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この前見た夢。


真夜中の都市、不思議なことに誰もいないこの街で、俺達は理由を知らされず2つのチームに分かれて殺し合いをしていた。
殺し合いの理由を知っているのは2チームそれぞれのリーダーだけ。俺のチームを束ねる櫻井翔と、敵チームの綾野剛だ。

チームは5,6人ほどで構成されていた。俺達はまるで戦隊ヒーローのコスプレみたいな格好で、各々武器を持っている。たしか櫻井翔が光線銃、俺はトンファーだった。

「ここは敵の陣地だ。見つかるまでは皆で行動しよう。不利な状況になったら、僕の合図で単独行動に移るんだ。」

櫻井翔の指示通り、俺らは固まって身を潜めながら敵を探す。それぞれの持ち場に散らばっている敵チームのメンバーを、1人ずつ確実に倒していこうというのだ。

しかしその作戦はいとも簡単に破られた。綾野剛はこちらの出方を読んでいたのだ。忍び込んだ学校の校舎の中で俺達の居場所はすぐさま捉えられ、学校中に警報音が鳴り響く。

櫻井は焦って半ば反射的に単独行動の指示を出すが、壁に囲まれた場所な上に、敵チームはあらかじめメンバーごとにマークする対象を決めており、上手く逃げられない。

武器の相性を考慮したのか、俺を追うのはリーダーの綾野剛。肉弾戦のスキルは敵チームで1番高い。最悪だ。

逃げ回る内に行き止まりになった。仕方がない。俺は意を決して綾野剛と対峙した。

綾野は「シャッ!!」という声とともに両手のナイフで俺を追い詰める。俺もそれなりに応戦したが、流石の身のこなし。首筋にナイフを突き立てられてしまった。

「武器を捨てろ。」

背筋を凍らせる綾野剛の声に俺は戦意を喪失。叩き込まれた多目的教室には敵チームの面々と、俺と同じように戦闘に敗れた仲間達全員が放り込まれていた。全員、敵の能力で手足を縛られている。俺もすぐそうされた。

「これで全員か。」綾野剛がメンバーに確認する。この場所は敵チームの拠点のようだった。

「そうみたーい。なーんか拍子抜けじゃんねー。」乱雑に並べられた机の上に寝そべりながら答えるのは敵メンバーの紅一点。長くない髪を無理やり束ねたツインテールが特徴の、中学2年生程の女の子だ。彼女は綾野の質問に答えながらも何やらPCのキーボードを常に叩いている。見た目に反して参謀のような存在なのだろうか。

「ここからのやり方はお前が勝手に決めろ。俺は例の物さえ手に入ればいい。」

ツインテールに綾野が吐き捨てる。

「うーーん、ねぇ敵さん、しょーーーじきに答えてね!この戦争の目的、櫻井ちゃん以外は知らされてないんだよねぇ?」

「皆、答えなくていい。...お前らに話すことなんか何も無い!」

櫻井翔がこの期に及んで勇敢な姿勢を見せた。

「ふーーん......。やっぱり知らないんだ。じゃあーーー、邪魔されるとダルいし、色々知ってる櫻井ちゃんだけ先に殺しちゃおっか。剛ちゃん、おねがーい!」

ツインテールが言い放つと、綾野剛はゆっくりと櫻井に近寄る。教室にガタ、ガタ、と木製の床をブーツで踏み締める音だけがこだました。それは櫻井の処刑時刻に向かう秒針の音のようで、俺を含めた味方全員は固唾を飲んでそれを聞く事しか出来なかった。

「あっ!えっ、えーーっとね!僕は実は知らないんだ!!」

途端、櫻井の態度が急変した。自分が殺される段になり怖気付いたのであろう。つい先程までの勇敢な眼差しは、とうに消えている。

「へへへまいったな〜俺さ〜皆から押し付けられてリーダーになったもんで、本当の事は何も知らないんだよね。あっ、あいつ、あいつじゃね?!あいつが全部知ってると思うんだけど!」

「そんな!私は何も!」

呆れた事に、櫻井は味方に濡れ衣を着せ始めた。櫻井に指をさされ、味方の1人が慌てふためく。

「無駄だ。」

全てを見透かすように、綾野剛のナイフの切っ先が櫻井の首筋に少しずつ近付いてゆく。櫻井は「ちょっ、ちょちょちょっと待って!な?一旦落ち着こ!な?な?」と命乞いをし始める。いまやこの教室に、櫻井翔への憐憫の念を抱く者は1人もいない。

しかし俺だけはこの状況に於いて、全ての希望を捨てているわけでもなかった。この最悪な事態を打破するヒントを最期の瞬間まで探すべしと、縛られた身体で必死に辺りを見回していた。

そうだ...。あのツインテールがいじくるPC、その画面を覗き見る事が出来れば、何か解決策が見つかるかもしれない!俺が今這いつくばっている位置は、頑張ればギリギリそれが出来る。俺は敵に悟られぬようにゆっくりと体勢を変えた。

もう少し、もう少しだ!先刻綾野剛に敗北し既にボロボロの全身が悲鳴を上げるのも厭わず、俺は身をよじらせた。
見えた...!この場所の仕組み、敵の能力、そして、この戦争の目的。何でもいい、少しでもいいから、俺に盗み見させてくれ...!













ツインテールの女が叩くPCの画面には、かわいいウサギのほのぼのとした動画が流れ続けるだけだった。


fin.

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