翔べ君よ大空の彼方へ 3-➊ 対決
「それでは、来月お待ちしています」
翔馬は成田国際空港の出発カウンター前で、フランスに戻る1人の男性と握手を交わした。過去に2度の遠征でお世話になった調教師である。
先月、フランスの大レースを制した翌日に急遽来日、翔馬の師を見送ってから1ヵ月後の事であった。
今回の来日は、5年振りとなる翔馬のフランス遠征について、彼の所属するエージェント、また、遠征をする競走馬のオーナー、調教師との打ち合わせをする為であった。
先月、師の逝去により中田厩舎の解散が決まり、人馬の移籍、転厩についての協議が行われた。
スタッフ12人のうち、2人が朝日師、3人が富士原師、残る6人は新規開業調教師3人の元へと転籍し、競走馬については、ブレストファイヤーが冨士原厩舎、ゲメインシャフトは朝日厩舎、残る競走馬も関西所属調教師の空き馬房に応じて転厩する事になった。
森永師は、人馬の移籍、転厩を正確に把握した上でエージェントと連絡を取り、他に数人の馬主、調教師とも綿密に打ち合わせをした。
翔馬が安田記念を制したその日は、海外でも、驚くべき快挙が達成された日でもあった。翔馬の安田記念制覇は、
〝師に届け!魂の咆哮!〟と、全世界に発信された。
そして、米国では・・・
3歳牡馬第2冠プリークネスSを圧勝したヴァイオレットエヴァーガーデンが、最終の三冠目ベルモントSを、鞍上朝日未来を背に3馬身差の圧勝、2冠を達成し、そのとてつもない快挙は全世界を駆け巡った。
そして、同日のフランス・・・
森永厩舎所属のガルデリネルジェスが5馬身差でフランスダービーを圧勝、翔馬もよく知るロッシ氏に初のクラシックタイトルをプレゼントした。
翔馬はライバルの活躍に背を押され、6月下旬の宝塚記念を、秋の天皇賞馬ユーフォリアー、有馬記念・大阪杯勝ちのコルトガヴァメント、菊花賞馬のハイパーレスキューを相手に、ブレストファイヤーとのコンビでその挑戦を退け、G1連勝を果たした。
ここから、世界の有力馬達の動向が明らかとなり、その驚きが全世界を駆け巡るのである。
まず国内では、G1連勝のブレストファイヤーは、11月上旬に豪州で行われる、南半球最大のG1レースとも呼ばれるメルボルンカップ(芝3200メートル)から有馬記念へ。
ダービー惜敗のゲメインシャフトは、8月中旬に英国で行われるG1、英インターナショナルS(芝2050メートル)に参戦する事が正式決定し、その後、天皇賞秋を経て12月中旬の香港カップ(芝2000メートル)へ。
そして、中田師に最後のトロフィーをプレゼントした安田記念馬、レトロワグラース(牝4歳)は、やはり8月中旬、フランスで行われるジャックルマロワ賞に参戦が決定、これにより翔馬はフランスのジャックルマロワ賞、英国のインターナショナルSと、英仏2カ国への海外遠征が決定した。
そして最大のニュースは、米国二冠馬のヴァイオレットエヴァーガーデンが最大目標を10月上旬、フランスで行われる凱旋門賞に設定し、その前哨戦として、8月中旬の英インターナショナルSに参戦することを表明、それに負けじと凱旋門賞はわが国のものだと意気揚々と立ち塞がるかのように、フランスダービー馬ガルデリネルジェスも凱旋門賞の前哨戦として英インターナショナルSに参戦する事を表明したのだ。
世界の最強馬の集結と、日米の天才騎手の参戦!
これには世界中の競馬ファンが沸き立つのも無理は無い。特にフランスでは5年振りにマジシャンショーマの勇姿が見られる事もあり、この発表がなされた時には、まもなく開催されるパリ五輪を待ちわびる人々も、急ぎ、ドーヴィルに宿泊する為の算段に追われる事になったのである。
翔馬には楽しみもあった。
みんなに会える事、元気になったフェニックス、乗馬に夢中のエリー、そしてあの名牝ムーランルージュの血を受け継ぐレザンドリー、そして世紀の名勝負を演じたサンヴァレリー・・・その子供に乗ってくれ!と、ロッシさんから連絡があった時は本当に嬉しくて、師とワインで乾杯をしたほどだった。
〝連れて行ってあげたかったな・・・。見ててくださいね先生!〟
ほとばしる情熱と、たぎる熱き興奮。
翔馬の前には高き壁への挑戦の道がある。どこまでも続く道が。
PS・・・いつもお目に留めて頂き心より感謝申し上げます🥹🙏次回配信は10月11日水曜日午前8時です。翔馬が5年振りにフランスへ🇫🇷空港で出迎えるのは誰でしょうか🤭それではまたお会いしましょう👋👋
AKIRARIKA
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