。

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うーんやはり写真では微塵も伝わらない。北九州で誕生し数々のステージを経て練度を上げまくったノンフィクションの熱量。伝わってくるエモーションは確実に本物なのに、同時に限りなくクレバーなステージ回し。絶対的な経験の差を見せ付けられながら、俺は福岡の先輩に向かって夢中で拳を突き上げていた。

その後ハタさんも素晴らしいアクトを見せた。ノンフィクションで上がり切った場のテンションを保ちつつも、その熱を静かでパーマネントな物に変えていく。ハタさんのステージ作りのおかげで、俺のライブへの準備は完璧に整った。

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本番

後々訊くところによると俺がイベントのトリだったのは消去法でも何でもなく意図した物だったらしい。俺は初めての東京で、これからイベントの締めという大きな仕事を全うしなければならない事に武者震いしていた。セッティングを終え、撤収に向けて荷物が引き払われた楽屋で1人何度か大声を出す。今までの集大成とも言えるライブをしなければ笑って帰れない。

大丈夫。自信はある。

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「福岡市中央区清川Uteroよりやって参りました。左手と申します。」

噛まないように何度も練習したこの台詞で俺のステージは始まった。
幕の関係で全体の3分の2程度しか使えないステージングははかなか難儀な物だったが、お客さんが進んで前に出て来てくれた事で、こっちは別に動き回らなくて良かった。俺の歌を聴いてくれてる皆の顔は、1人残らずバッチリ見えたから。

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ステージから見た光景は夢のようだった。ドラゴンボールで孫悟空が魔人ブウと闘うのを、これまでの好敵手達が固唾を飲んで見守るシーンのよう。

前列で一瞬たりとも目を離さず俺のパフォーマンスを見守ってくれる、同じボカロPやミュージシャン、その他色んな創作をしている仲間達がいる。歌いながら、彼ら一人一人との色んな思い出が脳裏をよぎっていく。

泣きそうだった。それぞれの場所で主人公になる事をライフワークにしている人達が、同じ主人公であるというシンパシーに溢れた表情で、今は俺だけを主人公として見てくれている。

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それと同じかそれ以上の熱量で声援を飛ばす、いつも俺の曲を聴いてくれるリスナーの皆。その後ろに、初めて俺のライブを見るお客さんや、対バンの先輩方。

デミヒューマン・エチュードで、柄にも無く「一緒に歌ってくれ!」なんて叫んだ時も、皆本当にサビを一緒に歌ってくれた。気分はまるでノエル・ギャラガーだったよ。

あの時の俺は不安や心配を一切振り払って、自分がミュージシャンである事への誇りを爆発させていたと思う。アンコールまでやらせてくれて本当にありがとう。持って行ったニューアルバムも完売したしな。

冗談抜きで、今までの音楽活動で一番楽しかった。

セットリスト
1.瞳
2.面と向かって
3.おやすみの民
4.抱いていて
5.前線芸術
6.デミヒューマン・エチュード
Encore. ガールズドラゴンロード

2019.12.17

ライブが終わった後の夜はKichiに戻り、主催の坂梨さん、ノンフィクションのメンバー、ハタさん、俺、何人かのお客さんで小さな打ち上げを開いた。それぞれゆかりのある福岡の話や、なつかしいバンドの話...お店の切り盛りやイベントの準備でてんてこ舞いだった坂梨さんが肩の荷を下ろして楽しそうに笑っているのが、なんだか嬉しかった。

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次の朝目覚めると雨が降っていた。荷物を郵便局へ預け、最後の朝ごはんに美味しいパンやコロッケを食べた。

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3日余り色々なお世話をしてくださった坂梨さんとお別れするのは名残惜しい。でもボーッとしていた俺は、握手を求めて手を差し出した坂梨さんに「あ、ありがとうございます。」と自分が出したゴミを預けてしまい、ハタさん達の爆笑を買った。(坂梨さんとは改めて固い握手を交わした)

雨が止むとともに、俺達は出発した。

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俺はこの先も音楽をやるし、勿論自分の立ち位置にはまだまだ満足していない。でも俺はこれまで自分の地力を信じてやって来た活動の歴史に立てる一つのマイルストーンとして、今回のライブを一生忘れないと思う。

改めて今回のライブに誘ってくださった坂梨さん、共演者の皆、Planet Kのスタッフさん、関わってくれた全ての方々。
そしてライブを見に来てくれた人達。本当にありがとう。

それと、この文章を最後まで読んでくれたあなたにも感謝したい。もし良かったら、次は実際にライブを見に来てくれたらいいな。

創作は歴史だ。俺はこれからも地道に自分の歴史を増やして、自信と哲学を培いながら、目指す場所に向かって音楽を作り続けていく。

これからも、左手をどうぞよろしく。

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