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ポストコロナの世界:社会の既知と未知について考える 〜第二回:ホテルや現代アートの今とこれからについて〜

はじめに

コロナ禍を通して新しい社会について議論していく記事シリーズです。
記事中のディスカッションの登場人物については第一回記事で紹介しています。
https://note.com/akirashuei/n/n5df543af16d6

第二回となる今回は、でご紹介したメンバーに加えて、気鋭のホテルプロデューサー龍崎翔子さんと、現代美術家のスクリプカリウ落合安奈さんを迎えて、今回のコロナ禍によるホテルや現代アートの現状を伺いました。

そしてそれぞれの業界における、お二人が考える今ある問題点から、あるべき業界の未来の形について語っていただきました。そのZOOMでの議論の内容をまとめたものになります。

ゲストプロフィール

龍崎翔子
1996年2月9日生まれ。東京大学卒。気鋭のホテルプロデューサー。19歳の時、母親と共にL&Gグローバルビジネスを設立。「ソーシャルホテル」をコンセプトに掲げ、東京大学在学中から数々のホテルをプロデュースしてきた。コロナ禍によって家に居場所がない人たちのために「HOTEL SHELTER」プロジェクトを立ち上げた。

スクリプカリウ落合安奈
1992年生まれ。現代美術家。東京都美術館、スパイラル、ベトナムのホイアン(世界遺産)、フランスのシャンボール城(世界遺産)など国内外で作品を発表。「土地と人の結びつき」について研究を行い、「時間や距離、土地や民族を超えて物事が触れ合い、地続きになる瞬間」を紡ぐ。2016年に東京藝術大学大学油画専攻首席、美術学部総代として卒業。同大学院博士後期課程美術専攻彫刻に在学中。

現状のホテルの状況について

龍崎さん(以下敬称略):
身体性を伴った観光が現状では不可能なので、持っているホテルのリソースを「人が個別に入れる部屋」などとして捉え直しています。観光業からケアサービス、不動産業などへのシフトを進めています。

ホテル業界で、フルリモートができうる環境にある人は3割程度(本部人員や広報など)です。当然、できていない人はコロナウイルスのリスクに晒されることになります。

リモートができている人でも、新たな不安やストレスを抱えているのではないでしょうか。それに対して業界に対して答えていくかが重要だと考えています。

現状にある大きな需要をしっかり掘り起こし、業界自体が連帯して対応していければいいのではないでしょうか。

今取り組まれているシェルターについて:

龍崎さんは今、ホテルをシェルターとして活用される取り組みをされています。

新型コロナウィルスの感染拡大によって外出自粛を余儀なくされる日々。しかし、家が全ての人にとって安全な場所であるとはかぎりません。ウィルスだけではなく、あなたの安全を脅かす全てのものから、あなたを守るホテル「ホテルシェルター」が生まれます。

https://www.hotel-shelter.net/

龍崎:
家にいるのがベストな選択肢ではない方が一定数いると思っています。
それは家庭内暴力(DV)を受けてしまう方や、お子さんが家にいることで打ち合わせや電話会議などの仕事がしにくい方、プライバシーがない/ずっといることのストレスなどを抱えている方々です。

そうした方々の家から出たいというニーズを、ホテルをアパート代わりに使うことで、ホテル業者全体で連帯して行けないか、と考えたところからスタートしました。現在150社に参画していただいています。

また、自治体のネカフェ難民・医療参加者への宿泊提供の予約導線が悪い
と感じており、イケてるシステムを構築して提供したいと考えています。

新型コロナウイルスの感染者への避難所としてのホテルに対する偏見や、レギュレーションは厳しく、一般の濃厚接触者は旅館業法的にもあまり受け入れられない状況があります。そうした中で、濃厚接触者の自己隔離が難しいという現状があります。そうした方々へのソリューションも考えて行きたいと思っています。

現代美術界への影響について

落合さん(以下敬称略):
美術館・ギャラリーなどは、美術家にとっては作品を発表する重要な場です。コロナ禍によって、作家が作品を提示する機会が失われ、また売買することも難しい状態が続いています。
東京都の支援予算は現状5億円だけ(2020年5月末日時点)、かつ東京都のもつwebページに動画が掲載されるというなんとも微妙な内容です。
そして採用者に関する判断基準の曖昧さが問題です。また、今回の制度では、作品や作家性に意図していない色がついてしまう可能性があり、支援は必要だが応募しにくい、というアーティストも多いです。

支援事業自体が立ち上がったのはとても重要なことですが、プロで芸術文化の活動をする中にも、様々な層があります。今回の支援事業は、一見全員に開かれているように見えても、その中の一部の層にしか行き届かないような制度設計になっているように感じます。


井上:
様々なメディアを使って作品を紹介するなど、今ならではの対策はないか?

落合:
美術は基本的に、実物を見てもらって作品が完結するものであると思っています。意図的に物質性を伴わないデジタル作品・映像作品や元々オンライン上での鑑賞を前提に作られた作品などは別ですが。

もちろん、この状況下において、アートの意味や表現方法を移行していく必要があるのかもしれませんが、全員が移行する必要はないのではないかと思っています。多くのアーティストが、現状を静かに見つめている状態にあります。制度や表現のテーマを変えるべきか否かの難しい議論がなされています。人数制限をして美術館を再開したり、自宅にアートに届けるという提案もありますが、現状ではアートの露出機会は非常に閉じられています。

占部:
現代アートだけで食べていける人の数はどれくらいでしょうか?

落合:
ごくごく一部です。例えば映像作家が技術を生かして作品とは別の映像の仕事をするなどで生計を立てている方もいますが、作家活動だけで生計を立てている方は少ない。

また、美術教育が軽視されている日本では、鑑賞者が育ちにくいことが大き
な問題です。そもそも、アートの性質の側面の一つとして問題提起や、既存の価値観を壊すことや、新しいものの見方を提案するという面があるので、現状の行政との相性があまり良くないと思っています。アートのそういった側面の意義を受け止め、支援することこそが文化を育てることだと思うのですが、現実はなかなか厳しいです。

コロナ禍による影響が1ヶ月や2ヶ月の期間なら自分を見つめ直すのにいいのかもしれませんが、この状況が1年~数年続くとすれば、生活をどうしていくのかを考
えて行かねばなりません。

澤:
少し、音楽にも関わっていた時期がありますが、音楽の場合には演奏で稼げる人は少なく、ほとんどは音楽系はオーケストラなどで年次が高い人はオンラインレッスンなどで生計を立てています。る人もいるが、若手は厳しいと聞きます。アートは人に教える、などの別の稼ぎ方や手段はあるのでしょうか?

落合:
美術においても同じ状況があり、主に美術予備校の講師をする場合が多いのですが、カメラを通した映像や画像ではディティールや質感がわからない
など、リモートでやるには弊害は多いと思います。美術業界でも、ある程度クオリティが落ちる可能性がありますが、稼ぐ方法はあるかもしれないです。

澤:
ちょうど、シェルターとしてのホテルの議論がなされていましたが、例えば、ホテルや他の場所に分散して展示するなど、新しい方法はないのでしょうか?個室でのレッスンなど、質感を維持できるような展示など、新しいあり方はできるのではと思います。?
鑑賞自体は、そもそも人に会いに行くわけではないので、もう少し緩やかに考えられるように思います。

落合:
個室でのレッスンの場合、換気などの問題があると思います。何かしらの透
明なカーテンや壁状のもので空間を区切れれば、個室レッスンも可能性があるかもしれません。美術作品の鑑賞に関してホテルと結びつけて考えてみると、キャンピングカーのように、展示されている部屋ごと移動するというのは何か可能性が見出せるかもしれません。

X:
アートとデザインは、いい意味で整理して捉えることが大切な気がします。アートを志向するアーティストはマーケタビリティ、つまり売れる・売れないという軸を気にせず創作に打ち込む方々と思っています。マーケット志向する人はデザイナーと呼ばれるではないでしょうか。

コロナ禍によって、アート鑑賞にまつわる問題が顕在化していると思っています。三密の状態でアートを鑑賞するのがそもそも正しいのか?という問題です。

そもそも、作品に人が群がっている鑑賞体験は正しいのか?という問いがあります。有名作品がくると、作品を見ている自分に酔っているような方々も散見されます。美術館としては、お金のための展示と、問題提起の展示を使い分けていると思いますが、会場の環境としてはよろしくないと思っています。本来、距離をとって静かに向き合えるほうが芸術の鑑賞にとっていいのではないでしょうか。

落合:
日本ではアートの裾野自体が狭いので、美術館としてはどんな人でもきて欲しいという側面があるのは確かだと思います。
アーティストとして、たとえ生活がままならなくなっても自分のやりたい表現だけを貫くと最初は考えていても、それだけでは作り続けることも、生きることさえ難しくなり、コレクションしやすい平面作品のパッケージにも取り組みつつその中で自分のやりたい表現をやる、という二足の草鞋を履く場合が多いと思います。

もちろん自身の全ての作品には責任を持ちますが、コレクションしやすい作品とそうでない作品を意図的にわけて作ることはあると思います。

美術館は展覧会の解説映像をUPしていたり様々な形でアーティストや鑑賞体験を支援していますが、行政の対策としては、幅広くみんなに平等に経済的支援が行き渡ることが重要なのではないかと思っています。

周栄:
アート、音楽、演劇など、身体性のある芸術によって救われる人もいて、そこが奪われている状況は非常に悩ましい自体だと思います。

井上:
今のようなコロナ禍による物理的な制限があるからこそ生まれるイノベーションはあるのでは?

落合:
もともとインターネットとアートの文脈を踏まえた作品制作をしていた人の中には現在の状況だからこそ意味を持ってくる作品を発表し始めているのを目にします。

そうではないジャンルのアーティストの中には、宅配サービースやコピー機のプリントサービスを活用した活動などがいくつか見受けられます。

多くの作家が年単位の影響が続くと厳しいと思います。コロナの前と後では時代の文脈が変化し、作品を構築する概念が古くなってしまうこともあって、延期されてしまった展示会の根本的な価値が揺らいでしまう場合も考えられます。

藤井:
このコロナの鬱屈としたエネルギーがアートにもたらす影響にも興味があります。時間制のチケットなどが増えたりするのではないでしょうか。制限のある中でのイノベーションの面白さはあるかと思います。

落合:
アーティストがこれから生み出すものには、大きな変化があると思います。
もちろん、発表形態の革新も生まれてくると思いますが、根本的にアート全体がコロナ前の世界には戻れない分、これからの世界に必要な作品とは何なのかを深く考えている時期だと思います。
美術館やギャラリーでは、緊急事態宣言前から鑑賞日時の予約制の動きがあり、解除後もこの動きはしばらく続くのではないかと思います。

周栄:
コロナによって時間と空間の価値が変化し、却って希少性が増加しているとも考えられるかもしれません。

藤井:
価値交換のベースに基づいた新しい経済圏が生まれそうですね。

アートとホテルの関係性/仮想現実について

龍崎:
身体性を拡張するプラットフォームを考えています。
アートをコンセプトにした素敵なホテルはたくさんあるのですが、ホテルの中でアートを鑑賞するホテルを"私たちが"作るというアイディアに関しては個人的にあまりハマっていません。どうしてもリアリティの部分でギャップがあるなと感じてしまいます。

落合:
アートホテルとは何か?と考えたときに、コレクターの感覚に近いのではないかと思います。アートに生活が囲まれている状況は、コレクターの生活におけるそれに近いと思います。
アートホテルというものは移動とセットなのでいまの状況下では難しいものがありますが。

井上:
石見銀山の群言堂の事例を見ると、もともと松場親子がつくり、選んだ、質のいい服や雑貨などを販売しています。古民家を改修した旅館では、それらを体感して、お店で買うことができる体験があります。

X:
旅館業・観光業は、お客さんにたくさん来てもらわねばならないため、宿として様々なコンテンツ勝負していると思います。
アートとエクスペリエンス・身体性・五感で体感する、ということを、雑多なものと統合しつつ大切にしながら旅館やホテルにインストールできればいいのですが、そうでない場合が多いと思っています。

龍崎:
ホテルにおいて、アートをコンセプトにするという感覚が自分の中であまり腑におちません。
アート自体が非常に多様である中で、アートをコンセプトにすえることは個人的にはなんだか薄っぺらく感じてしまいます。表現したいコンセプトや伝えたいメッセージがあり、その結果としてアートがある、といった形が個人的にはしっくり来ます。

X:
AR・VR・MRがリアルの身体性を凌駕するような体験になってくるかもしれません。そうなったときにホテルやアートの世界はどうなってくると思いますか?

龍崎:
VRが発展してもあくまで一選択肢になるだけで、実際の身体性の体験が失われることはないのではと思っています。リアルの体験全てを置き換えることはないのでは。

落合:
VR・ARなどはリアルの代替というより、別分野として考えています。一方で、いまの状況下では、リアルに近づけていく、というインセンティブがあると思います。

龍崎:
修学旅行に行けなくなった海外の学生が、インターネット上のゲームの中で時間軸を無視した古代ローマにいって体験する、などの事例があるのですが、タイムトラベルなど、別の体験として成立するのではと思っています。
VRはVRとして発展するが、別の時間軸や別の世界線としてリアルと違う発展をしていくのではないかと考えています。

今後のホテルについて

龍崎:
もともと不動産価値が低い、物件自体に価値がない地方のビジネスホテルは厳しくなっていくのではないでしょうか。

インフラとしてのホテルかコンテンツとしてのホテルのどちらかに2極化していくのではと考えています。
ホテル業界はもはやオリンピックについてはあまりあてにしていません。
宿泊代金がコロナ前に戻るとも考えられません。
オリンピックの効果が政府のプロパガンダ的に使われることはあれど、実際のホテル業界に影響をもたらすことはないと考えています。


以上、龍崎さんと落合さんを迎えてのZOOMでのディスカッションでした。

アフタートーク

井上さん:
いまだに日本では、社長個人が法人の債務について連帯保証しており、世界からも遅れている。変化に対応しにくいと思います。

澤さん:
短期的には金を配るという施策になってますが、ポストコロナに即した仕事を作るということが大切だということですね。そういう中で、井上さんの話は、日本におけるリスクマネー供給がないのが問題なのではないかという気づきですね。コロナ禍を、これまで違和感があった、こうあるべきなのにそうなっていない、というものを正す機会にすべきだと思っています。

金融機関がもっと仕事をして、中小の個人保証などを外していければいい。失敗を認める社会構造への変革が必要です。東日本大震災の時にすべきだったことに、全世界的に起こったコロナによって改めて取り組むべきタイミングだと思います。アフターコロナの世界に向けてあるべき世界観を作っていくべきです。

増える自殺者などに対する対応

藤井さん:
お金が原因で自殺するというのは、お金の仲介機能という意味から考えてもおかしい。社会や人との関係性の中で絶望してしまうのだろう。

そうした状況を防ぐ意味でも、円という枠組みと違った新しい価値交換の仕組みが創造されても良いかもしれない。そうすれば、円滑な人のマッチングは可能なのではないか?金銭的なもの以上に、社会的意義、仕事上の意義を感じれる仕組みが必要ではないかと思います。


以上が、「ポストコロナの世界:社会の既知と未知について考える」ディスカッションシリーズの第3回目の内容の書き起こしでした。

次回は、交通業界の方を招いてのディスカッションとなります。

メンバー一同、引き続き、社会の解像度を上げるような会にしていきたいと思っています。どうぞお楽しみに。


周栄 行


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