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  2-⓯ バレット

 25にもなって、今頃成長期って?・・・大変だなあ・・・。

 翔馬は読み終えた手紙をテーブルの上に置いた。
 少し?食べ過ぎただろうか・・・テレビの横の棚に置いてある薬箱から胃薬を取り出し、口の中に放り込んだ。どうやら、デザート餃子が効いたらしい・・・これでは奴の騎手仲間みたいじゃないかと、苦笑いをする翔馬である。

 騎手は腹八分が鉄則・・・後で、ランニングをしようと決め、スマホで《アメリカのダービー》と検索した翔馬は目を丸くした。

 あいつ・・・なんでもダービーがつけばいいと思ってやがる💢💢
 しかし・・・3週連続重賞Vとは、やはりあいつは凄いな!昨年は西海岸リーディング3位か。あいつ・・・11月のダービーって言ってたな。こっちは6月・・・何とか先に!

 日本とアメリカ・・・主戦場は遠く離れていても、お互いいつかの対戦のために切磋琢磨しあう好敵手。

 負けていられない!

 翔馬はトレーニングウェアに着替え、木馬の置いてあるトレーニングルームに向かった。

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 古馬になり本格化した重賞勝ち馬と、昨年末G1制覇を果たした2頭による豪華追い切りが、栗東トレセンCWコースで行われていた。

 1頭は次走天皇賞春、レース4週前であり体を作っている段階、1頭は2週後の皐月賞に向けての1週前追い切りであった。

 追い切りを終えた2頭が息を弾ませながら翔馬の前に戻ってきた。
 2頭ともいかにも《何かくれ!》と言っているかのように、盛んに前掻きをしている。
 「はいはい、後で厩務員さんにたくさん人参もらいなさいな!」鼻面を撫でながら優しく声をかけ、いそいそと厩舎へ戻る2頭を見送った。

「時計は少し早くなってしまいましたが、競馬に向けて良い感触を掴めました。コーナーリングもスムーズで、2ヶ月の休養で体もだいぶしっかりとしました。相変わらず飛びが大きくて、とにかくパワフル・・・良い馬ですね。皐月賞・・・楽しみです!」

 翔馬は記者にゲメインシャフトの最終追い切りについての質問に答えた。
「大分気性面がマイルドになってきたと思います。イライラする面が薄れてきました。長距離適性は・・・あると思います。残りの期間でしっかりと仕上げれば・・・」

 こちらはグランプリ後、日経新春杯を圧勝した古馬の方のコメントである。


 今日は翔馬の師が不在であった。
精密検査を受けると言うことで、昨日から京都市内の病院に入院している。
 師が入院する事を知った翔馬は非常に困惑したが、3日間だけの入院と聞き、心から安堵した。

 翌日の昼、厩舎に顔を出した翔馬は師に呼ばれ、改めて、以前勧められたフリー転向についての話し合いをした。

 師は翔馬に、エージェント契約をする事、そしてバレットを雇うよう進言した。
 既に現役騎手有数の実績を誇り、今1番乗れている若手騎手ゆえに、数多くのオーナー、厩舎サイドからの信頼は極めて高い。
 エージェント契約をした上で、なおかつ、多くの調教師との意思の疎通を図る事が、翔馬にとってのメリットになるという判断だろう。

 そして、より一層レースに集中できるよう、騎手のサポートをするのがバレットである。
 騎乗するレースの検量の準備、そのレースの負担重量と騎手の体重に合わせて鞍などの馬具を、又、レースごとの勝負服や色帽カバー、ゴーグル、ダート戦で使う砂除け、グローブ等の準備をする。
 そして、レースで使用した馬具のチェックや、ジョッキーパンツの洗濯など、まさに、騎手に寄り添う大切な仕事である。

 バレットを雇う事によって、騎手は安心してレースだけに集中する事ができる。
 既にその人選を済ませているという。
外堀は既に埋められていたのだった。

 師はニヤリと笑った。
「ちゃんと契約してやれよ!お前の役に立つと思うぞ!」
 目の前に現れた人物に翔馬は驚き、目を丸くした。

「先輩、よろしくお願いします!力になれるよう、精一杯務めさせていただきます!」
 凛々しい笑顔で彼は言った。

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