これからのトリコロールを語ろう。「横浜F・マリノスのフィロソフィー」を読み解く
akira(@akiras21_)です。
2022年1月9日にシーズン新体制発表会が行われ、横浜F・マリノスというプロサッカークラブにとって非常に大きな概念が公開されました。「横浜F・マリノスのフィロソフィー」です。
横浜マリノス株式会社FRM事業部 永井さんによるnote(「フィロソフィー」項を参照)を読むと、このフィロソフィー策定の過程においては膨大な時間と要件整理、そしてそれらの精査が行われていることが分かります。それらを踏まえて、横浜F・マリノスというクラブの過去30年間を振り返り、かつ将来の自分たちに向けて大きく宣言しているのがこのフィロソフィーではないでしょうか。
発表されて以来、このフィロソフィーについて考えたり語ったりするマリノスサポーターがtwitter上でちらほら見られます。そこでわたしも自分なりに各要素をざっと読み解いて、“これからの横浜F・マリノス”を探ってみたいと思います。
フィロソフィーは「MISSION 」「VISION」「VALUE」「CULTURE」と4つの大きな項目から成っていますが、以下ではこれらを「MISSION / VISION」と「VALUE / CULTURE」の2組に分けて見ていきます。ちなみにわたしの中ではそれぞれ、
MISSION / VISION=あるべき姿(TO BE的)
VALUE / CULTURE=すべきこと(TO DO的)
と捉えています。それじゃ早速いってみよう。
MISSION / VISION:“あるべき姿”の言語化
ミッション(MISSION)とビジョン(VISION)。それぞれ注釈が付けられていますが、これらをより大まかに表現すると「横浜F・マリノスの“あるべき姿”の言語化」と言えるのではないかと考えられます。
“あるべき姿”、言い換えるなら“こうありたいと考える姿”のスケールに応じてその程度が変わりますが、ミッションとビジョンはあらゆる領域を包み込むために概念的である一方で、どこかしっくりとくる、人々に訴えかける何かを持つことが求められます。
そう、簡潔なように見えて実はとても含蓄のあるものなんです。今回マリノスが自らに定めたミッションにもそれが表れています。
“喜怒哀楽”。
プロスポーツクラブにとって、ありそうでなかったステートメントではないでしょうか。
スポーツの醍醐味のひとつ、というか原点であり頂点でもある要素として「感情の変化」があります。選手たちがプレーに込める感情、わたしたちがプレーから受け取る感情のそれぞれが作用し合い、グラウンドやスタジアムが熱気に包まれ、世に言う“筋書きのないドラマ”が生まれます。わたしたちはここに魅了され、スポーツを好きになっていきます。
こんなふうに書くとポジティブな面がクローズアップされがちですが…ちょっと待って。スタジアムで生まれるのはポジティブな感情だけなのかというと、実際はそんなことはありません。
因縁のある対戦相手にはブーイングが浴びせられ、ラフプレーには怒号が飛ぶ。試合に負けた瞬間、目標達成が叶わなくなった瞬間の何とも形容し難い無念さに襲われる。時には「こんな思いは一度きりでごめんだ」と思わされるようなことだってあります。
ただ、それらも含めて「感情の変化」。わたしたちが人間臭く、人間らしくいられる空間を提供するのがこれからのマリノスのミッションであり、パーパス(存在意義)であると定めています。中でもどうありたいかというと、
“夢”と“活力”。
“希望”という出発点・目標地点ではなく、今にも動き出しそうな、むしろ「動き出せ!」と人々の背中を押すような、日々の暮らしに“活力”をもたらす存在になろう…というのが、横浜F・マリノスの新たなビジョンなのです。
改めて、プロスポーツクラブにとってありそうでなかったステートメントではないでしょうか。
VALUE / CULTURE:“すべきこと”の言語化
“あるべき姿”を支えるのは実際の行動。ということで、バリュー(VALUE、基準)とカルチャー(CULTURE、文化)という「“すべきこと”の言語化」も行われています。
マリノスがマリノスらしくあるための要素として、可視化されやすかったり連想しやすかったりする要素です。「この要素のこういうところはマリノスっぽいね」というのを大まかに見ていきたいと思います。
VALUE ~私たちの「行動・判断基準」~
まずはバリュー(VALUE、基準)から。目に見えるマリノスらしさを大きめにまとめた3要素です。
マリノス界隈ではすっかりおなじみとなった「Brave & Challenging 勇猛果敢」。勇敢であるだけに留まらず、猛る激烈さをもって挑む姿勢を詰め込んだこの言葉をつくる「CHALLENGING(挑戦)」が、マリノスの行動や判断の基準として用いられることになりました。「より良い存在となるために挑戦しているか?」と自らに問い続けるという意思表示です。
「Brave & Challenging 勇猛果敢」が初めて定められた2018年以降のマリノスが、そして、マリノスの前身である日産自動車サッカー部がかつてそうだったように(※後ほどご紹介します)、これからのマリノスも「挑戦」という軸をもって進んでいく。そのように感じました。
チームプレー、協調性。11人で1チームのサッカーのみならず、チームスポーツには欠かせない要素です。ゆえにマリノス以外のクラブでもしばしば聞かれるキーワードですが、注目したいのは説明文。「大きな目標に向けて」「立ち向かう」ためのチームプレーを求める。ということは、協力して手を取り合わなければならないほど大きな目標を立てていく、そう宣言しているとも取れます。
ここでいう「大きな目標」とは、たとえば国内リーグや国内カップ戦、ひいては国際大会などのタイトルはもちろん、すでに見てきたビジョンやミッションの実現も当てはまるのではないでしょうか。ただ単にタイトルを獲るだけではない。人々に夢と活力を与え、感情を揺さぶることで人間らしさに訴えかけることから社会を変えていく存在になる。そう宣言しているのではないでしょうか。
フェアアクション。スポーツに欠かせないフェアプレーを含めた、より広範な概念でしょう。
試合進行の内外、ピッチの内外、そして地域や国のボーダーを越えてフェアでありたい。30年、50年の間脈々と続いてきた伝統と誇りを胸に、「FAIR PLAY, FAIR SUPPORT」の流れを汲みながら、これからも公明正大に存在感を示し続ける。そういった矜持、覚悟と反省が「フェアアクション」という言葉に込められているようです。
CULTURE ~私たちの「クラブ文化」~
ここからはカルチャー(CULTURE、文化)について。バリューのような判断軸よりも、更に身近なアクションをまとめた5項といえます。
バリュー同様、「Brave & Challenging 勇猛果敢」の構成要素から抽出されたキーワードが筆頭となりました。
ここ10年ほどチーム、フロント共に絶えず何かしら変化に取り組み、時には痛みを重ねながら歩んできました。そうして生まれた感情の変化を引き続き享受するため、「変わることに対して大胆であろう」と明文化したわけです。
変化は成長のため。そんな流れを感じさせる順番です。与えられた変化、必要に迫られた変化だけでなく、自ら主体的に変わろうとする姿勢で取り組むことを示しています。
ここ数年、日本代表や欧州へ羽ばたく選手を毎年のように輩出しているクラブとしても象徴的なキーワードではないでしょうか。向上心を持った選手たちがそれぞれの価値を持ち寄って、一層クラブの価値が高められていく。そんなスパイラルを描いているように思えます。
思いやりと助け合い、言い換えるなら受容する姿勢を求めるということを、挑戦することや主体的であることと同列に並べています。
11人のチームで勝利を目指す上でも互いの意見を尊重=リスペクトすることは大切ですが、電動車椅子サッカーや知的障がい者サッカー(横浜F・マリノスフトゥーロ)などの活動にも重なる部分が多く、社会的意義を感じる要素でもあります。
以降2つのカルチャーは、個人的に「港町らしさ」を感じる要素です。前項に近い部分もありますが、受容に理解を加えた姿勢が「オープンマインド」ではないかと思います。
国際化が進む現在の社会は人々の生活・行動様式が急激に変化しており、組織はこれまで以上に柔軟性が求められる時代。“伝統と誇り”を旧態依然の隠れ蓑ではなく、いつの時代も変わらぬ普遍のものであると確認するために、周囲の変化に対して理解を持つ姿勢を明確に打ち出したのではないでしょうか。
「港町らしさ」と「マリノスらしさ」の両方を感じる、5つ目にして最後のカルチャー項です。
新しいものが最初にやってくる土地柄が転じて、港町は世の中のカルチャーを牽引するイメージへと変化していますが、この街に生まれた日産自動車サッカー部もまた、かつての日本サッカー界において先進的な存在でした。
あらゆるものの先駆けとして日本サッカー界をリードしてきた歴史を原点とし、今一度そこに立ち返って、横浜F・マリノスとして改めて歩みを進めていくこと。
グラウンドに立つ全員に対してチームを引っ張る意識を求めるだけでなく、いちクラブとしても日本サッカー界を引っ張る姿勢を求めること。
22字の短いステートメントにはそんな背景が浮かぶような気がしました。
おわりに
以上、私見を大いに交えながら「横浜F・マリノスのフィロソフィー」を読み解いてみました。省けるところはなるべく省いてるつもりですが、それでもこの分量。わたしたちの横浜F・マリノスはそれだけ膨大な文脈を持ち、多く語れる存在なんだということを改めて感じました。
今回定められたフィロソフィーは、折に触れて思い返すことになります。ピッチ上でのプレーに限らず、社会の一員としての横浜F・マリノスの取り組みからもカルチャーやバリュー、そしてビジョンやミッションが感じられる機会が今後増えていくのではないでしょうか。
2年前のステイホーム期間でごく個人的に整理していたものが、今回こうしてオフィシャルに取り上げられ、かつ公表されたことはとても感慨深いです。「俺たち横浜F・マリノスはこういう存在なんだ」と胸を張って語れる日がいよいよやってきたのです。
このフィロソフィーを起点として、これからの横浜F・マリノスはこれまで以上に多くの文脈を持つことになるでしょう。それがクラブの価値となり、パートナーシップにおける課題解決のタネとなり、ホームタウンである横浜・横須賀・大和や日本の社会全体に影響を与え、人々に感情の変化をもたらす存在となる。そんな未来への第一歩を踏み出したような気がします。
これからも、横浜のトリコロールにご注目ください。
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