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  4-⑮ 同行二人

 左手に広大な土佐湾を望みながら、土佐浜街道を北上した。土佐湾沿いの奈半利と西分、2カ所の温泉でしっかりと休養を取り、海を離れた内陸にある二十九番国分寺を目指した。

 国分寺の境内には、茶堂が設置されていた。自動給茶機が置かれており、お茶やコーヒーを無料で飲むことができた。
 雨と冷たい風で冷え切った体に、熱い飲み物は最高のお接待であり、元気を取り戻すことができた。

 宿泊場所のゲストハウスは、寝室、浴場ともに衛生的で、食事も鰹のタタキ、酢の物、ウツボの唐揚げ、キノコと油揚げの炊き込みご飯•••と、その美味しさが疲れきった体への栄養源となり、明日への活力となった。

 ゲストハウスの40代の夫婦は、数度の遍路を経験した後に北海道から移住し、
旅をする人々の力になるために、昨年ゲストハウスを立ち上げたとの事。これで
、1泊千円とは、これ以上ないお接待ではないだろうか。
 結局、彼は3度の巡礼で3度、このゲストハウスにお世話になった。

 出立の朝、大ぶりの鮭と唐揚げ、金平と漬物入りの手作り弁当のお接待を受けた。

「また寄ってくださいね」 
夫婦はそう言って、1通の手紙を彼に渡した。
 封筒の表に記された宛先は、夫婦のおばあさん••• 三十一番竹林寺近くの茶店で働いているらしい。

「この手紙を渡してくれたらご褒美がもらえるからね!」
 彼は手紙を受け取り、感謝を伝え、竹林寺へ向け歩みを進めた。

 🚶🚶‍♂️🚶ーーー🚶🚶‍♀️🚶‍♂️ーーー🚶🚶‍♂️🚶

「あら、まあ‼︎」
おばあさんは目を輝かせ、にっこりと笑った。
 茶店は遍路客の溜まり場となっているのか、多くのお遍路さんで賑わいを見せていた。彼はおばあさんに案内され、席へと着いた。
 竹林寺の総檜造りの五重の塔が彼の目に映った。

 おばあさんが作りたてのおはぎ3個と
温かい抹茶、そして高知名物のアイスクリンを持ってやって来た。

「お接待やき!内緒やで!」
おばさんは笑いながら彼の肩を叩いて仕事へと戻っていった。彼は、その後ろ姿に頭を下げた。

 お店を辞去する時、おばあさんに3回祈りを唱え、納め札を手渡した。

「また来てなあ〜!」
おばあさんはいつまでも手を振っていた


 青い空、白い砂浜のコントラストが美しい桂浜に立つ坂本龍馬。
 まるで、彼自身も歴史の一部になったかのように、時間を忘れて砂浜に立ち尽くしていた。

 砂浜に身を委ね、空を眺め、波の音を聴き、時の流れに身を任せた。

 浦戸大橋を渡り、対岸の長浜へ向かおうとしたのだが、
「船も出とるんよ!」と、声をかけてくれた老男性の案内で、県営のフェリーに乗り込んだ。わずか600メートルの距離ではあるが、重要なライフラインの一端を担っていると教えてくれた。

 男性は買い物の帰りなのであろうか、袋の中から黒糖饅頭とウーロン茶を取り出し、「お接待やき」と笑った。

 わずか5分の交流であったが、船での遍路という貴重な体験をさせていただいた老男性にお礼の納め札を手渡し、歩みを続けた。


 今や、金剛杖は彼の体の一部となっていた。菅笠に、金剛杖に記されている、
〝同行二人〟の文字。

「遍路中は常に大師様が一緒にいて下さるから、暖かな心を持って大切に歩きなさい。急ぐ必要などない。札所と札所の間こそ遍路なのだよ。花を、雨を、風を
、光を、森を、川を、山を、海を•••歩いて、自然を、すべての命を感じ取りなさい。

 道は、円を描くことで完成するけれど
、縦の糸も横の糸も交わり合わなければ
、真の遍路とは言えない。

 人の世は縦横無尽に張り巡らされた、糸のように絡まりあった縁でできているのだよ。この遍路はあなたにとっての、心の修行。歩いて、感じて、あなた自身の遍路を織りあげなさい」

 彼はふと起き上がり、敷布団の横に置かれたサイドテーブルの上の薬缶から麦茶を注ぎ、一口に飲み干した。
 畳の藺草の匂いが部屋に満ち、疲れきっているはずの彼の身体に、栄養の如く染み込んでいくのが分かる。窓の外にはポッカリと満月が浮かんでいた。

 彼は、窓のすぐ側で座禅を組み、空に浮かぶ満月をじっと見つめていた。

大空翔馬は、今何を想う🥹🥹


 PS•••いつも拙作をお目に留めて頂き
、心より感謝申し上げます🥲次回配信は、2月7日水曜日午前8時です🕗
 何故、翔馬が心の修行を行うに至ったか?その経緯が明かされます。私の遍路経験も踏まえながら、物語は進行します🙏🙏
 それではまたお会いいたしましょう🥺

         AKIRARIKA


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