ミライの話

勤め先のタクシー会社にトヨタの新型MIRAIがタクシーとして導入された。

MIRAIとは水素を燃料とする燃料電池車(Fuel Cell Vehicle、以下FCV)で、タクシーとしての導入は福島県内初だそうだ。昨年導入されるはずが諸々の事情で延期となり、日本初とならなくて残念。社長は発売と同時に買う気マンマンだったのに。
乗ってみるとめっちゃ静かで、馬力もあり、(水素を積んでるから安全対策として)頑丈だし、VIPの送迎用に向いてると思う。

なぜFCVがエコかというと、ガソリン車はガソリンが持っているエネルギーの一部しか動力に使えない(大部分は熱で逃げていく)のに対して、FCVはエネルギー変換効率が良いから。しかも太陽光などの再生可能エネルギーで水素を生成すれば移動に関してゼロ・カーボンが達成できる。さらにさらに、FCVは水素を酸素と結合させてエネルギーを取り出すので、走行中に水しか排出せずNOxやSOxなど排気ガスの問題も無い。

じゃあ薔薇色の技術かというとさにあらず。鶏が先か卵が先かで、水素ステーションが無いとFCVは普及しないし、FCVが普及しないと水素ステーションはビジネスとして成り立たないから建築が進まない。なかなかやっかいな問題だ。

ちなみに、鶏と卵問題は経済学では補完材とかネットワーク効果とかと呼ばれる。普及すればするほど便利になるし、普及しなければ便利にならない。大学院時代の授業で先生が「FAXを一番先に導入した奴ってバカだよな。だってそれを導入しても誰もFAXを受け取ってくれないんだから」 (学生一同:確かに。。。) 「じゃあ誰が最初に導入したと思う?」 (学生一同:分からん、、、) 「新聞社だよ。いち早く正確に情報を伝えるのにFAXが便利だった。それまでは電話で口頭で伝えて、間違いが無いか確認して、というのをしていた。それが文字で情報を伝えられるという便利さに飛びついた」 (学生一同:なるほど~。) 「当初のFAXは高くて、他に受信できる人のいない不便な機械だったにも関わらずだ。そうやってネットワーク効果のあるものの普及初期を克服した例はたくさんある」とのこと。

自動車産業、ひいては日本の経済は分水嶺に立たされている。FCVが勝つか、EV(Electric Vehicle)が勝つか。
EVが勝てば、これまでの日本の自動車メーカーが築き上げてきた財産が無くなる。それぞれの部品がインタラクティブで、綿密なすり合わせで設計されてきた統合型の機械が、簡単に組み上がるモジュラー型に駆逐されるから。そうなると日本企業の優位性が失われ、家電が辿った道と同じように中国メーカー等の安価な商品が普及する。そして自動車はApple率いるスマホ産業の付属物になるだろう。
そういう意味でトヨタが最初のFCVにMIRAIと名付けたのはセンスがあると思う。
プリウスだって最初は見向きもされなかったけど、ディカプリオが乗り始めてから普及したというのが僕の印象だ。日本の未来を背負っているMIRAIも上手く軌道に乗ってほしい。道のりは非常に厳しいけど。




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